第7話:【ママの嫉妬と、黒い影】
翌朝の惨劇:パパの腰と娘のログ
翌朝。時空警察TOKIOの司令室に、いつになく足取りの重い――というより、腰を不自然に曲げた時尾 駆の姿があった。
「……あいたた……。凪のやつ、手加減って言葉を知らないのか……」
「あら、駆さん。おはようございます。今日も『全時間』、私に捧げてくれますか?」
コンソールに向かう凪は、昨日までの疲れが嘘のように艶やかな肌で、余裕の笑みを浮かべている。
そこへ、黄金のゲートから「ただいまー!」と未来が飛び出してきた。
「あーっ! パパ、腰痛めてる! 昨日の夜、ママの猛攻に耐えきれなかったんだね! ほら見て、二〇四〇年のログにも書いてあるよ。『パパはママに押し切られると弱い』って!」
「未来ッ! お前、まさか……見てたのか!?」
「見てないよ! でも、パパのデバイスから漏れてくる『愛のエネルギー指数』が、昨夜は一晩中カンストしてたもん! 記念にログ、録っといたから後でみんなで上映会しようね!」
「「絶対に却下だ!!!」」
夫婦の絶叫が司令室に響き渡る。
しかし、その平和な喧騒を切り裂くように、警報が鳴り響いた。
襲来:絶望の未来
突如、司令室のモニターがノイズで塗りつぶされ、黄金のゲートを無理やりこじ開けるようにして、**『漆黒の時空門』**が口を開いた。
「……幸せそうね。見ているだけで反吐が出るわ」
ゲートから現れたのは、未来と同じ背格好をした少女。
だが、彼女が纏っているのは紅いスーツではない。傷だらけの、煤けた黒紫色のコンバットスーツ。瞳からは光が消え、憎悪だけがその身を包んでいた。
「なっ……未来!? お前、その格好は……」
「一緒にしないで、お父さん。……私は、あなたが死に、お母さんが絶望して壊れた世界から来た、**『存在しないはずの未来』**よ」
【黒い未来】。
彼女が右腕の黒いデバイスを起動すると、司令室の時間が急速に逆流し始める。
「仲睦まじい夫婦ごっこは終わり。……愛なんて、一瞬のバグで消えるゴミよ。それを証明するために、私はこの時代のあなたたちを殺しに来たの」
「待って! 未来!? どうしてそんな……!」
紅い未来が前に出るが、ダーク・ミライは冷酷に手を振った。
一瞬で放たれた黒い衝撃波が、紅い未来を吹き飛ばす。
「甘いのよ、私。……愛があるから守れる? 違うわ。愛があるから、失った時に壊れるの。……お父さん、あなたの『完全体』、私に壊させて」
家族の亀裂:仲違いの罠
ダーク・ミライは駆に攻撃を仕掛けるのではない。
彼女が放ったのは、【因果の暴露】。
空中に映し出されたのは、駆がこれまで隠してきた「凪には言えない極秘任務」や、凪が密かに抱いていた「駆への不安」が増幅された偽りの記憶だった。
「ほら、お母さん。お父さんはあなたを愛しているんじゃない。……『歴史を守るための道具』として、あなたを側に置いているだけよ」
「……違う。そんなの、嘘よ……!」
凪の瞳が揺れる。ダーク・ミライの能力は、精神の隙間に潜り込み、愛を疑念へと変える最悪の力。
「駆さん……。私を……本当に愛しているなら……どうしてあの時……」
「凪! 騙されるな、そいつは俺たちの絆を壊そうとしてるんだ!」
駆は『完全体クロノス』を起動するが、腰の痛みと心の動揺で、スーツの出力が安定しない。
「アハハ! いい顔ね、お父さん。……さあ、最高の地獄を始めましょう。愛し合う二人が、お互いを憎み合って死ぬ……それが、私のいた世界の結末なんだから!」
紅い未来(希望)と、黒い未来(絶望)。
二人の娘に挟まれた駆と凪の、史上最大の試練が幕を開けた。




