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虹時代 出来損ないの亡霊  作者: 小型旧人
昔話と墓暴き編
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日本海へ

日本海へ

 出航後の自由時間、皐月は艦橋の根元に設置された甲板で外を見ながら、食堂で買ったホットドックを食べていた。眼下でゆっくりと流れる深緑の山並みは、どこまでも続くんじゃないかと思える。

 そこに暁音がやってきて、皐月に話しかける。

「寒っ。よくこんなとこでご飯食べられるな」

「まぁ上着着てるしな」

「でももうそろそろ高度上げるっていう放送入るらしいよ」

「じゃぁ中入るか」

 二人は甲板から、艦橋外壁の扉を経て艦内へ戻る。

「どこ行く?」

 隣を歩く暁音に、皐月が尋ねる。

「お前の部屋。テレビ見ようよ」

 暁音が即答する。

 皐月がホットドックの最後の一口を飲み込む。そして、眉を少し顰め質問する。

「自分とこで見りゃいいじゃん」

「皐月、女子の部屋に入るつもり?ないわぁ」

 暁音が敢えて論点をずらしている事を理解した皐月は、その図々しさに敗北した。

 皐月と暁音は皐月の部屋の前に着く。皐月が携帯端末をドアノブに掲げてドアを開錠し、暁音がドアを勢いよく開ける。

「おじゃましゃーす」

 と、部屋の主すらいない部屋に向かい暁音が靴を脱ぎながら言う。

「いらっしゃぁい」

 と、部屋の外から部屋主が、暁音のテンションとは真反対のテンションで言う。

 ビジネスホテルと同じような部屋は、まるで軍のものとは思えない。皐月が部屋の明かりをつける前に、暁音がベッドに飛び込む。

「人の部屋だぞ…」

 部屋の電気のスイッチを押しながら皐月が言う。

 自分のベッドで寝転がる少女を尻目に、皐月は靴を脱ぎ整え、鍵を閉める。

「リモコンどこー」

 暁音の気の抜けた質問に、

「自分で探せ」

 と、皐月は雑に返す。下駄箱の上に置いてあったリモコンを見つめながら。

「起き上がりたくないんでなんとかしてぇ」

 と、ベッドでうつ伏せの状態で足をバタつかせながら駄々をこねる暁音の背に、呆れた皐月がリモコンを軽く投げる。

「いてっ…軍のもんで何すんだよ」

「まずは感謝しろ」

「毎度あり」

「……」

 皐月は明らかに用途の間違った感謝の言葉を無視する。

 暁音が体を起こし、リモコンをテレビへ向けて赤いボタンを押す。

 そこに映ったのは情報番組の生放送で、アラスカ湾の周辺の海域の映像がテロップと共に映し出されている。

「東の方こんなんなってんの!?」

「知らなかったのかよ」

 ニュースに驚く暁音、それに驚く皐月。

 皐月はポケットから携帯端末を取り出し、映し出された立体映像を暁音に見せる。

「ほら、今朝から話題になってんじゃん」

 暁音が画面を見ながら言う。

「戦争状態とは聞いてたけど、ここまでとはねぇ」

「でもまぁ、日常茶飯事だろ」

 一ヶ月前から、アラスカ沖にある連邦領の人口諸島を巡り、太平洋連邦とアメリカ社会主義連合は小競り合いをしていた。だが今日、ア連の大艦隊侵攻により、本格的な戦争へと発展してしまった。

 人口諸島には住民もおり、地上戦になった際の大惨事は想像に容易い。

「全然関係ないんだけどさ、他の学校でもこれやってるらしいね」

 暁音が話を変える。

「そういや、そんな話だったな」

 皐月が連邦軍の公式サイトを見ながら言う。

 半分の高校が日本海へ、半分が太平洋側へ行き、日本列島を周回するという予定になっている。

 艦内に青田の声が、スピーカー越しに響く。

「これより、本艦は高度を上げます。雲の上まで一気に上がるので、低気圧には気をつけてください」

「お、来た来た」

 暁音が部屋にあるスピーカーを見ながら言う。

 部屋が急激に傾く。艦は艦首を上げつつ、滞空用のスラスターの虹力子噴射方向を地面に向ける。艦尾のメインスラスターの出力を上げ、その噴射炎の長さは艦の全長と同等まで伸びる。巨大な巡洋艦は、虹色に揺らぐ航跡を残しながら上昇する。空には、不安定な虹がかかった。

 皐月が部屋の窓を開く。先程まで眼下に広がっていた地面は、いつしか絨毯のような雲に変わっていた。

「結構早いな」

 その壮観を眺めつつ皐月が呟く。

 その時、部屋の呼び鈴が鳴る。皐月がドアを開けると、そこには暁斗がいた。

「よっ。艦橋行こうぜ」

 目の前にいる皐月に、ニコニコしながら話しかける。 

「お兄ちゃんは何してたの?」

「お前こんなとこにいたのか」

 奥からひょいと顔を出した妹に、兄は驚く。

「あぁ、友達と飯食ってた」

 双子の会話を尻目に、皐月は靴を履く。

 玄関を出て、皐月は後ろを振り向き、部屋の中に声をかける。

「お前も来るか?」

「いや、疲れたからここで寝とく」

 その回答に、皐月は眉を顰める。

「何に疲れたんだよ」

「なんか」

 どうしようもない回答にため息をつき、皐月は暁音に声をかける。

「また後でな」

「あとでねー」


 暁斗と皐月は、並んで艦底右舷側にある第二艦橋へ向かう。

 他愛のない雑談をしながら歩き、途中の自販機で一緒に飲み物を買う。

 しばらくそれを飲みながら歩いた後、暁斗が皐月の持つペットボトルを指しながら言う。

「ねーそのサイダー、一口ちょうだい」

「いや、お前コーラあるだろ」

「ちぇ」

 そんな話をしているうちに、エレベーター乗り場前に着く。下向きの三角形の記されたボタンを押すと、そのボタンが明るくなり、扉が緩やかに開く。

 二人でエレベーターに乗る。1と書かれたボタンを、近くにいた暁斗が押す。

 機械的な女性の声がエレベーター内に響く。

「ドアが閉まります」

 暁斗が口を開く。

「…なぁ皐月、おかしいと思わないか?」

「何が?」

「こんな軍艦を使って日本列島近海巡りなんて、なんか変だよ」

 皐月が考え込む。そのことには、皐月も違和感を抱いていた。

「未来の軍人候補生かなんかだと思われてんだろうが、それをにふるいにかけるんじゃなくて、いい印象を持たせて誘い込むってのはちょっとどうかと思うよな」

 暁斗は不満を漏らす。それを皐月が静止する。

「よせよ、このエレベーターにだってどうせ監視カメラやらはついてる」

 暁斗がため息をつく。

 エレベーターが止まる。

「ドアが開きます」

 その音声と共に、エレベーターの扉がゆっくりと開く。第二艦橋に到着した。すぐ左手にある遮光ガラス張りの第二指揮所を通り過ぎて、二人は窓際に立つ。

 斜めにせり出した窓からは、眼下に広がる森林と、その隣に広がる青く大きな海を分け隔てる海岸線が遠くまで見えた。先程まで見えていた絨毯のような雲は移動と共に視界から消え、代わりに長い海岸線が視界に入ったようだ。

 再度、艦内に青田の声が響く。

「着水予定地点に近づいたので、これより降下を始めます。少し揺れるかもしれないから気をつけて」

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