地上戦
「あと六機か……」
トンボ羽の暁斗は、脚をもがれ主砲を捻じ曲げられた戦車を眺めながら自嘲を含んだ声で呟いた。
「人が乗ってるかもって、殺さないようにしてたら、いつかは殺されるな」
瓦解したビル群の中、核パルスの白い閃光とともに四つ脚のホバー戦車は走り回り、時に跳ね回る。
その上空では、まるでドローンのような形の航空機と、前進翼で鋭利な流線形状の航空機が追いかけっこをしていた。
その様子を暁斗は眺めたのち、意識を地上に向け直した。
遠方から飛来する橘の援護射撃が、定期的に虹の小爆発を引き起こしている。
暁斗は虹色に煌めくトンボ羽をはためかせ、飛び上がった。
虹の軌跡が彼を追う。
彼方の空中で撃ち合いを続ける一対の連星のような戦車と暁音を眺めたのち、地上の戦車に意識を向けた。
その戦車は空中の暁音に砲口を向けている。
暁斗は咄嗟に、立体映像に映されたその戦車の射線に割り入る。
その砲口が青白い閃光を発した瞬間、暁斗は自分の体の何倍も大きい虹の壁を作り出した。
直後、その壁は崩れた。
崩れた壁の向こう側に、青白い爆風が飛散している。
その爆風の中を、暁斗は翼に押されるようにして突き抜ける。
砲口はまた、青白い閃光を孕んだ。
暁斗は背中の翼を巨大化させ、バタバタとはためかせる。そして暁斗は、螺旋を描く機動を取った。
戦車の射線を軸にその周りを大きく回りながら、戦車に接近して行く。
戦車の砲口の閃光が強まった瞬間、暁斗は翼を閉じて急降下した。
翼全体から虹が強烈に噴射される。その噴射炎を青白い熱線が貫いた。
急降下の勢いのまま暁斗は戦車の目の前に付き、その砲口を手で塞いだ。その手が虹色に発光し、直後にその砲身は泡立つように変形つつ赤熱化した。
暁斗が砲口から手を離すと、そこには虹の結晶が詰め込まれていた。
暁斗は両腕に携えた投射砲の砲口をその戦車の脚部のような部分に向け、虹を放った。が、その虹は砲身を飛び出した直後に、潰されたように飛散した。
暁斗は舌打ちをしながら、右手の拳を握りしめ、その拳を虹の揺らぎで包む。その虹は鋭利な円錐を描き、揺らぎを止めた。
暁斗はその拳を振り翳し、戦車の脚部にぶつけた。鋭利な虹が脚部に突き刺さり、虹色の爆発を起こした。
その爆発に紛れて暁斗は戦車の背後に回り込み、開かけの蕾のようなスラスターを同じように砕く。
そして暁斗は虹の翼をはためかせ、瓦解を逃れたビルの屋上に飛び乗った。
ほんと、特異能力と外骨格には感謝だな……
暁斗はそう独白し、日本海の方を振り向く。
「皐月は……居た!」
暁斗は夜空に浮かぶ虹の発光体を凝視した。そして暁斗は、その隣に別の機動歩兵がいることにも気付いた。
「……誰?」
その時、暁斗は視界の端に白い閃光が入り込んできていることに気がついた。
その白い閃光の方を向く。暁斗のヘルメット内のモニターには。敵の航空機が四つ、虹の発光体――皐月の方へ方向転換して向かって行っている様子を示していた。
虹の発光体から、一本の虹霓の筋が白い閃光へ一直線に進むのが
それからは、一瞬だった。
一分かかっただろうか、一要塞都市を破壊した一部隊の悉くが破壊された。
――――
「で、この人はこないだの透明人間さんです。隣の船が沈んだけど、偶然擬似皮膚着てたからなんとか外骨格で脱出できたんだそうです」
パーカーとジーンズの皐月が、擬似皮膚全身服姿の金髪ボブカットの少女を紹介した。
「おー」
「いえーい」
「ふぉー」
「すごい」
機動歩兵部門生達の気の抜けた歓声に、航空機部門生の声が続く。
「りんご好きそう」
「多分青リンゴ」
「絶妙に失礼じゃないラインの無礼やめてね」
それら声を聞き流したのち、金髪の少女は口を開けた。
「……どうも、別場恵真、高二で機動歩兵部門です。しばらくの間よろしく」
堀が深く鼻の高い彼女の瞳は青い。皐月のくすんだ青の瞳とは全く違う、瑞々しい青色の瞳だ。
そんな彼女の顔を、半ば囲むようにして立ち並んだ橘や暁斗達機動歩兵部門生と高松達航空機部門生は訝しむように見つめた。
「……私の顔、なんか異物でも張り付いてるんですかね」
怖気付いたように言った恵真に、高松が返す。
「いや、そういう訳じゃなくて、なんかこう……見たことないタイプの顔だなって。綺麗な顔ではあると思うんだけどね」
その言葉に恵真は一瞬逡巡したのち、どこか腑に落ちたように呟いた。
「そう?まぁそうよね」
暁斗はそんな恵真の顔を、皐月の顔と見比べていた。
気が済むまで念入りに見比べたのち、暁斗は口を開いた。
「なんか……二人ともところどころ似てね?鼻高いし、堀が深めとか目が青っぽいとかがな」
暁斗のその言葉に、恵真は心外と言った表情になり、皐月は困惑した。
皐月が口を開いた。
「……そうか?こんな髪でもこんな肌でもねえだろ」
皐月は白斑の浮く自分の手の甲を眺めた。
暁音が割り入る。
「でも言いたいことはわかる。なんとなく雰囲気は似てるのよ。でも血縁なんて微塵もあるはずないもんね」
その言葉に、皐月は忌々しい記憶を想起した。その想起をかき乱そうと、皐月は口を開く。
「……そりゃそうだ。似てる人なんているだろ」
「そそ、偶然偶然。ね」
恵真は皐月の方を向いて、にこやかに同意した。
それらの様子を遠くから眺めていた青田は独白した。
言うほど似てるか?
彼らを艦橋に乗せる伊勢は、佐渡北側海岸近海上でぷかぷかと浮いていた。




