佐渡
「久々の陸地だー!」
「補給と整備の為に数日ここで待機だって」
跳ね回って喜ぶ暁音の後ろから、皐月が説明する。
「どれくらい掛かるかわかんないけど、一週間未満ではあるらしいよ」
「ふーん」
皐月の隣で寒そうにポケットに手を入れている暁斗が、やる気のなさそうな相槌を打った。
「こないだの釣りの魚を食材として伊勢で売ったら意外とお金入ったな」
暁斗は携帯端末の立体映像に映る「1250」という数字を眺めながら、嬉しそうに言った。
皐月が同意する。
「魚だけであんな高値とはな、食堂の端末AIも太っ腹だな」
「天然食材は貴重だからだろうな、どっちにせよウマウマだぜ!」
暁斗は楽しげに笑って続ける
「いやぁ連邦は……太平洋連邦はいい国だ。他の国と違って貧富の差もあんまないし、俺たち子供が憲法で守られてる。ありがたいもんだね」
「何条だっけ」
皐月が口元に手を当てて考える中、暁斗が即答する。
「連邦憲法第六条、未成年の保護……だっけか。少年兵などの未成年の徴兵を如何なる場合でも恒久に禁止ってなってる他に、労働は禁止。おかげさまで俺たちは楽にできてるってわけだ。給付金もあるしな」
「最低限、他の国よりは良い国だな」
皐月の含みのある発言に、暁斗は疑問ぶつけた。
「この国に悪いとこがあんのかよ」
「ネットが国営の時点でお察しだろ?」
「逆に国営じゃないものが世界の何処にあるよ」
暁斗の反論に、皐月は答える。
「国が中心の世界で、人が中心の世界じゃないからこうなるんだ。これは普通に見えて異常なことだよ。絶対的にはね」
暁斗は、その言葉の意を五割方解していなかった。
「ま、そんな重苦しい話は置いといて、飯食い行こーぜ!」
先に少し遠くへスキップして行った暁音に追いつこうとかける暁斗に、皐月は釘を刺すように告げた。
「奢らないからな」
眼前には、モノレール高架の入り組んだビル群が広がっていた。
背後の空中港から離れ、三人はどんどんとビル群へ向かって行った。
その空中港の出入り口付近の広場の中を、二人の少年が歩いている。
「あんなふうになってんだな、空中港って」
二人のうち一人の橘が感心したように言う。
「初めて見た、すげぇな空中港って」
「ですよね、僕も空中ドッキングはちょっとドキドキしました」
水野が凍えながら同意した。
そんな水野を橘が揶揄い混じりの声で心配する。
「どうした、寒い?」
「じゃびゅい……」
「防寒着もうちょっと着込んでくりゃさ……」
そう言いながら橘は、自身の冷えた手の甲を水野のうなじに当てた。
水野が震え上がる。
「ひゃっ」
小さく鳴った悲鳴に続けて、少し怒ったような目で橘を睨みながら言う。
「やめて下さいよ、もう」
「ハハ、ごめん」
橘はにこにこと笑いながら謝った。
ガラス製の空中港の自動ドアを二人は通った。
二人も、ビル群の方へ向かっている。
――――
伊勢は空中で数多の骨組みに包まれながら、沈黙している。
艦の装甲など外殻を、四本足のロボットが歩き回って整備をしている。ロボットたちは艦上、艦側面、艦底までくまなく分布され、ところどころで足を縮めて金属音を鳴らしている。
艦の中央あたりに、有機栄養剤と書かれたチューブが刺さっている。
そんな中伊勢ベランダには、骨伝導イヤホンをつけた青田が居た。
「はい……はい、順調です。もう少し後にしようかと思いましたが、念のため少し、いや、かなり早めました……はい、どちらもうまくいっていると思います……はい、承知しています、はい……遺跡区域189番ですね、はい……はい、順調です。では……はい、失礼します」
青田の腕に付いた端末に、通話終了という文字が映る。
骨伝導イヤホンを取り、それをポケットに入れて入れ替わるように電子タバコを取り出す。
いつも通りその電子タバコの管を口に咥えようとした時、腕の端末が振動した。
「……ん?」
青田は電子タバコを口から離し、腕を持ち上げて端末を見た。
艦橋から呼び出し
「珍しく晴れてるってのに、息抜きもさせてくれないか」
青田は溜息をつきながら電子タバコをポケットに戻した。
――――
艦橋モニターに赤い点のついた南太平洋が映る。同時に、男の声がモニターから聞こえてくる。
「今し方、ポリネシア州ピトケアン北東部第七人工諸島基地が落ちた。役所機能諸共壊滅だ。基地残骸には五芒星。ヤタガラス共だろう敵兵器は機動戦闘車と航空機かドローンか何かで、核パルス推進、プラズマ、反物質兵器を使用、相も変わらずとんでもない放射能汚染量だ。反物質兵だからとんでもないコストな訳だ。きっと訳あり集団なんだろう。あと今回はあっちの連邦軍人が頑張ってくれたおかげで、偵察情報がそこそこ入ってる。これだ」
モニターの南太平洋が消え、平面映像が立体映像になりながら別の映像が映る。
「これが、敵の機動戦闘車。以前から確認されていたやつだ。多脚戦車という訳ではないが、ホバー機構のついた四つの足っぽい物が車体を支えてる。可動域の広い四つ足の付け根関節のおかげで、仰俯角が真上から真下まであるようだ。あと特殊なのが、核パルススラスターの配置が移動するというところだ。これにより移動方向を変えても移動速度をあまり変えないという芸当ができている。次、敵の航空機。こいつは垂直離着陸機のようで、空中でホバリングして反物質で爆撃している。機体を囲むように付いてる核パルススラスターの方向を変えてホバリングしている。次が新発見、潜水艦だ。涙滴型の潜水艦で、艦橋は無し。武装も確認されなかったし動力も分からないが、推力がウォータージェットであることだけは分かる。奴らが退却する時にコイツが確認されたから、多分来る時もコイツに乗ってるんだろう。報告は以上だ。国際自警財団からのメッセージがあるが……半ば煽りたいだけの文章だから読み上げる必要はない。それでは、失礼」
モニターが真っ暗になった。
艦橋に集まった軍人たちがざわついている。青田も座席で肘をついて思案顔をしている。
小森は顎をさすりながら黒いモニターと睨み合いをしていた。
そんな中、艦橋にいた石井が口を開く。
「結構強いんですね、その宗教テロリスト」
「ああ、強いなんてものじゃない。初めてだよ、ここまでぽっと出のテロリストにやられるのは」
小森が横目に答えた。
石井は一人で艦隊戦シミュレーションをし続けていた。
卓上の立体映像にリザルトが映る。
それを見た青田が、席を立ち石井の元に歩いてきた。
よくはないんだが、まぁたまにくらいならな
青田がそう独白しながら、石井に話しかけた。
「石井くん、だっけか。君の作った戦術レポート見たんだけど、凄く良かったよ。何で勉強したの?」
「えっ?ああ……まず孫子は基本として、兵法三十六計、あとは艦隊運用覚書シリーズは大体読みました」
石井は読んだ本を指折り数えながら返した。
そんな石井を見て青田は、戦術家としての本能が疼くのを感じた。
「流石。ちょっと一戦やらない?」
「え?いいんですか?」
「いいよ、多分」
そう言いながら青田は小森の方を振り向いた。
小森は何も言わずに笑みを浮かべながら頷いた。
それに青田は軽く会釈して、石井の向かいの席に座った。
「じゃあ、設定はどうしますか?」
「そうだな、遭遇戦で行こうか」
青田と石井は、目に光を宿しながら笑っていた。




