宇宙進出
「主文、被告人は、懲役五十年……」
二階の席の裁判官の言葉に、小森は嘲笑の意をもって一度肩を上げ、下ろした。
裁判官は続ける。
「しかし、例外特例として、この裁判が確定した日から十年間、その刑の執行を猶予する。被告人はその間、軍人としての役目を――」
例外特例?何だそりゃ
小森は呆れて聞くのをやめ、独白で聴覚を仮想的に満たした。
軍も人手不足か……ずっとそうだな、そりゃぁそうだ。世界中で四六時中殺し合ってればそうもなろう。増してや、子供まで殺しに駆り出そうとするんだからな
小森は中をくり抜いたようなリング状の巨大な円卓の外縁に沿って設置された回転可能な椅子の向きを少しずらし、空間を空け、その空間に体を入れて椅子に座った。
まるで講堂のような広い部屋が暗くなり、円卓の中心に輝く巨大な立体映像が相対的に強調される。
小森の隣の席に既に座っていた青田が、軽く会釈をしつつ小森に携帯端末を、机の上を滑らせるように、かつ慎重に渡す。
小森はその携帯端末が映し出す立体映像の文字を流し見たのち、その端末の立体映像を切った。
円卓をずらりと囲む制服姿の大人たちが、シンと静まる。
広い空間の中に、スピーカー越しの男の声が響き渡った。
「今回皆様に集まっていただいたのは、ご存知の上とは思いますが、火星に関するお話です」
立体映像が、太陽とそれを周回する惑星たち、それらの軌道を示した白線を映し出した。
「今回の研究結果により、我々人類を封じ込めていたのは他でもない、火星に住む人類です。我々が恐れていたような過剰な脅威、即ち未確認文明や上位存在などは、やはり机上の空論に過ぎなかったという訳です」
立体映像は太陽を突っ切り、ゆっくりと自転する火星を拡大表示した。
「相手が人類なのならば、対抗し得る存在。ならば対抗するしかない。それにより人類の悲願たる宇宙進出が成されるのならば。その為にはまずは偵察を、それが今回の作戦です」
立体映像は火星を離れ、地球を拡大した。
「幸い、月は我々の領土、いや、領星です。制宙権は基本的に我々の物。宇宙への第一歩は何ら問題なく歩み出せるでしょう。ならば、誰がその第一歩を踏み出すのか……」
男は息を吸った。
「そう、集まっていただいた皆様です。今回我々は連邦機動艦隊を再編。最新の生体機器を搭載するなどして『吾妻』を改修し、他にも数多くの艦艇を改修。あまりにも古びた艦艇は退役させ、代わりに最新鋭の艦艇を入れました。そして、東部戦線や南極戦線が八咫烏軍の騒乱の副次効果で多少落ち着いた隙を見て、歴戦のツワモノたちを新たな艦長や乗組員として採用。そして何より……」
男は少し溜めた。
「司令能力テストやシミュレーション大会で現役司令官全員を退けた若き新生……青田渉君を新たな司令官として採用!」
青田は照れ隠しの笑顔で会釈した。
「最新艦艇、そして最強の将官。これらを集結して宇宙進出をする。さすれば、我々は他国より圧倒的に早く、軍事的にも経済的にも前進することができるだろう。と、大統領はお考えです」
立体映像がまた、太陽系全体を見通す宇宙地図のような形態に戻った。
その地図の火星軌道と地球軌道の間辺りに、大量のマークが入る。
「偵察のついでに、比較的大きい小惑星に基地を建設するというのも今回の目的の一つです。今、示しているこれら小惑星に、工兵部隊を送り込み、簡易的な基地を建設。実質的に宇宙を占領します」
広い空間が多少ざわついた。
「作戦の説明は以上、これより会議に入ります。細かい説明などは会議の中で行います。質問や意見のある方は手を上げてください」
男がそう言うと部屋が少し明るくなった。
巨大なリング状の円卓を囲む制服姿の軍人たちが、次々と手を挙げる。
小森は隣の青田を見た。
「流石じゃないか。政府のこともあるのに大変じゃないかい?」
青田は顔を向けることなく答える。
「いえ……今回も言われましたよ、あなたの監視を念の為にと」




