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虹時代 出来損ないの亡霊  作者: 小型旧人
常用薄明編
57/61

「国の審査とかも入る予定だから、壊したりはするんじゃないよ」

 コンクリート剥き出しの広い空間を歩きながら、田畑は皐月に釘を刺すように言った。

 皐月はうなじを手で覆いながら返す。

「壊しませんよ、こないだのことで慣れました」

「こないだのこととは?」

「……レイジヤシマの遺跡に、本人認証式ロックの解除の為連れてかれたんですよ」

「……成程」

 灰色のコンクリートでできた神社本殿の中、二人はその最奥に向かい歩き続ける。

 入り組んだ構造の中には、それら構造全てを己の手足と言わんばかりの等身大の銅像が、真っ直ぐに立っていた。

 その銅像からは、あたかも天使の如き羽が生えていた。重々しい銅の羽を生やす背中は背後のコンクリート壁と融合している。

 二人はその銅像を横目に通り過ぎ、真っ暗な細い通路に入った。その通路を一分弱黙々と進み続けると、暗闇の中から小さな煌めきが見えた。

 それは南京錠の金属光沢だった。

 その南京錠は、通路を塞ぎ止める重々しい黒扉の両側を固く繋ぎ止めている。

「南京錠ですか……古典的ですね」

「これくらいの方が逆に良いのよ」

 そう言いながら、田畑は南京錠を手先で弄り始めた。

 田畑は続ける。

「ここに、地下のあの扉から出てきた書類が保管してある。電子じゃなかったんだよね」

「へぇ……」

 千年前のですら端末のデータだったのに

 皐月は脳の内側でそう呟いた。

 がちゃりと音が鳴る。

 田畑が振り向いた。

()いたぞ」

 そう言いながら、田畑は黒扉を押し開けた。

 隙間からダイオードの冷たい白色光が漏れ出る。

 扉の先は、大量の手帳のようなものが押し込まれた本棚が並ぶ、一般的な住居の一部屋と同じくらいの広さの密室だった。

「おー、こないだのとはまた違う」

 皐月は感心した。

 田畑が部屋の入って行き、皐月もそれについて行く。

 田畑は付箋のついた一つの手帳を取り出した。

 その手帳は年季は入っているものの、年代物の本程度だった。

「問題の記録が、この手帳に入ってる手記だ」

 田畑はその手帳をめくりながら説明する。

「暁斗と暁音の出生は大方知ってるだろ?君も」

 並ぶ手帳の背を眺めていた皐月が、田畑の方を振り向いて答える。

「えぇ。凍結卵子ですよね、特異体の」

「ご名答……別にクイズじゃないからこの言い方は間違いかもだけどね。暁音と暁斗の元になる卵子が受精させられた原因はまぁ、連邦が諸外国に対する切り札を求めたからだろうね」

 皐月は目を伏せた。

 田畑は続ける。

「その卵子の母体の手記が見つかったんだ。それ以外にも色々、それら記録はこの倉庫に保管した。その、母体の手記ってのがこれだ」

 田畑は手記を見せる為、皐月を手招きした。

 皐月は招かれるがまま田畑の元により、手帳を見る。

 その目を瞬かせる前に、皐月は引き気味に言った。

「うわ……結構惨いというか、酷いですね」

「早……まぁいつも通りか。皐月君の言う通り、かなり胸糞が悪い内容だ。これを暁斗や暁音に見せるのは酷だろ?」

「まぁ……そうですね。そうだと思います。絶対に見せないで下さい」

 そう言いつつ、皐月は手書きの文字を見下ろした。

 田畑は言った。

「これで確証が持てる、というか、何の絵かは言うまでもなく分かるパズルの真ん中のピースがやっと見つかった、という感じに近いかな。百年前の東京革命の時に現れた、機動天使と呼ばれたあの十体の特異体も、こいつの卵子から生まれた子であろう」

 百年前、虹色の巨大な翼を持った十体の機動歩兵が突如東京に現れ、日本列島の日本連合皇国軍を敗走に追い込んだ。その記録映像を田畑と皐月は薄らと思い出す。

 彼らの持つ能力を暁斗や暁音と同じ「虹力子の固形化・結晶化」であるとすれば筋が通るということは、軍関係者にとっては周知の事実だった。

 日記の書かれたページはめくるごとに字が乱れて行く。

 皐月は眉を顰めた。

 田畑は重々しく言った。

「彼女の死因は抗うつ剤の過剰摂取であると、この時代の国営病院のカルテに書いてあったよ」

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