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EP 9

哀れな勇者の急襲と、バグったステータス

「ア……あア……見つけタ……見つけタゾォォォォォ、リクトォォォォッ!!」

迷宮の出口、陽光が差し込むゲートの前に立っていたのは、かつての面影を微塵も残さない、異形の化け物だった。

紫色に染まり逆立った髪、黒く濁り狂気を宿した瞳、そして皮膚の下を這い回るような赤黒い血管。

その手には、周囲の空間を腐食させるほどの禍々しい瘴気を放つ、身の丈ほどもある大剣――魔剣グラムが握られていた。

「アレス……? 嘘、なんであんな姿に……っ」

後ろでクロエが恐怖に声を震わせる。ルナは即座に臨戦態勢に入り、俺の前に立ちはだかった。

「……なるほど。俺への逆恨みで、禁忌の力に魂を売ったってわけか」

俺は冷静に、進化したスキル【世界編集ワールド・エディット】を発動させ、アレスのステータスを展開した。

ーーー

【個体名】アレス(魔剣の傀儡)

【職業】狂戦士バーサーカー

【レベル】MAXエラー

【HP】1/1(※魔剣により固定)

【MP】0/0

【攻撃力】99999(暴走)

【防御力】99999(暴走)

【状態異常】理性崩壊、魂の代償(寿命残り:1時間)

ーーー

「……はは、笑えないな」

ウィンドウに表示された数値を見て、俺は乾いた笑いを漏らした。

攻撃力・防御力共に『99999』。これは、世界システムが設定した『個体の限界値』を無理やり突破した、まさにバグのような数値だ。HPが『1』なのは、魔剣が彼の命を吸い尽くし、最後の力を振り絞らせているからだろう。

寿命は残り、わずか1時間。

彼は文字通り、命を燃やして俺を殺しに来たのだ。

「リクトォォォッ! お前ガ……お前ガ悪いンダッ!! 無能ノくせニ、俺ヨリ幸せニなるナ、俺ヨリ強くなるナァァァッ!!」

アレスが魔剣を地面に叩きつけると、それだけで迷宮の出口付近の大地が砕け、亀裂が走った。

「俺ハ……俺ハ選ばれた勇者、この世界ノ主人公センターハ俺ナンダッ!! お前ハ泥水ススって、俺ヲ引き立てていれば良かっタンダァァッ!!」

「ご主人様、下がってください! あいつはもう、話が通じる相手ではありません!」

ルナが白銀のオーラを放ち、飛びかかろうとする。

だが、俺はその肩を掴んで制止した。

「ルナ、下がるのはお前だ」

「え……? でも、あいつの魔力は異常です!」

「ああ、知ってる。……だからこそ、俺がやるんだ」

俺は歩み出て、アレスの正面に立った。

進化したスキル【世界編集】。管理者権限を得たことで、俺は世界の『ルール』そのものに干渉できるようになった。

試してみるには、これ以上ないサンドバッグだ。

「アレス。お前は最後まで、自分の力の源が何なのか、理解できなかったみたいだな」

「うるさイ、うるさイ、うるさイッ!! 死ねェェェッ、無能ガァァァッ!!」

アレスが魔剣グラムを大きく振りかざした。

『攻撃力99999』から放たれる、極大の赤黒い斬撃。それは空間を切り裂き、概念ごと俺を消滅させんと迫り来る。

「ひぃぃっ……!」

「ご主人様ッ!!」

後ろでヒロインたちが悲鳴を上げる。

だが、俺は動かない。

ウィンドウすら展開せず、迫り来る死の斬撃を見つめ、静かに進化したスキルの『新しいメニュー』を選択した。

「【所有権の強制書き換え(Null)】――対象、目の前の『事象(攻撃)』」

パリンッ、と。

ガラスが割れるような音が、脳内に響いた。

次の瞬間。

俺の目の前まで迫っていた、世界を滅ぼしかねない赤黒い斬撃が、突然霧のように拡散し、ただの無害な微風となって俺の髪を揺らした。

「……え?」

「あ……?」

アレスが、そしてルナとクロエが、呆然と固まった。

「な……何ヲ……何ヲしたァァッ!!」

「所有権の書き換えだ。お前が放った攻撃の『所有者』を空白(Null)にした。誰のものでもない攻撃は、世界システムによって『存在しないデータ』として処理される。……ただそれだけだ」

俺は欠伸をしながら、アレスに向かって指を一本立てた。

「さあ、勇者ごっこは終わりだ。……お前のそのハリボテの力、俺が全部『削除デリート』してやる」

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