作戦会議
長机の席には、黒いスーツの男らと軍服姿の男が並んだ。彼らの前には、それぞれ一つずつ文字の書かれた板が置かれた。
左から順に、粒子加速器研究・開発機構機構長、航空宇宙科学・工学研究所所長、連邦政府直轄軍事・生体技術研究所所長、大統領、官房長官、国防長官、軍総司令官と書かれている。
それらと向き合うように、スーツ姿だったり、軍服だったりの人らがずらりと並び、座っていた。
科学者、政治家、軍人など、多様な政府関係者が一堂に会していた。
大統領が嘯く。
「民主党の皆様、軍司令部の皆様、研究者の皆様、集まっていただき、有難うございます。さて、いよいよ宇宙戦争となった訳ですが……」
大統領は右を向いた。
「まずは航空宇宙科学研究所所長、お願いします」
指名され、白髪の男は話し始めた。
「はい。まず、我々が分かっていることはほぼ無いという点に、皆様留意して下さい。火星の艦隊が使っている推進技術は虹力子を使っていない為、恐らくはレーザー核融合パルス推進と思われます。彼らの艦艇が噴射した噴射炎を分光分析したところ、ヘリウム4と軽水素が見つかった為、そう判断しました。推進力は、高く見積もっても虹力子推進と同等、機動力においては我々が優っていると考えても良いでしょう。ただ、それ以外は未知数、解析はこれからです」
話し終えたのを見計らい、大統領が言った。
「次、機構長、お願いします」
中年の、眼鏡をかけた男が答えた。
「今回、我が国の機動艦隊を撤退に追い込んだ兵器ですが、あれはγ線を収束し発射する兵器です。粒子と反粒子を目標に向かって加速させた上で電磁的圧力で高速衝突させ、それによる対消滅現象により光子を発生させ、それをさらに浅い角度の特殊反射鏡などで反射、収束させて放射するものでしょう。計算上は余裕で地球まで射程圏なのですが……どの道この星は基本的に粉塵に包まれていますし、何より大気もありますし、それでも被害は出ますが、火星から首都を特定することは不可能でしょうし、多少の対策で大丈夫でしょう。あの威力を出すためにかなりの規模の施設を有している様子だったので、あの艦隊の艦艇が今回のγ線砲級の攻撃を多用できるということはないでしょう。また、八咫烏軍の、火星軍の戦闘車が発射する負イオン弾を基準に考えると、艦艇のそれは砲塔サイズや艦艇自体のサイズなどを踏まえ、戦闘車のそれの十倍から十五倍、或いはそれ以上でしょう。相手が使ってくるのが負イオン弾だとすれば虹力子防壁により簡単に拡散、防御が可能でしょう。例えばプラズマ弾だとしても同じことです。敵の火力を過剰に恐れるのは杞憂となるかも知れません。以上です」
大統領は、携帯端末が映し出す立体映像の資料を見ながら、隣に座る男を指名した。
「次、技研所長」
「はい。我々が恐れるべきは、どちらかと言えば先端技術よりも実弾兵器です。少ない質量でも、火星から地球の距離で加速させ続ければ実質的な質量はとんでもない大きさになり、破壊力は絶大なものになります。超高速の物体を迎撃するのと、反撃用の実弾、運動エネルギー弾ミサイルを月面上に配備する必要があるでしょう。我々が既に用意できているものとして、迎撃用に陽電子格納小型ミサイル、遠距離攻撃用として拒絶虹力推進用ニ個生体格納運動エネルギーミサイル、攻守両用として核パルス推進クラスターミサイルなどがあります。これらを発射するための設備を、取り急ぎ月面に配置するべきです。以上です」
話し終えたのを見計らい、大統領は話し始めた。
「えー、では、我々軍司令部から……まず、我々としても火星から出てきた艦隊に対し防衛戦を展開したいところですが、そうもいきません。日本列島の方面は軍艦合宿で偽装し動員している子供兵で対応できますが、機動艦隊無しではその他の方面の対応が厳しくなります。なので、我々の方針としては、防衛用の無人兵器を月面や地球の軌道上に展開しつつ様子を見るということになっています。どなたか、意見のある方はいますか?」
黙々と携帯端末の立体映像にメモをとっているだけだった多数の参加者たちが顔を上げた。
そのうち一人、制服を着た若い女が手を挙げる。
官房長官はそれを見て、座席表と見比べてから指名した。
「えー……議員の、赤坂さんですね、どうぞ」
女は立ち上がった。
「はい。民主党の赤坂です。様子を見ると仰っていましたが、急いで対応をしなければ我が国のみならず、地球全体が被害を受けると思われますが、その上でも様子を見るのは何故でしょうか。地球上で戦争をしている場合ではないのでは?」
少し痩せ型の中年の男――国防長官が、携帯端末の立体映像が映し出す資料を見ながら口を開く。
そして、淡々と回答を話し始めた。
「はい。それはですね、あの量の艦隊を相手取って、我々だけでは太刀打ちのしようがないからです。我々が対抗したところで戦力を削られ、火星だけでなくア連や日本連合皇国にも敗北し、我が国は主権を奪われる。それは火を見るよりも明らかな事です。それ故にここで我々だけ孤軍奮闘することは、愚行だと判断しました。以上です」
「……有難うございます」
そう言って、女は律儀に深々と礼をした。
そしてその女は、まるで何か恐ろしい物を見たような顔をしながら、ゆっくりと座り込んだ。
もう一人、手を挙げたものがいた。その男は、先程の女と同年代に見えた。
国防長官は名簿と見比べて指名する。
「えー、若林議員ですね、どうぞ」
男は会釈をしながら立ち上がり、話し始めた。
「はい。民主党員、若林です。質問と言うか進言になりますが、防衛に関する話なのですが、ミサイルなどによる防衛対象は首都圏に絞るべきと考えます。理由は、敵の莫大且つ未知数な戦力に対応する為には、防衛対象を絞るべきであると考えたからです。どう思いますでしょうか」
再度、国防長官は資料を見ながら答え始めた。
「説明不足でしたね、基本的にその方針です。飛来するミサイルや攻撃は迎撃する目標を選択し、首都である太平洋中央人工島以外を目標とするものは迎撃をしない方針です。もっとも、敵の攻撃が複数地点を目標にした同時攻撃であればの話ですが」
その後も、議論は続いた。科学に関する議論や、防衛方針に関する議論、その他など、様々な内容について話し続けた。が、これ以上何らかの方針が変わることはなかった。




