第11話:【再会:二人の凪 ―凍てついた時間が動き出す時―】
空は重く垂れ込め、かつての新宿の面影はない。
瓦礫の山となった「絶望の二〇四〇年」。駆たちは、ミライの記憶を頼りに、崩落した地下シェルターの最深部へと足を踏み入れた。
「……あそこです。パパが最後に戦った場所」
ミライが指差す先、半分潰れた防空扉の奥に、微かな、だが確かに脈打つ「クロノス」の待機信号があった。
駆が重い扉をこじ開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
埃の舞う冷たい床の上。
ボロボロになり、片腕が欠損した**『先代のクロノス・スーツ』**を、まるで愛しい子供を抱くようにして、一人の女性が横たわっていた。
「……凪」
今の凪よりも少し髪が長く、頬は痩け、瞳の光は枯れ果てている。
だが、その薬指に光る指輪だけは、執念のような輝きを保っていた。
大人の凪(未亡人Ver.)――彼女は、中身のいない空っぽのスーツに寄り添い、眠りについていた。
奇跡の邂逅
駆の足音に、大人の凪が力なく目を開ける。
彼女の視界に映ったのは、二十年前に命を落としたはずの、若き日の夫の姿。
「……ああ。また、意地悪な夢を見てるのね……」
大人の凪は、乾いた唇で自嘲気味に微笑んだ。
「駆さん……。もう、迎えに来てくれたの? それとも、また私を置いて、一人でどこかへ行くの……?」
「……夢じゃない。凪、迎えに来たぞ」
駆は、大人の凪の前に膝をつき、震える手でその冷え切った頬を包み込んだ。
完全体クロノスから溢れる黄金の粒子が、彼女の疲弊した身体に温もりを吹き込んでいく。
「え……? 温かい……。そんな、まさか……」
大人の凪の瞳が、驚愕で見開かれる。
彼女の視線の先には、自分と同じ顔をした「若い頃の自分(凪)」、そして未来、零時、そして……。
「……ママ! ただいま!」
「ミライ……? 生きて、いたの……? それに、零時も……?」
大人の凪の頬を、一筋の涙が伝い落ちた。
彼女が二十年間、ただ一度も零すことのなかった、希望の涙だった。
二人の凪、交わされる想い
今の凪(若凪)が、そっと大人の凪(大人凪)の手を取った。
二人の指輪が触れ合い、因果律が共鳴する。
「……お疲れ様。一人で、この子たちと『愛』を守ってくれて、ありがとう。もう、頑張らなくていいのよ」
「……あなた。……私、ずっと、寂しかった。駆さんがいない世界が、あんなに寒いなんて、知らなかったの……」
大人凪は、若凪の胸に顔を埋め、赤ん坊のように泣きじゃくった。
若凪は、かつて自分が味わうはずだったかもしれない「絶望」を抱きしめるように、優しくその背中をさすり続ける。
駆の誓い
駆は、大人凪が抱きしめていた「先代のスーツ」をそっと預かった。
「凪。……もう一人の俺は、お前の中に生きてる。そして今、俺がここにいる。……お前が守り抜いたこの命、今度は俺が、二倍にして守り抜いてやる」
駆は立ち上がり、右腕を空へ掲げた。
「全員、聞け! この世界の絶望は、今この瞬間をもって終了だ! 家族全員で、この『未来』を、俺たちの住む『現代』へ持ち帰るぞ!!」
「「「「了解ッ!!!」」」」
家族五人(+一人)の叫びが、死に絶えた未来の空を突き抜けた。
絶望の二〇四〇年。
一人の女性の執念が、時を超えて「愛」という名の奇跡を呼び戻した瞬間だった。




