Re:first contact
「熱運動を光学捕捉!光学迷彩状態の、涙滴型の物体が上空から三つ、来ます!」
乗組員の叫びに、小森が指示を飛ばす。
「光学迷彩……見破れているということを伝えてやれ。指向性ソナーピンガーを基地から発射だ!」
「了解!佐渡基地へ通信、指示した座標に指向性ソナーピンガーを発射せよ!」
「どうだ……」
小森がモニターに映る涙滴型の物体を見る。その物体には、光学迷彩という注意書きが書かれていた。
「……来た!ソナー命中!敵機体、光学迷彩を解除!」
「よし、これで楽になる」
小森は小さくガッツポーズをした。
夜空に、はっきりと涙滴型の物体が浮かぶ。
その物体は側面を大きく開き、中から別の物体を産み落とした。
それらは白い閃光を輝かせながら佐渡基地へ向かう。
「敵機体より、新たに発進した物体あり!確認済みの機動戦闘車十二、航空機六!核パルスです!」
乗組員の叫びに、小森は案ずる。
「まずい……いや、空中港は放射能対策はある筈だから、しばらくは大丈夫か」
小森は続けて指示を出す。
「離陸用意!本州の方まで子供達を逃がしてから、ここに戻り応――」
艦橋内に、耳鳴りが響く。
青田は片手に虹の揺らぎを籠め、拳銃を握っていた。
その銃口は、小森の頭を向いている。
青田の冷たい目線が小森の後頭部に突き刺さる。
「どさくさに紛れていけるかと思ったが、やっぱり無理か……残念だよ」
そう言いながら小森は、両手を上げる。
青田は落ち着いた声で告げた。
「政府特権で、小森艦長、貴官から艦の指揮権を剥奪する」
乗組員たちは、目を逸らすように持ち場に集中する。
小森は諭すように言う。
「言っても意味はないだろうが、人の最大の罪は人殺しだよ。それを子供にさせるのは、最大の罪よりも重い罪かもしれない」
「そんな悠長なことを言ってられる世界ではないんですよ、この星は。わかっているでしょう」
そう言って青田は、小森の言葉を払い除けた。
青田は小森に拳銃を向けたまま艦全体に通信を入れる。
「軍戦部、機動歩兵部門生と航空機部門生に告ぐ!今すぐ戦闘準備をしろ!疑似皮膚全身服を着用し、第三格納飛行甲板に集結!」
――――
「なんだってぇ!?」
信じられないと言わんばかりに暁斗は声を裏返らせた。
皐月は小さく舌打ちをする。
「実戦ってこと?」
暁音の質問に、皐月は急いで立ち上がりつつ答える。
「ああ。残念ながらそのようだ」
「マジか……」
暁音は現実を夢見心地に飲み込みつつ、急いで部屋を出て行った。
暁斗も後を追うように出て行く。
三人が出て行ったのを確認してから、皐月は毒を吐いた。
「クソが」
皐月は急いで服を脱ぎつつ、ハンガーに掛けてあった疑似皮膚全身服を引っ張る。
その疑似皮膚をベッドに落とし、皐月は服を全て脱いだ。
そして擬似皮膚の腹部にある接合部を開き、右足を突っ込む。
それに続いて、左足、右腕、左腕と突っ込み、腹部の接合部を閉じた。
皮膚にピッタリと張り付く擬似皮膚全身服は、まるで何も着ていないような感覚を皐月に与える。
真っ黒な身体を確認したのち、皐月は靴も履かず玄関を飛び出した。
――――
乗組員が叫ぶ。
「軍戦部、第三飛行甲板にて準備完了です!」
「青田くん、もう拳銃も何もかも捨てたから指示に集中していいぞ。私は部屋の隅で手を上げておく」
「有難うございます、小森さん……」
