電子レンジ
「やめろぉ!」
「誰か……誰か……」
「ひぃぃ」
「おかぁさぁん」
市民の悲鳴が街道に轟く。
日本軍の機動歩兵たちは地上で隊列を組み、道を封鎖するように並び、歩いている。
一歩一歩、積もる雪を踏み潰しながら、歩調を揃えてテンポ良く歩く。
一定間隔おきに地面と装甲が触れる音が鳴る。
機動歩兵たちは両腕を前に掲げながら歩く。
その腕の向けられた先に居る人間は皆、何かを被弾することも何もなく、一人でに「破裂」する。
鼻や口、耳から血と共にピンク色の何かが飛び出し、全身の皮膚を膨張した肉が突き破り、眼球は爆弾のように弾ける。
トマトを踏み潰した残骸のような何かが街道の所々に散りばめられている。
鈍い赤色が雪を染める。
機動歩兵たちは歩調を変えず、美しいとも思えるほど綺麗に歩調を合わせたまま歩き続ける。それは優美な行進曲でも聞こえてきそうなほどだ。
先頭の機動歩兵の列が何か一つ建物の入り口を通り過ぎれば、後続がその入り口に突入する。
街道を挟む建物群の中からも、悲鳴が断続的に聞こえる。
カナダ北部ヌプナト州クグルトゥク市街には、日本軍の機動歩兵たちが入り込んだ。
ビルたちの隙間の街道を、機動歩兵たちは染み込むように進行する。
一部の市民は家から銃を取り出して対抗しようとするが、その銃弾の悉くが虹の膜に焼き切られた。
機動歩兵の隊列は街道に落ちている赤い塊を踏み潰しながら進む。
その隊列の後方からついてくる日本軍の戦車に乗った指揮官は、通信を受け取った。
「財団はアラスカの方で足止めしている。なる早でこの市街の住民を殺害しきって占領してくれ。敵部隊が出てきたら、『除霊隊』に任せるように」
司令部からの通信に、指揮官は答える。
「了解」
次々とビルの灯りが消える。
そんなことは意に介さず、機動歩兵たちは両腕を前に掲げたままひたすらに前進する。
市内の所々で機動歩兵の隊列は合流と分裂を繰り返しながら、行進を続ける。
人間が破裂する。
内臓が雪の上に飛び散る。
それらを装甲に身を包んだ人間が踏み潰す。
それをひたすらに繰り返していた時、指揮官の乗る戦車の乗組員が叫んだ。
「レーダー妨害検知!」
「来たか…ドローンを飛ばせ!」
指揮官の指示と共に、戦車からドローンが飛び立つ。
そのドローンはビル群の上まで登ったのち、静止した。
「敵確認、機動戦車部隊です!ホバー戦車3、無限軌道の重戦車2です!」
乗組員の報告を聞き、狭い車内の中で指揮官は通信を入れた。
「除霊隊、対応に向かえ」
その時、指揮官の乗る戦車の後方から四人の機動歩兵が飛び立った。
四人は安定翼を開きながら上昇する。
ビルの上まで昇った後、四人は同じ方向に転針し加速した。
しばらくの飛行ののち、彼らのカメラは5両の戦車が一列に並びながら雪原を走っているのを発見した。
すると戦車たちは停止し、車体の上に虹の膜を展開しながら砲塔を上に向けた。
四人のうち一人が、戦車が発砲する前にその五両に向けて五発の虹に揺らぐ熱線を連続して発射した。
虹の膜がそれを弾き飛ばす――ことはなかった。
虹の熱線はその膜に浸透した。
膜が溶けてゆく。
その時、前兆もなく落雷が五回発生した。
青白い閃光が辺りを包む。
その閃光が消えると、雪原上には黒焦げた戦車の残骸が五つあった。




