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虹時代 出来損ないの亡霊  作者: 小型旧人
昔話と墓暴き編
40/53

前哨決戦後、決戦前

 北米でア連が大敗を喫した頃、太平洋連邦機動艦隊総勢百艦と財団の天照はヴァージン諸島上空に到着していた。

 辺り一帯の住民は皆避難のため飛行車に乗り、大船団の真下でジェットエンジンの甲高い音が鳴り響き続けている。

 ア連のアフリカ艦隊の七割が北米に派遣され、日本艦隊がヴァージン諸島に到達するのを遅らせるため必死の抵抗をしている。

 そんな中でも、常に核弾頭の弾道ミサイルは地球上、ア連と日本連合皇国間を飛び交い続けている。

 八咫烏軍の声明から凡そ五十分、地球上には計十二個の巨大な灼熱のキノコが生えていた。

 予告された襲撃まで、後十分。

 太平洋連邦機動艦隊約百隻、そして天照に緊張が走る。

 後九分、八分、

 伊勢の各個人部屋では学生たちが、艦橋では軍人たちが真剣に様子を見守っていた。

 後七分、六分、

 ゆっくりと南下する日本艦隊の戦線は、じわり、じわりとヴァージン諸島に近づく。

 ヴァージン諸島の各軍は、どこから来るかも分からない強敵に警戒しつつ怯えている。

 ヴァージン諸島の艦隊は武装を展開した。

「おっ」

 テレビで様子を見ていた暁斗が反応する。

「いよいよ始まりそうだな」

「ドキドキ」

 暁音が楽しそうに、口から擬音を発した。

「どうなることやら」

 そう言った皐月は、ベッドに寝転がりながらテレビの様子を見る。

 テレビは、やっと住民の避難が完全に終わったという事実を告げた。

 ヴァージン諸島の各島の基地に配置された自走式のミサイルポッドが発射体制になる。

 艦艇たちの滞空用スラスターの虹が曇り空の影に光を差す。

 後四分、三分

 全世界の軍司令部は騒ぐ。

 市民も騒ぐ。

 世界が大騒ぎになる。

 伊勢の個室の中で、三灯の三人はのんびりとその光景を眺めていた。

 暁音が会話を切り出す。

「関係ないんだけどさ、こないだ動画で見かけたんだけど、だいぶ昔は世界大戦のこと第なん次とか数えてたらしいよ」

「へぇ」

 暁斗は聞き流す。

 皐月は少し羨ましそうに呟いた。

「平和な時代もあったんだな」

 そして皐月は、また電子シーシャの管を口につけて深呼吸をした。

 暁斗が立ち上がる。

「もうちょっとなんか食おうぜ、俺お菓子持ってきた」

「えっ、なになにー?」

 暁音が嬉しそうに訊く。

 それに、暁斗は無言で、玄関に置いていた鞄から取り出したポテトチップスの袋を見せつけることで答えた。

「おっ、ポテチじゃーん!やったー!」

 暁音は分かりやすく喜んだ。

 皐月は少し嬉しそうに微笑んだ。

 暁斗が机に袋を置く。

 すぐさま暁音が袋を割くように開く。

 三人はその袋の中から黄色い歪な円盤を手で取り食べた。

 後二分

 ネット上の議論は加速する。

 その議論は、議論というには足らず、憶測のぶつけ合いと言うべき内容だった。

 根拠のない憶測をまるで意見のように発信し、どの憶測を鵜呑みにしたかで派閥争いを続けている。

 後一分

 ネットの議論紛いの口喧嘩が徐々に鎮まる。

 皆、一分後に始まる戦争に意識を集中する。

 ヴァージン諸島の周辺の陸海空に緊張が走る。

 曇り空の上も下も、空飛ぶ艦艇が埋め尽くす。

 何処から来るのか分からない、何をしてくるかも分からない未知のテロリストに、軍は起きうる可能性の全てに対する対策を試みた。

 水面下では魚の群れのように潜水艦と潜水艇が(たむろ)し、陸上では戦車と歩兵が戦列を組み、空は軍艦が埋め尽くしその間を縫うように戦闘機が飛び交う。それらの間に、ポツポツと機動歩兵が配置されていた。

 後三十秒

 テレビでカウントダウンが始まる。

 立体映像に映し出された数字が、30、29、28と減って行く。

「こんな盛り上がるカウントダウン、年越しくらいだな」

 そんな暁斗の言葉に、皐月は軽く異を唱える。

「年越しの数倍は盛り上がってるだろ」

 暁斗と皐月がそんなやり取りをしている最中も、暁音はテレビと同期するように大声で数字を唱える。

「二十七!二十六!二十五!二十――」

 そんな暁音をよそに、皐月はテレビ画面を凝視しながらシーシャを吸い、暁斗はポテトチップスを貪る。

 皐月がつけたままにしていた携帯端末の立体映像に、興奮した様子の文字が次々と表示される。

 くるぞ……

 ワクワク

 ワクワクニョキニョキ

 wknykしてきた

 うおー!見てるだけだけどうおー!

 カウントダウンする暁音の声が昂る。

「三!」

 皐月は電子シーシャをベッドに置く。

「二!」

 暁斗がポテトチップスを食べるのをやめ、指を皐月の服で拭く。

 皐月はそんなことは意に介していない。

「一!」

 テレビも、ネットも、完全に静まり返った。

「ゼロ!……あれ?」

 しかし、何も起きなかった。

 ヴァージン諸島には、何も起きなかった。

 だが

 

「レーダー妨害検知!」

「は!?」

 伊勢の艦橋が騒ぐ。艦橋にいた乗組員の信じ難い叫びに、青田は驚愕の声を上げた。

「なんだと!?」

 警報が鳴り響く。

 その警報は、艦の内側と外側、即ち空中港のドッグにも鳴り響いた。

 赤い警告灯が建物の内側を駆ける。

 青田の驚愕が治るより早く、小森は指示を飛ばした。

「栄養チューブ切り離し、外部循環器システム解除!」

 警告灯の赤い光の照らされて点滅する艦から、複数の管が剥げ落ちる。

「核融合炉、行けるか!」

 小森の問いに、無機質な音声が応える。

「リチウムブランケット、万全を確認。冷却システム、万全を確認。リチウムイオン電池、電流及び電圧十分。炉内虹力子、質量、状態、共に万全を確認。三重水素、重水素共に万全。核融合シミュレーション、完了。虹力式直接発電型D-T(ディーティー)反応炉、起動」

「よし、電気装甲起動!」

 皆が動揺し慌てる。

 小森は冷静に指示を出す。

 そんな中、青田は逡巡する。

 ヴァージン諸島には奴らが来る様子は未だにない。タイミング的にも状況的にも、レーダー妨害をしてきた奴らは……敵は八咫烏軍だろう……我々は、世界は騙されたのか。世界を巻き込んだ盛大な詐欺、宗教テロリストにしては……こんなところに来て、目的は……いや

 青田の脳裏に、白髪混じりの髪、灰を被った瑠璃の如き眼、白斑まみれの顔の男――三灯皐月の顔が浮かぶ。

 目的なら十分ある……その目的が正しいとしたら、そもそも奴らは、宗教テロリストでもなんでもないのではないか

 それに気づいた青田は、思わず息を呑んだ。

 青田が大きく息を吸う音を遮るように、乗組員が叫ぶ。

「熱運動を光学捕捉!光学迷彩状態の、涙滴型の物体が上空から三つ、来ます!」

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