小森は手を上げたまま艦橋の隅に行き、そこに座り込んだ。
また乗組員が叫ぶ。
「機動戦闘車が基地を制圧!こっちに来ます!同時に、敵航空機が一機、直上に静止!距離、千五百!」
青田は刹那の内逡巡する。
空中港は放射能対策と共に装甲も十分、貫通はされない筈
「敵機、ロケット弾を発射!」
「衝撃に備え!」
青田が叫んだ瞬間、青い閃光と共にとてつもない衝撃が辺りを襲った。
空中港が瓦解する。
砂埃が煙のように充満する。
その煙の中、虹色の光が満ちた。
瓦礫と砂埃を押し除けながら、三角錐状の鋭利な流線が浮かび上がる。
「損傷確認!」
青田の声に、無機質な声が応える。
「本艦損傷なし」
「隣の艦は……『ハワイ』は大丈夫か!?」
今度は乗組員が応える。
「いえ……無力化されました。電気装甲がまだダメだったようです」
「クソッ……孤軍奮闘かよ!」
青田は机を叩いた。
――――
伊勢の艦内にて、皐月は外骨格装甲に身を包んでいる。
無機質な声が、ヘルメットの中に響く。
「基本システム、戦闘用」
皐月の口と鼻を、嘴のような形状の黒いゴツゴツとした物体が覆う。
無機質な声が続く。
「酸素マスク、着用完了。電池充電量百パーセント。電圧、電流十分」
無機質な声を遮るように、ヘルメット内に暁斗の声が響く。
「この呼吸器密閉感あるから嫌いなんだよなー」
「わかる」
暁音が同意した。
機動歩兵の五人の内、皐月は高松の戦闘機、暁斗と暁音は秋田の戦闘機、橘と水野は風間の戦闘機の背に乗った。
高松が通信を入れる。
「ウェリントン三型、三機とも小型核融合炉稼働、出力万全です!」
青田が通信を返す。
「発進せよ」
「了解」
高松の返答と共に、壁が開いた。
壁の外には夜の真っ暗闇が広がっていた。
その暗闇には、砂埃が充満している。
外から戦闘機が一機ずつ、開いた壁の外側の展開された甲板にスライド移動する。
空中港があった場所には、青白いキノコ雲があった。
その中から三つの虹の光が一つずつ、夜空に向かって飛んで行く。
砂埃に、虹が乱反射する。
三つの光は、白い閃光が幾つか飛び交う基地の方向に向かって方向を転換し、加速する。
丁度その時、基地から先ほどと同じ青い閃光が発せられた。
夜空が一瞬、パッと明るくなる
衝撃波が夜空を裂き、爆発音がそれについてくる。
青い閃光が籠ったキノコ雲が、基地のある場所から立ち昇る。
基地の足下、佐渡市街を覆っていたドームが瓦解し、雨のように水が飛び散る。
高い塔のような基地から、白い閃光が十二個、ゆっくりと落ちる。
「目標、敵機動戦闘車。巡航ミサイル、撃て!」
高松が叫ぶ。
それに続いて、機動歩兵を背負っている戦闘機三機がその腹にあたる部分を開いた。
そして三機は、その腹の部分から四発の虹を放った。
「おい明奈!くるぞ!」
風間が叫ぶ。
背後から三機の航空機が接近してきていた。先程空中港に爆撃をしたものと同じだ。
高松は落ち着いて機体をロールさせ、背面飛行に移った。
それに同調し、風間の機体も秋田の機体も背面飛行する。
「みんな行ってらっしゃい!」
高松の声と共に、機動歩兵が戦闘機から手を離した。
基地があった地点、キノコ雲の根元で十二個の虹の小爆発が起きた。
それを受け皐月は、ヘルメットの内側の立体映像が示す十二個のターゲットスコープを凝視した。
外れたのか、はたまた無効化されたのか、どっちにせよ敵はまだ生きてるな
安定翼を広げながら、皐月は独白した。
暁斗はトンボのような羽、暁音は猛禽のような羽を広げる。
闇夜に虹の翼が煌めく。
皐月は、六年前の光景を思い浮かべた。
暁斗の声が、その妄想の糸を断つ。
「橘先輩、射程内じゃないですか?」
「二千メートル、ほんとだ、射程内だ。ありがと」
橘は滑空のために寝そべっていた体勢を起こし、安定翼を閉じ、両肩に下げていた狙撃用の大砲を肩の前に展開した。
「撃つぞ。水野、直掩頼む」
「え、僕?」
「敵は機動戦車……軽装甲目標用に調整、発射!」
大砲の砲身内が虹色に輝く。
直後、虹の閃光がその砲身から溢れ出た。
虹の閃光は熱線としてキノコ雲の根元の白い閃光たちの内一つ急速に迫る。
遥か遠方で虹の小爆発が起きた。
「敵は……やれてないな。次弾、重装甲目標用に調整、発射!」
虹に輝く砲身から、今度は砲身の口径に見合わぬほど細い、紐のような虹が放たれた。
その紐の如き熱線は、虹の小爆発の残滓の中心にぼんやりと浮かぶ白い閃光へと突き進む。
その白い閃光に虹の熱線が突き刺さる。
今度は、もっと小さな虹の爆発が起きた。
「えーと……損傷軽微、といったところかな。直撃でこれかよ」
橘の報告に、暁斗が提案する。
「やっぱり、接近戦するしかないか。幸い航空機は高松たちが引き付けてくれてるし、一気に仕留めないと全滅かも」
「何しろ、軍の基地を一分で制圧する怪物集団だ。油断だけは禁物だな」
そんな皐月の言葉にはどことなく悔しさが籠っていた。
皐月は指示を出す。
「橘、あと水野、お前らはここで長距離支援だ。暁斗、暁音、俺たちは突っ込むぞ」
「っしゃ行くぜ!」
「うおー!」
緊迫した調子の皐月とは裏腹に、暁斗と暁音は楽しげだった。
皐月は安定翼を後退させつつ、スラスターから大量の虹の揺らぎを噴射する。
暁斗と暁音も、翼から伸びる虹の軌跡を夜空に焼き付けながら急加速する。
三人のヘルメットの内側に、警告音が響いた。
十二個の白い閃光は同時に、青紫色の閃光へと変化した。
その閃光が急速に迫る。
その閃光を、三人は加速のついでに軽々と躱した。
青紫の閃光は一直線のオーロラを夜空に残しつつ、空の彼方へ飛んでいった。
間髪を入れず、もう一度警告が鳴る。
同じように、もう一度避ける。
「あの熱線、連射できるのか」
暁斗は驚いた。
皐月が青紫の熱線を躱しながら言う。
「そうっぽいな、ちょっと手強いぞ。暁斗、防壁で弾けるか?」
「やってみる」
そう言って暁斗は高速接近をやめて体を起こし滞空しつつ、虹の揺らぎを全身から放出し、それを体の前方の一点に収束させた。皐月と暁音は減速した暁斗を置いて、回避行動を続けつつ白い閃光の方へ加速する。
暁斗が収束させた虹の揺らぎの点に当たった青紫の熱線が、暁斗を避けて弾け飛ぶ。
「なんだ、結構軽く弾けるじゃん」
感心した暁斗を暁音が褒める。
「ナイスお兄ちゃん」
「やっぱりプラズマ弾なら弾けるよな……よし、避けないで行けるだけ避けずに行くぞ!」
皐月の指示に、二人は同意する。
「了解!」
「おっけー!」
三人は、回避行動ではなく加速に集中した。
青紫の熱線たちは、装甲に迫ると虹の揺らぎに触れ、弾け飛んだ。
熱線の連射が止む。
諦めたか
皐月が独白した。
その時、青田の声がヘルメットに響いた。
「日本海側より、機動歩兵が接近!総数、二十だ!」




