EP 3
隠された真実と『管理者権限』の奪取
修正者を退けてから、数時間が経過した。
俺は屋敷のソファに横たわり、ルナが淹れてくれたハーブティーを啜っていた。
【疲労回復力】を編集したお茶のおかげで、ボロボロだった神経の痛みはようやく引いてきている。
「ご主人様……本当に、もう大丈夫なのですか?」
隣でルナが、心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。
その金色の瞳には、俺を案じる情愛と、己の無力さを悔むような色が混ざり合っていた。
「ああ、平気だ。それより、さっきの戦いで面白いもんが手に入ってな」
俺は空中に、いつもより重厚な輝きを放つウィンドウを展開した。
そこには、新しく追加された【管理者メニュー(暫定)】という項目が点滅している。
「あの『修正者』って奴を倒したことで、システムの権限を一部ぶんどったみたいだ。これで、今まで見えなかった『世界の裏側』が少しだけ覗けるようになった」
俺は指を滑らせ、ルナのステータス画面を開いた。
以前、彼女を救った時に消去したはずの【状態異常:神殺しの呪い】。そのログ(履歴)にアクセスし、さらに深い階層へと潜っていく。
「……なんだ、これは?」
画面に表示されたのは、おどろおどろしい紫色のコード。
そこには、呪いの『発生源』が記録されていた。
ーーー
【事象発生ログ:セクター09】
【対象:神狼(個体名:ルナ)】
【理由:個体レベルが規定値を超過。世界安定化の妨げとなる恐れあり】
【処置:『神殺しの呪い(システム干渉コード)』を強制付与。存在の消去を推奨】
ーーー
「……世界安定化の……妨げ……?」
俺は言葉を失った。
ルナが死にかけていたあの呪いは、強力な魔物がかけたものでも、不運な事故でもなかった。
この世界を管理するシステムそのものが、「強すぎるから邪魔だ」という勝手な理由で彼女に押し付けた『処刑命令』だったのだ。
「ルナ。お前にあの呪いをかけたのは……魔王でも何でもない。この世界そのものだったんだ」
俺がログの内容を伝えると、ルナは一瞬目を見開き、それから悲しそうに伏せ目がちになった。
「……そうですか。わたくしたち神獣が、いつか人間に害をなすと恐れられているという伝承はありましたが……まさか、世界そのものから拒絶されていたなんて」
震えるルナの肩。
彼女は今まで、何も悪いことをしていない。ただ、この森で誇り高く生きていただけなのに、世界は彼女を「バグ」として処理しようとした。
「……ふざけてるな」
俺の胸の奥で、静かな、だが決して消えない怒りが燃え上がった。
勇者パーティーの連中もそうだった。自分たちに都合が悪い、あるいは理解できない力を「無能」や「バグ」と決めつけ、排除しようとする。
「ルナ。俺は決めたよ」
俺はルナの細い肩を引き寄せ、まっすぐにその瞳を見つめた。
「俺は、世界を救う勇者になんてなるつもりはない。でも、俺たちの居場所を、俺たちの幸せを奪おうとするルール(世界)なら――俺が全部、書き換えてやる」
「ご主人様……」
「これからはスローライフのついでに、この世界にケンカを売る。俺たちの『自由』を認めさせるまでな」
ルナの瞳に、再び光が宿った。
彼女は力強く頷き、俺の胸に顔を埋めた。
「はい……! どこまでも、地の果てまでもお供いたします。世界が敵だというのなら、わたくしも、世界を敵に回しましょう」
【ルナとの絆が深化しました。管理者権限の同調率が上昇します】
脳内に響く声。
だが、決意だけでは足りない。
さっきの戦いで分かった。上位の存在を編集するには、今の俺のMP(魔力)ではあまりに効率が悪すぎる。
「もっと楽に、もっと安く、最強のアイテムを作る方法……」
俺の頭に、一つの職業が浮かんだ。
素材を組み合わせて新たな価値を生み出す、錬金術師。
もし、最高品質の素材を錬金術で作り、それを俺のスキルで『仕上げ』れば、世界システムを欺くためのコストを大幅に削減できるはずだ。
「よし、明日から街へ出よう。腕のいい、信頼できる錬金術師を探すんだ」
こうして、俺の戦いは「生存」から「世界への反逆」へとステージを変えた。
その鍵を握る少女が、街の片隅で借金取りに追われているとも知らずに。




