第9話:【抱擁のクロニクル:失われた時間を取り戻して】
蒼い零時の放った絶対零度の閃光が、ダーク・ミライの漆黒の装甲を粉砕した。
力の源を失い、ボロボロの少女の姿を晒して、ダーク・ミライは渋谷のスクランブル交差点に膝をつく。
「……殺しなさいよ。私が消えれば、あなたの『綺麗な未来』が守られるんでしょ……」
ダーク・ミライが投げやりな言葉を吐く。
だが、その瞳から零れたのは、憎悪ではなく、長い間一人で耐えてきた「孤独」の涙だった。
その時。
彼女の視界に、四つの影が重なった。
「……え?」
最初に来たのは、同じ顔をした**未来(紅)**だった。ボロボロのスーツのまま、彼女はダーク・ミライを力いっぱい抱きしめた。
「もういいよ、お姉ちゃん。……一人で頑張らなくていいんだよ」
「やめて……汚れるわよ。私は、あなたたちを殺そうとした……」
「関係ない。俺の妹(未来)は、泣いてる奴を見捨てない。……それが俺たちの『家族』のルールだ」
**零時(蒼)**が、静かにその背中に手を置く。
そして。
「……ごめんな、ミライ」
大きな、温かい手が、ダーク・ミライの頭を撫でた。
見上げれば、そこにはボロボロになりながらも、慈愛に満ちた目で自分を見つめる駆がいた。
「パ、パパ……? どうして……私はあなたを……!」
「お前をこんなに苦しませたのは、その世界の俺だ。……親として、合わせる顔がない。でもな……」
駆は、ダーク・ミライを、未来と零時ごと大きな腕で包み込んだ。
そこへ、凪が寄り添い、ダーク・ミライの冷え切った頬を両手で包み込む。
「……辛かったわね。たった一人で、暗い未来を背負って。……でも、もう大丈夫。あなたは、私たちの『娘』なんだから」
「お、お母……さん……っ」
ダーク・ミライの胸の奥で、カチリ、と音がした。
絶望で止まっていた彼女の時計が、家族の体温によって再び動き出す。
「……これからは、俺たちが、お前の家族だ。どの未来のお前だって、俺とお前のママが愛した宝物に変わりはない」
駆の言葉が、彼女の魂を縛っていた漆黒の呪いを解いていく。
ダーク・ミライは、駆のシャツを掴み、子供のように声を上げて泣きじゃくった。
「う……うああああああん! パパ……ママ……! 怖かった……っ! 一人は、嫌だよぉ……!!」
渋谷の中心で、四人が重なり合って一つの輪を作る。
漆黒、白銀、紅、蒼。
バラバラだった「時間」が、今、一つの「家族」として繋がった。
空からは、家族の絆に呼応した黄金の光が降り注ぎ、街に漂っていた「腐敗した時間」を優しく浄化していく。
「……さて。泣き止んだか? 家族が増えたんだ。帰ったら、盛大なお祝いをしなきゃな」
駆が笑うと、凪が少しだけ困ったように、でも幸せそうに言った。
「駆さん、お祝いはいいですけど……ミライちゃんの分も、お小遣いとご飯代、倍になりますからね? 覚悟してください」
「……あいたた。やっぱり、俺の財布の時間は、常にマイナス方向に加速しそうだな……」
泣き笑いの声が、夜明けの渋谷に響く。
絶望の未来は消え、そこにはただ、新しく始まる「五人の日常」があった。




