面談
「純也くん、だいぶ慣れたね〜」
「一年生なのにすごぉい」
「やるじゃーん」
「いえ、そんな…」
廊下では、純也が乗組員部門の二年生に構われながら歩いている。
皐月の部屋の中にいる双子は、ベッドで寝転がりながらテレビを見ている。
「私らだって一年なのにねぇ、お兄ちゃん」
「なぁ、ずりぃよな」
暁音と暁斗の愚痴に、窓の外を眺めながら皐月が突っ込む。
「熟練の特異体が言ってもな」
「お前が言うかよ」
皐月の突っ込みに、暁斗が突っ込む。
テレビには、またアラスカ沖の様子が映る。どうやら、昼からずっと膠着状態だったらしい。両軍それぞれ、総勢200隻ほどの大艦隊が、洋上の空で数時間睨み合い続けている。
外はいつの間にか暗くなり、照明なんてものがない海原の空には、白い星の群れと地球軌道上の白銀の環がよく映える。
星空は夜の暗闇に包まれた真っ黒な海に浮かび、逆さの宇宙がそこに出来上がる。それを遮る白波だけが、ここが海であるということを認識させる。
艦内に放送が鳴り響く。
「えー、機動歩兵部門二年、三灯皐月君。ちょっと第一艦橋に来てくれ」
小森の声に、三人は驚く。
「えっ、皐月なんかやらかしたのか。初日からサイテー」
囃し立てる暁音をよそに、皐月はせかせかと立ち上がり、上着を羽織る。
「わかんないの?」
「いや…何となく察しはつく」
暁音の質問に、皐月は淡々と答える。
暁斗が皐月に訊く。
「え、何したんだ?」
「いや、多分艦長たちが俺の履歴書とか経歴とかを読んだんだと思う」
「あぁ…そういうこと」
暁斗が皐月の察したことと同じことを察する。
皐月は靴を履き、ドアノブに手をかける。
「じゃ、行ってくる」
「いってらー」
「また後でねー」
玄関を出、廊下を歩く皐月は、少し奥歯を噛み締めていた。
第一艦橋には、黒服と帽子の男が窓の外を眺めながら待っていた。その男は後ろを振り向き、皐月に話しかける。
「呼び出してすまないね、皐月くん」
「いえ、暇だったんでいいですよ、艦長」
小森は、近くにあった窓際の椅子に座る。
「さ、君もここに座って」
「あぁ、はい」
皐月は小森の用意した椅子に座る。
小森は皐月の目を見ながら質問する。
「君、戸籍上はあの二人の弟ってことになってるんだな」
「はい。神社の後継ぎの問題で、俺が兄になったら面倒らしいです」
小森は顎をさする。
「なるほどね、そういうことだったんだ。じゃぁ、もう一個質問」
「…はい」
「君、六年前の釜山のテロの時に脱走した特異体だよね」
皐月が黙り込む。その様子を見て、小森も少し気まずくなる。
「…別にそれが悪いとかじゃなくて、単に気掛かりなんだ」
「履歴書が六年前からですもんね。それに出生日も釜山テロの日になってますし、そりゃ気づいちゃいますよね、軍関連の人なら。」
小森が俯く。そしてゆっくりと顔を上げ、口を開く。
「…まぁ、そうだな。それでだ。何で今回、その特異能力を使わなかったんだ?」
「俺の特異性質、知ってるんですか。履歴書にも学生証にも何にも書いてないと思うんですが」
皐月が驚いたように小森を見る。
「いや、知らない。知らないけど、弱いってことはないだろ?教えてくれてもいいんじゃないか?」
「まぁ、そうですね。破壊と殺害には向いてると思います」
小森が、小さく息を呑む。
倒した副長席に腰掛ける青田が、顔に本を乗せたまま、寝たふりをしながら聞き耳を立てる。
「だから、知られたくないんです」
小森は、俯き加減になって話を聞く。
「知られてしまったら、いつかは人殺しの道具にされてしまうんじゃないかって」
俯いた小森の顔を、本の隙間から青田が見る。
「だから、教えません」
「…わかった」
小森は、皐月の顔を見ながら深く頷いた。
皐月は自室に戻る。
「おっ、おかえり皐月ぃ」
暁音が部屋の角から顔を覗かせ出迎える。
暁斗が揶揄う。
「どんな説教だった?」
「説教ではねぇよ…俺があっちの質問を受け答えするだけだった」
「何だよ、つまんねーの」
皐月は部屋に入ると、暁音と暁斗のいるベッドの空いたところに落ちる。
「お疲れ皐月。圧迫面接は疲れるね」
隣に座っている暁音は、労いに揶揄いを混ぜ込む。
「だからただの質疑応答だって」
「それはそうとさ、青田さんイケメンじゃない?声も良くない?良くない?」
声を昂らせた暁音を、皐月があしらう。
「ああ、あの人ね。さっき俺が艦長と話してる時、ずっと寝たふりしながらこっち見てきてて嫌だったな」




