休日
天安門前の光景を映す平面映像を空間に投影した携帯端末の電源ボタンを押し、水野は嬉しそうに深呼吸をした。
「いやぁ、やっぱ佐渡と言ったらレイジヤシマ伝説の聖地ですもんね、最高!」
嬉々として言う水野に、橘が質問する。
「そうなの?なんで?」
「優里先輩も、レイジヤシマは知ってるでしょ?」
「ああ、流石に知ってる。神話みたいなもんだろ?」
「そうそう、そのレイジの墓が佐渡の地下にあるとされてるんですよ!」
目を輝かせながら言う水野に、橘は質問する。
「へー、なんで?」
「『なんで』?理由?そりゃ…文献にそう記されてたから」
「ふーん」
橘は頭の後ろで手を組みながら納得した。
その様子に、水野は少し不満げに言う。
「その話を繋ぐのに『なんで』を使う癖やめて下さいよ!」
「ふっ、ごめんごめん」
橘は鼻で笑いながら謝った。
笑う橘の顔を見上げながら頬を膨らませる水野が、モノレールのガラスの内側に映る。
その反射の奥、手を伸ばせば届きそうな距離でビルが背後に流れて行く。
そのビルが流れきり、途切れた。その代わりのように、遠くに曇り空、塔、それを包む建物の群れが風景として、モノレールの内側に流れ込んだ。
「あ、あれ」
橘がその風景を指差す。
水野が膨らんだ頬から息を抜き、振り向いた。
「これが、佐渡基地ですか」
「列島北部の前線なだけあるな」
二人はそれに見惚れた。
その基地は、学校の簡易基地や住んでいる街にある基地とはかけ離れた規模を持っていた。
その巨大な基地の塔は、透明なドームの上から、まるで巨大な城のように街を見下ろしていた。
見惚れているうちに、二人を乗せたモノレールは停止した。
二人が基地の反対側の窓を振り向くと、そこには開いたドア、その先に続く騒がしい空間が広がっていた。
「もうゲーセンついたのか」
「思ってるよりも早かったですね、なんならモノ停と同じ階だったし」
「下にもあるっぽいよ。残高いくらある?」
橘は下を向いて水野に訊いた。
水野は得意げに答えた。
「考えなくていいくらいには」
「俺もだ。とっといた甲斐あったな!」
二人がゲームセンターに入る。
遠かった曇り空はいつしか彼らのビルの頭上まで到達し、ゆっくりと時間をかけて傾いた太陽の陽光が曇天の水蒸気や水滴の中で乱反射している。
モノレール停留所に、モノレールが停留した。
ドアが開く。
中から二人の少年が出てくる。
「あー、楽しかった」
「結局考えなきゃいけない金額になっちゃいましたよ」
「楽しかったんだし、良いじゃん?」
「まぁそうですけど」
楽しさの余韻に浸る橘と、携帯端末が表示した残高を悲観的に見る水野がモノレールに乗り込んだ。
「行き先を指定して下さい」
モノレールの車両内に無機質な声が響く。
橘が答える。
「空中港に一番近いモノ停で」
「了解しました。空中港前3番乗り場に向かいます」
モノレールはレールと触れている部分に電磁気を帯びつつ静かに発進した。
車両内のベンチに二人は座る。
遠くにある巨大な基地も夕焼けの色に染まっていた。
橙色を反射したビルが、窓の外を高速で流れる。
柔らかな流線を描きながら曲がりくねるリニアモーターレールに沿って、モノレールは進む。
やがて、モノレールはぴたりと静止した。
「目的地、空中港前3番乗り場に到着しました」
無機質な声と共に、側面の窓ガラスが開いた。
橘と水野は停留所からビルに入り、エレベーターに乗り込む。
「1」と書かれたボタンを水野が押した。
多重のドアが閉じ、エレベーター内を穏やかなモーター駆動音が満たす。
浮遊感と共に、モニターに表示されている数字が徐々に小さくなる。
78、77、76……
橘が暇つぶしに携帯端末を開き、投影された立体映像を指でいじり始めた。
「おっ」
投影されたニュースとAIによる立体図解を見て、橘は小さく驚いた。
「水野これ見て」
「うわぁ……北極か、早いですね」
立体映像は、ロシアから複数の赤い矢印が北極へ向け伸びている図を映している。その脇に映った説明文には、こう書かれていた。
日本艦隊が、ア連北極海基地への侵攻を開始
「ここら辺は軍基地と採掘基地しかないから良いですけど……この調子じゃすぐ落ちそうですね」
「ちょっと怖いよなぁ……」
そう話す間にも、モニターの数字は小さくなり続ける。
3、2、1
軽快なベルの音がエレベーター内に響いた。
二人はエレベーターを出、地上出入り口に向かう。
出入り口周辺の広間に大量の夕陽を流し込む大きな窓ガラスからは、大きな入り組んだ建造物が見えた。
その建物には、大きく「日本海側第一空中港」という文字が記されていた。




