王墓
昨夜――九百二十五年五月二十一日の夜の佐渡襲撃以来、八咫烏軍は活動をやめ、沈黙した。事態が落ち着いたことを感じ取った世界市民たちは、一連の事件に名をつけた。
五月の子供騙し事件
子供騙しとは良く言ったものだと、連邦政府高官らは笑った。
五月二十二日の、日が暮れ始めた頃。伊勢は佐渡ヶ島西部、相川柴海岸に停泊していた。
「えー……契約は」
皐月の問いに、あたかも土方のようなツナギ姿の青田が淡々と答える。
「報酬金五千万、あとは兵役の生涯免除、この探索を機に君自身とあと諏訪高校、君の友人達は合宿を中断する。以上だね」
「これだけの不都合な条件を呑んでまで、俺をここに送り込みたいんですね」
皐月は青田の携帯端末の立体映像から目を逸らし、聳え立つ巨大なブルーシートの壁を眺めた。
辺には「工事中」と書かれた立て看板と立体映像標識が並んでいる。
いかにも工事現場らしい機械音と金属音がテンポよく鳴り響いている。
「これらも全部偽装なんでしたっけ」
皐月の問い詰めるような質問に、青田の隣で小森は苦笑いしながら答える。
「ああ、そうだ。言われてみれば、わざとらしくも見えるな」
小森、青田、そして皐月はブルーシートを見上げた。
一行はブルーシートの切れ目をくぐり、その内側に入った。
そこには到底工事現場とは思えないような、複雑な形状をした巨大な鉄の扉があった。その扉は皐月達の頭より遥かに高く、門といっても差し支えがなかった。
青田がその鉄の扉の、容易に手の届く位置に配置されたタッチパネルに右手を当てる。
そのタッチパネルの、彼の指先が当たっている五つの部分が円形を表示し、その上に立体映像で「認証」という文字が浮かび上がる。
そしてその巨大な扉は、ゆっくりとおもむろに開いた。
その内側から、大きな半円筒型の洞窟が顕になる。
所々に白色LEDライトが設置され、広い広い洞窟は抜け目なく照らし出されている。
「行きましょうか」
青田が言い、彼ら三人は洞窟の先の進む。
ある程度進むと、そこには下りの階段があった。その階段はかなり奥深くまで伸びており、それを降りるのだけで皐月達は凡そ十分の時間を要した。
その階段が途切れると、先程の洞窟と比べてこぢんまりとした半円筒の洞窟が広がっていた。
洞窟よりも、トンネルの方が相応しいかもしれない。
その洞窟の側面には所々に扉があり、それらの扉には全て「探索済み」という札が貼ってあった。
皐月達三人は、その洞窟を黙々と進む。
洞窟内の静寂を破るように、皐月が口を開いた。
「本当、折角働いたばっかだってのにすぐこんな面倒な仕事が入る……」
「済まないね、これは君にしかできないし、今やらなきゃならなかったんだ」
小森が申し訳無さそうに、皐月に返した。
その小森の言葉に、皐月は訊いた。
「俺の特異能力ですか?」
小森の代わりに、青田が答える。
「いや、違う。そして君が察している通りだと思うよ」
「そう……ですか」
皐月は深い溜息をついた。
寒い洞窟の中で、その溜息は白い霜となる。
皐月はもう一度口を開いた。
「あいつらが心配してるんで、なるべく早く帰して下さいよ」




