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虹時代 出来損ないの亡霊  作者: 小型旧人
昔話と墓暴き編
7/33

訓練

「着水!」

 操縦士の声と共に、艦が大きく揺れる。

 伊勢は大きな水飛沫を上げながら、まるで旅客機の着陸のようにゆっくりと艦尾から着水する。徐々に艦首を下げて行き、最後に細長い三角錐状の艦首の一つの面が水面に着く。

 艦が一気に減速する。

「着水完了!」

「よし」

 操縦士の報告に、艦長は一安心する。

 北陸の沖、海岸二十キロの海域。

 水面に浮かぶ伊勢は、白波を立てて海を通る。

 完全に潜水している二つの下部艦橋のうち、生徒たちは第三艦橋に集まって、窓の外を眺めている。

 横から青田が説明する。

「ここの第三艦橋と向こう側、右舷側の第二艦橋は着水したとき水に潜るから、海が綺麗なとこだと海底が見えたりするよ」

 男子生徒が一人、質問を投げかける。

「じゃぁ、この海は汚いってこと?」

「あはは…まぁ汚いってほどじゃないけど、綺麗ってわけでもないかな」

 青田が刈り上げられた襟足を掻きながら答えた。そこに、その少年が質問を重ねる。

「なんで綺麗じゃないの?」

 その質問に、少し考え込んだあと青田は口を開く。

「まぁ…工業廃水だね」

 青田が鼻を擦りながら言った。そして新たに青田は指示を出す。

「さて、みんな作業に入ろうか。艦長から指示があるだろうから、よく聞いておくんだな」



 艦の様々な場所で、乗員部門の生徒が点検を行なっている。点検場所は甲板上、艦内、水中にまで及ぶ。

 上空では、航空機部門の生徒が戦闘機で艦上空を飛び、哨戒をしている。その戦闘機から出る甲高い虹力音が脳内に響く。

 雲がところどころにある青空には、噴射された虹力子がまるで彩雲ように、戦闘機の軌跡に残る。それを暁斗は、ヘルメット内の画面越しにぼんやりと見上げる。

 艦周辺での護衛訓練を言い渡された機動歩兵部門の生徒たちは、伊勢の周りで滞空している。

 暁斗は、背中と脇腹の間あたりの装甲の合間から露出させた黒い疑似皮膚服から、まるでトンボのような楕円形の翼を二対伸ばす。同時に足からも小さな翼を伸ばし、それら全体から虹色の揺らぎを放出して空に浮かぶ。

 そこに皐月が飛んでくる。

「翼いいな、ラクそう」

 そう言った彼は、背部にある二対の安定翼をたたみながら、腰周りにある四つの突起物の先端に取り付けられた四つのスラスターから、虹色の揺らぎを下に向け放出し続ける。

「これだって、標準型の軽量装備から装甲剥がしたみたいなのだからあんま合わないんだよ。お前こそ、そんなん使わなくても飛べるくせに」

 皐月からの個人通信に、暁斗が返した。

 皐月はまた通信する。

「言わせるなよ…まだ自分のやつ来ないのか」

 暁斗が溜息混じりに返す。

「来ねえんだよなぁ」

 皐月には、フルフェイスのヘルメット越しでも暁斗の残念そうな顔が見えた。

 暁斗は、自分の翼にもたれるようにして空を見上げる。

「いーなぁ、俺も飛び回りてぇよ」

 暁斗は空に浮かぶ揺らめく彩雲もどきを眺め、羨むように愚痴をこぼした。

 突如、通信が入る。

「えー、これより、戦闘訓練を開始する。対戦相手は皆と同じ、軍艦合宿中の高校生の軍戦部だ。今回こちらは奇襲を受けたという想定で訓練を行う。総員、戦闘用意!」

 突如とした艦長からの通信に、生徒間の公開通信がざわつく。

 そんな中、また新たな通信が入る。

「今回の訓練では私が…一年の雨宮凛(あまみやりん)が艦長役を務めます。よろしくお願いします」

 少女の声に、またもや通信がざわつく。

「え…あいつ?一年で?」

「すげぇ…」

「遥希じゃねぇんだ」

 別の通信が入る。

「僕だってそうしたかったよ…副艦長役だ」

 その残念そうな声を聞き、皐月が質問する。

「なんで遥希じゃないんだ?」

「指名されたのがこれでさ…艦長やりたかったな」

 小森が口を挟む。

「石井君には、もっと大規模な作戦で司令官をしてもらうつもりだ。安心しろ」

「マジですか?あざす!」

 落ち込んでいた石井の口調が、明らかに明るくなる。

 艦橋では、石井を横目に見ていた雨宮の顔が、明らかに暗くなる。

「遥希先輩…羨ましいな」

 独り言を呟いた艦長役は、手元にある立体映像に表示されたボタンに触れ、マイクを起動して通信する。

「これより迎撃戦闘を開始します。敵部隊は北東、距離一二六キロメートルから時速約500キロで接近中。約十五分後に接敵します。ウェリントン三型(さんがた)軽戦闘機編隊全五機、機動歩兵10人で構成された機動部隊です。機動歩兵編隊の詳細な内訳は、(けい)3、(ちゅう)3、(じゅう)4です。レーダー情報、転送します」

 空中の生徒たちに敵の配置と内訳が送られる。

 航空部門が、上空千メートルを旋回しながら話す。

 二年の風間緑(かざまみどり)が、敵の方向を見ながら言う。

「機体はこっちと同じか」

「乗り慣れてるからこっちの勝ちっすね」

 一年の秋田真冬(あきたまふゆ)の通信を、二年の高松明奈(たかまつあきな)が軽くあしらう。

「経験はあっちも同じだろ馬鹿」

 機動歩兵部門も、ヘルメットに六つ付けられたカメラ越しに顔を見合わせ話す。

「へへへ、楽しそう」

 暁斗の声を無視し、暁音が羽ばたきながら皐月の元に近づく。

「重歩兵多いな、爆撃狙いかな?」

「だとしたらもうちょっと重量級多いだろ。多分、重歩兵を盾にして、とっとと艦橋落としたいんだよ」

 皐月の返答に、暁音が感心する。

「流石は我が義弟(おとうと)

「先輩だけどな」

 暁斗が思い出したように言う。

「そういや今回三年いないのか」

 暁斗に、周りより一回り小さい機動歩兵が困惑したように言う。

「戦闘中に何言ってるの…」

 弱々しくも優しい声。

 暁斗が煽るように言う。

「戦闘中もこれくらい余裕でいられるようにならねぇとダメだぜぇ、純也(じゅんや)

 一年の水野純也(みずのじゅんや)はおどおどと返す。

「でも、油断大敵とも言うじゃん」

「全国一位に言ったところで無駄だよ」

 二年の橘優里(たちばなゆうり)の言葉に、暁斗は誇らしげに胸を張る。

「それじゃ、いっちょやりますか」

 見せびらかすように翼をはためかせながら、暁斗が澄ました声で言う。

「ダサいよ、お兄ちゃん」

「同意見」

 暁音と皐月が同調して、暁斗を罵倒する。

「そこまで言わなくてもいいじゃん、やる気なくなるわぁ」

 遠くの空に、虹色の小さな点たちが浮かび始めた。

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