失敗
皐月は講堂の中央から遠く離れた席で、教師を見下ろしながら彼が話す内容を黙々と、学校用携帯端末の立体映像にキーボードで書き写していた。
教師は講堂の中央で、大きな立体映像を手元の携帯端末で操作しつつ、声をマイク伝いにスピーカーに流し込み続けている。
「我が国が発足したのは大体百年前、この前授業で教えた、世界的な優生政策ブームがその目的を果たして終わり始めた頃ですねぇー。この時の東京革命から――」
その時、皐月はパーカーの腹のポケットの中で振動を感じた。
その振動の源たる携帯端末をポケットから取り出すと、立体映像は暁斗からのメッセージの通知を映し出した。
暁っぽい飽き斗:見たか?なんかネット上で、火星を望遠鏡で眺めたらデカい建物あるぞって話題になってるぞ!バレたっぽいぞ!
皐月はその通知を見て、目視で分かるか分からないか程度の角度分口角が上がった。
その通知を眺めながら刹那の間物思いに耽ったのち、皐月は携帯端末をポケットにしまい、教師の話の書写しに戻った。その作業を続けること凡そ三十分、教師は話を終え、講堂から退出した。
皐月は机の上に広げた端末や水筒をリュックサックに押し込み、立ち上がる。そしてポケットから携帯端末を取り出した。講堂の出口に向け歩きながら片手で携帯端末を持ち、片手でそれが映し出す立体映像を弄る。
立体映像はネット上の文字列群を映し出した。
それら文字列の悉くは、火星に関する憶測だった。
――――
「人形はどうなっているんだ!」
黒い制服を着た男は叫ぶ。
暗い大きな部屋の中には巨大な立体映像が浮かび、その映像はネット上に溢れかえる火星に関する憶測を映し出している。
部屋の奥から声が飛んできた。
「追いつけません!もう溢れてます!」
部屋中を黒服の男達が慌ただしく行き交い、同時に怒号も行き交う。
一人の男が、長机の席に座ったまま叫んだ。
「落ち着け!今から秘匿しようとしたところでもう遅い!」
部屋が静まり返った。
男は続ける。
「今するべきは、秘匿どうこうよりも火星軍の対策と国民への対応だろう」
暗い部屋に、外からの光が、人の影を縁取りながら差し込んだ。そこから差し込んだかというと、開かれた扉からだった。
そこには、息を切らした男が立っていた。
男は呼吸を交えながら言った。
「火星から……大艦隊が……出てきたと」
部屋の中の男達は、その言葉を聞いてまた騒ぎ始めた。同時に、部屋の中央に浮かぶ巨大な立体映像は火星を映し出した。
火星の赤い土の前に、あたかも星空のように、ポツポツと青白い光の点がある。
立体映像はそれを拡大表示した。
騒ぎ直し始めたばかりの部屋がまた静まり返る。
青白い光は、上下左右対照の洋上船舶のような形状の物体から出ていた。その物体は上下左右に艦上構造物のような物体があり、四つの船を束にしてまとめて一つにしたような、奇怪且つ美麗な姿をしていた。
その物体は群をなしていた。どれほど甘く見積もっても、その総数は千を下回るようには見えなかった。
長机の席に座った男が、腕に巻きつけた小さな携帯端末が映し出した立体映像を眺めたのちl広い部屋全体に聞こえるように言った。
「これは我々情報部がどうこうできる事ではない。国防省からお呼び出しだ、行くぞ」




