EP 8
ただの従者じゃない!神狼の真の力と、最強の証明
『グルルル……愚カナ。一度ハ我ノ呪イニ敗レタ欠陥品ガ、人ノ如キ姿デ何ガ出来ルカ』
三ツ首の神獣ケルベロスが、三つの口から同時に嘲笑を漏らす。
その全身から吹き出す紫色の瘴気は、空間そのものを腐らせるほどの猛毒だ。
だが、ルナは一歩も引かない。
彼女はまず、クロエから受け取った小瓶の栓を抜き、中の液体を一気に飲み干した。
「クロエさん、いただきます!」
『――フハハッ! 気休メノ強化薬ナド、我ノ前デハ無意味――』
ケルベロスが嗤いかけた、その次の瞬間。
ドゴォォォォォォォォォォンッ!!!
ルナの体から、迷宮の天井を突き破るほどの凄まじい白銀のオーラが立ち昇った。
『ナッ……!? 何ダ、ソノ異常ナ魔力値ハ!? システムノ限界点ヲ超エテイルゾ!?』
「すごい……! わたくしの失敗作が、本当に……!」
背後でクロエが歓喜の声を上げる。
ルナが飲んだのは、クロエが調合した『失敗作(全能力100倍化・ただし1秒後に肉体崩壊)ポーション』。それを俺が【ステータス編集】で『肉体崩壊のデメリット(バグ)を完全削除』した、正真正銘の神薬だ。
さらに、ルナは両手に『神の爪飾り』を装着した。
ーーー
【名称】ルナ専用・神狼の爪
【耐久度】絶対破壊不可
【特性】あらゆる概念・結界・システム防御を貫通し、対象のデータを直接切断する。
ーーー
「いきます……ッ!」
トンッ、と。
ルナが軽く床を蹴った。ただそれだけで、足元の超硬度な迷宮の床がクレーターのように陥没する。
『消エロ、バグ目ッ!!』
焦りを見せたケルベロスが、三つの口から極大の『神殺しの呪い』のブレスを一斉に放つ。
以前のルナを死の淵まで追いやった、回避不能・防御不能の理不尽なシステム攻撃。
だが、今のルナは避けることすらしない。
彼女は正面からブレスに突っ込み、神の爪飾りを無造作に一閃した。
――パァァァンッ!!
「な……?」
『……バカ、ナ?』
ケルベロスが絶句する。
絶対であるはずの呪いのブレスが、ルナの爪が触れた瞬間に「ただの光の粒子」となって霧散してしまったのだ。
「遅すぎます。そして、弱すぎます」
ルナの声は、すでにケルベロスの懐、ゼロ距離から響いていた。
「ご主人様の『編集』に比べれば、あなたの呪いなど、止まって見える……!」
『ガッ、ギャアアアアアアアッ!?』
白銀の閃光が三度、空間を十字に切り裂く。
【概念貫通】を付与された爪の前に、ケルベロスの強靭な肉体も、システムによる絶対防御も、濡れた紙のように何の意味もなさなかった。
右の首が吹き飛び、左の首が両断され、そして中央の首が、ルナの容赦のない回し蹴りによって粉砕される。
『ア……リエナイ……。世界、ノ……ルール、ガ……』
崩れ落ちるケルベロスの残骸が、ノイズ混じりの紫色のデータへと変換され、そのまま空中に溶けて消えていく。
着地したルナの周囲には、チリ一つ残っていなかった。
完全なる、圧倒的な無傷での勝利。
「……ふぅ」
ルナは小さく息を吐くと、纏っていた白銀のオーラを収め、俺の方へと振り返った。
そして、照れくさそうに、ふさふさの尻尾をパタパタと振る。
「やりました、ご主人様! クロエさん! わたくし、これでご主人様の隣に立っても恥ずかしくありませんか!?」
「ああ。最高に強くて、かっこよかったぞ、ルナ」
俺が歩み寄り、その頭を撫でてやると、ルナは「えへへ……」と目を細めて嬉しそうに喉を鳴らした。
クロエも駆け寄ってきて、「ルナさん、すごかったですぅ!」と抱きついている。
「よし。これで邪魔者もいなくなったし、目的のものを回収するか」
俺は祭壇に浮かぶ『管理者権限の結晶』に手を伸ばした。
結晶は俺の手に触れた瞬間、光の帯となって体内に吸い込まれていく。
【システムメッセージ:管理者権限(セクター09)を完全掌握しました】
【スキル:ステータス編集が『世界編集』へと進化しました】
【新たなメニュー:『所有権の強制書き換え』『広域ルール変更』が解放されました】
「おお……スキルがさらにヤバいことになったな」
これで、世界を相手にしたスローライフ(反逆)も、より盤石なものになる。
目的を完遂し、俺たちは明るい足取りで迷宮を後にしようと、出口のゲートへと向かった。
――だが。
「……ん?」
迷宮の出口から、外の光が差し込むその場所。
そこに、『それ』は立っていた。
「ア……あア……見つけタ……見つけタゾォォォォォ、リクトォォォォッ!!」
禍々しい赤黒い瘴気を撒き散らしながら、瞳を黒く濁らせた異形の化け物が、俺を指差して絶叫している。
「嘘……あの鎧の意匠、まさか……アレス!?」
かつての俺を「無能」と見下し、森に置き去りにした勇者の、見る影もなく堕ち果てた姿だった。




