戦時中
修復歴九二五年、五月十日、諏訪高校での伊勢出航と同日の朝、アラスカ湾周辺海域にて
「てぇーっ!」
「発射ぁ!」
艦橋では怒号が飛び交う。
艦長の命令に合わせ、主砲から虹色に揺らぐ閃光が真っ直ぐに飛び出す。
その閃光は、敵の艦の虹力子防壁と船体を貫いた。
艦を貫いた虹は赤黒い血を帯びながら、反対側から吹き出した。
「敵駆逐艦、撃沈!」
アラスカの海には、凄惨な戦場が広がっていた。
美しい海の上の真っ青に晴れた空を、幾多の軍艦が埋め尽くす。
「艦長ぉ!敵空母から、機動歩兵の出撃を確認!」
「対空戦闘、用意!」
艦長の命令に伴い、艦の様々な場所に格納されていた近接対空機銃が艦表面に顕になる。
「アラスカ半島方向から巡航ミサイル飛来!総数、三二!来ます!」
「誘導弾が来るぞ!備えろ!全僚艦に通信!我、援護求む!」
艦長の声を復唱する。
「我、援護求む、通信完了!」
艦長が頷く。その時、砲雷長から報告が来る。
「敵ミサイルロック完了!対空ミサイルいけます!」
「わかった。対空ミサイル、てぇっ!」
艦の上部にある垂直発射機から、虹に煌めく楕円形の物体群が飛び出す。それらは真上に向かい上昇した後、急に向きを変え艦の左へ飛翔する。その先には、虹色の揺らぎを帯びた翼付きの巡航誘導弾がある。
二つの虹色の群れは、互いに真っ直ぐに近づき、衝突する。
虹色に揺らめく爆発が、空中に発生する。
「敵機動歩兵、機銃射程内!」
「対空は本艦の本領だ。対空砲火、始め!」
艦長が指示を飛ばした瞬間、艦全体から大量の虹の直線が放出され始める。
その虹の放出に巻き込まれた機動歩兵たちの体には風穴が開く。
「敵ミサイル、機動歩兵共に、全ての無力化を確認!」
アラスカの海に、風穴の空いた人間と艦が降る。
「まだだ…警戒は解くなよ。敵艦は二十キロ先にウジャウジャといる。本艦だけでは無理だ。撤退する!司令部に報告せよ!」
「司令部から返答!撤退の許可、下りました!」
「よし、艦回頭一八〇、面舵いっぱい!」
艦長の指示に、操艦士は右ペダルを強く踏み込み、復唱する。
「面舵いっぱい、よーそろー!」
艦全体に取り付けられた姿勢制御スラスターのうち左舷前方と右舷後方のスラスターが虹色に揺らぐ光を放出し、艦がゆっくりと旋回する。回頭が終了し、敵に背を向けた瞬間だった。
「艦長ぉ!僚艦隊と交戦中だった敵艦隊の戦艦が、こちらに主砲を向けてきました!」
その報を聞き、艦長は焦る。
「まずい…最大戦速!螺旋航行で回避!」
「最大戦速、面舵十、上げ舵十!」
二十キロ先の、虹色に揺らめく纏まった複数の閃光を、艦橋の乗組員が確認する。
「敵艦主砲斉射!」
「衝撃備え!」
艦長がそう言いながら、目の前の机に掴まる。他の乗組員も、掴めるものを掴み、頭を下げる。
幸いにも、その虹色の熱線群は、上昇中の艦の艦尾スレスレを通り過ぎて行った。
だが、撃ってきたその敵艦の主砲から、虹力子を充填している事を表す虹の光が漏れ出たのが見えた。
「敵艦、主砲再充填中!」
「次は修正してくる…衝撃に備え!」
艦長が叫んだ、その時だった。
「遅くなった。援護する!」
艦前方から、大艦隊が高速で押し寄せてきた。援軍だ。
海面近くの低空域から、雲近くの高空域まで、辺り一面を埋め尽くすほどの艦艇たち。
「敵艦、主砲斉射!」
安心したのも束の間、また彼らは衝撃と死を覚悟させられる。
その時、大型の艦が左舷側を通り、発射された虹の熱線の射線上に割り入ってきた。
その艦から放出された虹力子防壁が、その虹をまるでホースから出た水のように弾いた。
世界最強の防御性能を誇り、尚且つ機動性も確保されている重巡洋艦。その名も、
「…吾妻か」
艦長が、ため息混じりに呟いた。




