EP 10
【完全論破ざまぁ】お前の力は、誰のものだ?
「な……何をしたァァッ!! 俺の攻撃が……俺の魔剣がぁぁっ!!」
アレスが狂ったように魔剣グラムを振り回す。だが、放たれる赤黒い斬撃は、俺の数メートル手前で霧散し、そよ風に変わる。
進化したスキル【世界編集】の『所有権の書き換え』。
この領域において、俺が「許可」しない事象は、この世に存在することすら許されない。
「無駄だと言ったはずだ、アレス」
俺は一歩、また一歩と、異形の化け物へと成り果てた元・勇者に歩み寄る。
「お前はいつだってそうだったな。勇者という『肩書き』、国から与えられた『装備』、そして今は魔剣という『呪い』。お前自身の力なんて、最初からどこにもなかったんだよ」
「うるさい、うるさいッ!! 俺は勇者だ! 世界に選ばれた最強の男なんだぁぁぁ!!」
アレスが最後の手負いの獣のごとく、魔剣を両手で握りしめ、俺の脳天目がけて跳躍した。
重力と魔剣の呪い、そして『攻撃力99999』の全てを乗せた、渾身の一撃。
だが、俺は避けない。指一本動かさない。
ただ、視界の端に浮かぶシステムウィンドウの一箇所を、意識だけでクリックした。
「【所有権の強制書き換え(Owner: Rikuto)】――対象、その手に持っている『魔剣グラム』」
パリンッ!!
「……ガ、ッ!?」
空中で、アレスの体が不自然に静止した。
彼が握っていた魔剣グラムが、主人の手を拒絶するように激しく脈打ち、真っ赤な高熱を放ったのだ。
「あ、熱い……熱いぃぃぃっ! なんだ、俺の剣だぞ!? 言うことを聞けぇぇっ!!」
『――否。我ガ主ハ、既ニ書キ換エラレタリ』
魔剣から機械的な、だが明確な拒絶の声が響く。
アレスの手を焼き、彼は悲鳴を上げながら魔剣を放り出した。
宙を舞う魔剣は、俺の足元の地面に静かに突き刺さり、その禍々しい瘴気を瞬時に消し去って、俺に従う『大人しい剣』へと変貌した。
「武器を奪われた気分はどうだ? ……次は、お前そのものを整理してやる」
「待て……待ってくれ、リクト……! 俺が悪かった! 謝るから! だからその力で、俺を元に戻してくれ……っ!!」
魔剣から切り離され、急速に元の痩せこけた姿に戻っていくアレスが、地面に這いつくばって俺の靴を舐めるように縋り付いてくる。
だが、俺は冷ややかに、彼の頭上に浮かぶ最後の『定義』を見つめた。
ーーー
【個体名】アレス
【職業】勇者
ーーー
「お前にこの名前は重すぎる」
俺は【世界編集】のカーソルを【職業:勇者】に合わせ、迷わずデリートキーを叩いた。
そして、代わりにこう打ち込む。
カタカタカタ……ターンッ!
ーーー
【職業】大罪人(指名手配犯)
【称号】無能な略奪者
ーーー
「あ……あ、あああああああああああッ!!」
アレスの全身から、王国の加護が剥がれ落ちる音がした。
それと同時に、迷宮の入り口に凄まじい足音が響き渡る。
「いたぞ! 宝物庫を襲撃し、魔剣を奪った大逆人・アレスだ!!」
「包囲せよ! 一歩でも動けば射殺して構わん!!」
駆けつけたのは、血相を変えた王国騎士団の精鋭たち。
彼らの瞳に映っているのは、英雄でも勇者でもない。ただの、醜く震える指名手配犯の姿だ。
「ち、違う! 俺は勇者だ! そいつが、リクトが俺の力を盗んだんだ! 捕まえるのはそっちだろぉぉぉっ!!」
アレスが俺を指差して叫ぶが、騎士たちは一瞥もくれない。
逆に、俺の背後に控える神獣ルナと、高価な魔導具を抱えたクロエ、そして俺が纏う圧倒的なオーラを見て、騎士団長が深々と頭を下げた。
「……リクト殿。賊の確保、感謝いたす。この大罪人は我らが責任を持って、王都の最下層にある、光も届かぬ地下牢獄へと連行しよう」
「ああ、頼むよ。……あ、そうだ」
俺は連行されていくアレスに、最後の一言を投げかけた。
「お前の寿命、あと1時間もないけど……その地下牢で、せいぜい自分の『本当の価値』ってやつを計算してみるんだな。あ、計算用のペンと紙は持ってないか。……雑用係がいなくて残念だったな」
「リクトぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
アレスの断末魔のような叫び声が、迷宮の中に虚しく響き渡り、やがて遠ざかっていった。
静寂が戻る。
「……終わりましたね、ご主人様」
「はいっ! 本当に、スカッとしました!」
ルナとクロエが、晴れやかな笑顔で俺の両脇に並ぶ。
「ああ、ようやく本当に静かになった。……さて、屋敷に帰るか。今日はクロエの歓迎会も兼ねて、特上の肉を焼くぞ」
「わーい! お肉です! わたくし、お野菜もたくさん用意しますね!」
「わたくしも、最高のお酒……じゃなくて、ジュースを錬金します!」
俺たちは肩を並べ、夕焼けに染まる辺境の街へと歩き出した。
世界を敵に回そうが、システムが牙を剥こうが、関係ない。
俺にはこの最高の相棒たちと、世界を自由に書き換える指先がある。
ただの雑用係の、自由すぎるスローライフは、ここからが本当の本番だ。




