平穏
「うわぁ……ここまでも久々なんじゃないか?しかもカナダって結構な観光地じゃん、ひでぇ」
暁斗は皐月の部屋で、テレビに映ったリアルタイムニュースを見て恐怖した。
皐月は携帯端末でニュースを見ている。
「まぁ、この程度の虐殺はしょっちゅうそこら辺でぽんぽん起きてるよ。あと、ア連の報復の核とウイルス爆弾が日帝の中華とロシア、あとヨーロッパに着弾だって」
「えっぐぅ……日帝が攻めてきたのが列島じゃなくて良かったぁ」
暁音が恐怖と安心混じりの声で言った。
廊下の外から声が、ドア越しに微かに響く。
「今日は色々みんな仕事ありますし、明日はレイジヤシマ聖地巡りしたいんで、優里先輩、付き合ってくれます?」
「良いんだけど、何で?」
「僕チビだし、一人でいると舐められがちなのでね」
声が遠ざかる。
皐月が一瞬だけ顔を強張らせたのを、暁斗と暁音は見逃さなかった。
暁音が皐月の頭を撫でる。
「まぁ……気にしないでね、なんか遊ぼ?」
撫でられながら皐月は答える。
「いや、ちょっと気分転換してくる。電子シーシャ吸ってくるよ」
そう言って皐月は立ち上がり、引き出しから青い筒状の手のひら大の機械を取り出し、部屋から出ようとした。
皐月が出て行く前に、暁斗は無言で皐月の肩を抱いた。
皐月は部屋を出、艦橋ベランダに向かった。
ベランダから出ると、そこには電子タバコを吸う青田がいた。
舌打ちを堪えてベランダを出ようとすると、青田がそれを止めるように話しかけてきた。
「それ、シーシャかな?」
「……はい」
皐月は諦めてベランダの柵にもたれ、電子シーシャのスイッチを押した。
管を口につけ、息を吸い、そして水蒸気を吐く。
青田は訊いた。
「なんでシーシャなんか?」
「風味しかわからないので、これくらいしかはっきり味がわかるものがないんです」
「ああ……ごめん」
「良いですよ、そんなこと謝るくらいならさっさとこんなことやめて欲しいってのが僕たち子供の理論ですし」
申し訳なさそうな青田に、皐月は嫌味をぶつけた。
青田は無言のままだ。
皐月は続ける。
「軍戦部ってのが元からおかしな存在ですけど、それを軍艦に乗せて日本との最前線である日本列島を周遊させる……政府を盲信している者でなければ、すぐ分かりますよ」
青田は誤魔化すように苦笑いした。
そして、口を開いた。
「政府なんて、どこもそんなものなのさ。残念ながらね」
「そうじゃない政府を求めて作られたのが、連邦の筈なんですがね……」
皐月は水蒸気を吸って吐いた。
青田も同様に深呼吸した。
青田は言う。
「僕は少数の犠牲で多数を助ける主義なんだ」
皐月は言う。
「だから、俺たちを犠牲にしようって言うんですね」
青田は俯き加減に言う。
「誰がそれを背負うか、それだけだ。自分からそれを背負う人は居ないだろう?」
そんな青田の言葉に、皐月は嫌悪感を込めた声で嫌味を言った。
「だからって、それを子供に背負わせるんですね」
「背負えるだけの能を持ち合わせてしまったんだ、学生の軍戦部は。政府はそれを見逃さなかった。君はその最たる例だろう」
「やっぱり、全部知ってるんですね……」
皐月は強い嫌悪と絶望を感じ、それを口から出る水蒸気に込めて吐き出した。
青田も同じように電子タバコを咥えて深呼吸しながら皐月に答える。
「全部じゃないさ。なんなら殆ど何も知らない。全て奴らが焼き払ってしまったからね」
「まさか、六年前のあれは……」
「さあな」
皐月が言う前に、青田は言葉を遮って、逃げるようにベランダを出た。
それを見送り、皐月は水蒸気を大きく吐き捨てた。
その頃、太平洋連邦ピトケアン州北東第七人工諸島基地には五芒星が描かれていた。




