第10話:【鏡合わせの母性:空白の二十年】
渋谷の喧騒が遠のいたTOKIO司令室。
家族五人が揃った静かな夜、駆が、膝を抱えて座るミライに静かに問いかけた。
「……ミライ。お前のいた世界で……俺が死んだ後、あっちの凪はどうなったんだ?」
ミライは、肩を小さく震わせ、消え入りそうな声で語り始めた。
「……パパが死んで、TOKIOが壊滅して……ママは、壊れちゃった。私のことさえ、パパに見間違えるほど、心が……。でも、ママは最後の一人になっても、たった一人で地下のシェルターで、パパが残した『クロノス』の修理を続けてたの」
ミライの瞳から、大粒の涙が零れる。
「『これを直せば、パパが帰ってくる』って。……でも、ある日、敵の襲撃でシェルターが……。ママは私だけをゲートに押し込んで、『パパに、よろしくね』って笑って……」
その言葉に、凪は思わず口元を押さえた。
もし、愛する駆を失い、一人で娘を育てることになったら。自分も同じように、狂気にも似た愛で、過去へ娘を送り出しただろう。
駆は凪の震える手を力強く握りしめ、ミライを真っ直ぐに見つめた。
「ミライ。……その『もう一人の凪』は、まだ生きてる可能性はあるか?」
「……因果律の反応では、シェルターが崩壊した瞬間、ママの反応は『行方不明』になってる。でも……死んだっていう確定はないの」
その言葉を聞いた瞬間、駆と凪の心は決まった。
「ミライ。……俺たちの家族は、五人じゃない。もう一人の凪も、一緒に暮らすべき家族だ」
「え……?」
「駆さんの言う通りよ。ミライちゃんをここまで育ててくれた、もう一人の私がまだどこかで戦っているなら……連れて帰りましょう。私と、駆さんと、子供たち、みんなで一緒に暮らすのよ!」
凪の力強い言葉に、未来(紅)と零時(蒼)も大きく頷く。
「そうだよ! ママが二人いたら、パパのデレデレも二倍で楽しいじゃん!」
「……ふん。騒がしくなるが、一人よりはマシだな」
駆は立ち上がり、完全体クロノスのデバイスを、ミライのいた座標へとセットした。
「ミライ。お前のいた『絶望の未来』を、俺たちが『最高の休日』に書き換えてやる。……準備はいいか? 家族全員で、もう一人のママを迎えに行くぞ!」
「パパ……ママ……。うん……っ! よろしくお願いします!」
かつて孤独だったミライの手に、今のパパとママ、そして兄妹の手が重なる。
時空警察TOKIO・時尾家。
彼らが次に向かうのは、歴史の守護ではなく、「もう一人の自分」を救い出すための、史上最大の家族旅行。
「ゲート開放! 座標、絶望の二〇四〇年! ――パパ、ママ、子供たち……全員、緊急出動!!」
黄金、紅、蒼、そして漆黒の光が混ざり合い、一行は暗雲立ち込める「未来」へと跳躍した。




