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虹時代 出来損ないの亡霊  作者: 小型旧人
昔話と墓暴き編
3/33

普通の学校

「あれから、もう六年か〜」

 テレビを見て暁音が言う。

 修復歴925年、五月五日。朝焼けの余韻が空に残っている頃。

 情報番組は、あの日の解説をしていた。

 日本連合皇国、朝鮮自治区、釜山の国立研究所襲撃事件。修復歴919年に発生したテロ事件。

 灰と化した研究所は、今も暴力の恐ろしさの象徴として残されている。

 ただ、それを誰がやったのか、何のためにやったのか、そこでは何の研究をしていたのかなどは、全く明かされていない。医療関係の研究をしていたという情報が出回っているものの、それは日本の出した嘘の情報だ。

 また、そこから脱出した実験体が太平洋連邦に逃亡したという事実は、出回らせていいはずもなかった。

 番組は続ける。

「日本を含む、全世界三カ国全てが関与を否定しており、六年経った今でも詳細は不明です」

 皐月は、その日の巡洋艦と追ってきた兵士を思い出す。そして、朝から不快な記憶を思い出すことに嫌悪感を覚える。

「みんな何もしらねぇと思うと、なんか特別感あっていいな」

 暁斗が少しにやけながら言う。

「物もいいようだな」

 皐月が吐き捨てるように言う。

 食べ終わったまま放置していた食器を片付け、適当に水につける。

 帰宅後皿洗いをしなければならないという事実から目を逸らしながら、皐月は自分の部屋へ行きパジャマから私服へ着替える。

 荷物の入ったリュックを背負い、部屋から出た。玄関で後の二人を待ち、三人で一緒に家を出る。

 玄関から出れば、到底家とは思えないような光景が広がっている。実際、ここは一般的には家ではない。神社だ。

 三灯家代々で受け継いできたこの神社は、その名も三灯神社。太平洋連邦、日本州の東京湾沿岸付近にある、修復歴前から存在するとされる神社だ。

玄関先に止めてある通学用飛行車の人工知能端末に、皐月は話しかける。

「二年生一人、一年生二人だ。乗せて」

「身分証明書を提示してください」

 無機質な女性の声が答える。

「ですよね」

 そう言いながら皐月は学生証を差し出し、端末の前に掲げる。車のドアが開く。四人乗りの車に、皐月が前の席に座る。二人も学生証を読み取らせ、暁音は皐月の隣に、暁斗は後ろに乗り、開いた一席に荷物を集める。

 機械的な音声が話し始める。

「目的地を諏訪国立学校に設定、駐車機より燃料補充完了、飛行経路設定、到着予定時刻八時三十二分、所要時間約三十分、これより、離陸及び上昇を行い、高度五千メートルから巡航を始めます。離陸許可を」

「どうぞ」

 皐月は簡潔に許可する。

 車体の四隅に取り付けられた推進器が、下へ向け風を噴射する。車体がふわりと空に浮く。周りの建物が一目で見渡せるほどの高さまで上昇した後、推進器の方向は変えぬまま車体が上を向く。推進器の先端あたりに、陽炎が浮かび始める。そして、車体は徐々に加速して行き、垂直に急上昇する。

 一分ほど上昇し続けた後、車体は推進器を下に向けたまま向きを水平に戻してホバリングし、そして機械音声が流れる。

「予定高度に到達。これより、降下巡航を開始します。」

 車体上側に折りたたまれていた主翼が展開し、推進器が徐々に前を向く。前に向かって加速する。

 赤道直上の宇宙に浮かぶ白銀色の環、その奥から浮かぶ太陽が、空に浮かぶ車を強く照らす。

「あぁぁ〜耳がぁぁ〜」

 暁音が弱々しく嘆く。

 気圧の変化で耳が詰まったようだ。

 それを気にせず、暁斗が訊く。

「今日からだっけ。軍戦部の戦艦合宿」

「確かそうだった気がする」

 皐月が暁斗の質問に答えた。

「なんでお前ら大事な予定ちゃんと覚えてないんだよ」

 暁音が呆れたように言う。

「覚えてます〜」

 と暁斗。

「覚えてるが」

 と皐月。

 二人の重なった声に疑いの表情を見せつつ、暁音が言う。

「皐月はまだ覚えてそうだけどさぁ、お兄ちゃんマジで覚えてないでしょ。逆になんか覚えてることある?」

「なんもない」

 暁斗は済ました顔で当然のように言い放つ。

「なんだよ」

 と皐月と暁音が同時に言う。

 窓の外には、コンクリートの灰色に染まった平野の向こうに、深い緑に染まった山並みが広がっている。

 その山並みは、ゆっくりと皐月の視界の占有面積を広めてゆく。

 隣の座席から大きな声が聞こえた。

「見て!あれ!あれじゃない!?」

 暁音が窓の外を指差す。

 皐月も隣の座席に身を乗り出して、暁音の顔の横からその指が差すものを覗く。

 眼下に広がる一面の緑。そこには、巨大な艦が浮かんでいた。

 全長はおよそ二百メートルほど。重巡洋艦級の大きさだ。あの時の吾妻を皐月は思い出す。



 飛行車は学校の校舎横にある屋上駐車場に垂直に着陸する。

「到着しました」

 機械音声を聞き流し、荷物を持って車を出る。誰もいなくなった車は、自動で駐車機へ移動する。

 駐車場の横にある滑走路に向け、遠くから先ほどの重巡洋艦が向かってくるのが見える。

 まだその船には、青空の色が薄くかかっている。普通の学校

「あれから、もう六年か〜」

 テレビを見て暁音が言う。

 修復歴925年、五月五日。朝焼けの余韻が空に残っている頃。

 情報番組は、あの日の解説をしていた。

 日本連合皇国、朝鮮自治区、釜山の国立研究所襲撃事件。修復歴919年に発生したテロ事件。

 灰と化した研究所は、今も暴力の恐ろしさの象徴として残されている。

 ただ、それを誰がやったのか、何のためにやったのか、そこでは何の研究をしていたのかなどは、全く明かされていない。医療関係の研究をしていたという情報が出回っているものの、それは日本の出した嘘の情報だ。

 また、そこから脱出した実験体が太平洋連邦に逃亡したという事実は、出回らせていいはずもなかった。

 番組は続ける。

「日本を含む、全世界三カ国全てが関与を否定しており、六年経った今でも詳細は不明です」

 皐月は、その日の巡洋艦と追ってきた兵士を思い出す。そして、朝から不快な記憶を思い出すことに嫌悪感を覚える。

「みんな何もしらねぇと思うと、なんか特別感あっていいな」

 暁斗が少しにやけながら言う。

「物もいいようだな」

 皐月が吐き捨てるように言う。

 食べ終わったまま放置していた食器を片付け、適当に水につける。

 帰宅後皿洗いをしなければならないという事実から目を逸らしながら、皐月は自分の部屋へ行きパジャマから私服へ着替える。

 荷物の入ったリュックを背負い、部屋から出た。玄関で後の二人を待ち、三人で一緒に家を出る。

 玄関から出れば、到底家とは思えないような光景が広がっている。実際、ここは一般的には家ではない。神社だ。

 三灯家代々で受け継いできたこの神社は、その名も三灯神社。太平洋連邦、日本州の東京湾沿岸付近にある、修復歴前から存在するとされる神社だ。

玄関先に止めてある通学用飛行車の人工知能端末に、皐月は話しかける。

「二年生一人、一年生二人だ。乗せて」

「身分証明書を提示してください」

 無機質な女性の声が答える。

「ですよね」

 そう言いながら皐月は学生証を差し出し、端末の前に掲げる。車のドアが開く。四人乗りの車に、皐月が前の席に座る。二人も学生証を読み取らせ、暁音は皐月の隣に、暁斗は後ろに乗り、開いた一席に荷物を集める。

 機械的な音声が話し始める。

「目的地を諏訪国立学校に設定、駐車機より燃料補充完了、飛行経路設定、到着予定時刻八時三十二分、所要時間約三十分、これより、離陸及び上昇を行い、高度五千メートルから巡航を始めます。離陸許可を」

「どうぞ」

 皐月は簡潔に許可する。

 車体の四隅に取り付けられた推進器が、下へ向け風を噴射する。車体がふわりと空に浮く。周りの建物が一目で見渡せるほどの高さまで上昇した後、推進器の方向は変えぬまま車体が上を向く。推進器の先端あたりに、陽炎が浮かび始める。そして、車体は徐々に加速して行き、垂直に急上昇する。

 一分ほど上昇し続けた後、車体は推進器を下に向けたまま向きを水平に戻してホバリングし、そして機械音声が流れる。

「予定高度に到達。これより、降下巡航を開始します。」

 車体上側に折りたたまれていた主翼が展開し、推進器が徐々に前を向く。前に向かって加速する。

 赤道直上の宇宙に浮かぶ白銀色の環、その奥から浮かぶ太陽が、空に浮かぶ車を強く照らす。

「あぁぁ〜耳がぁぁ〜」

 暁音が弱々しく嘆く。

 気圧の変化で耳が詰まったようだ。

 それを気にせず、暁斗が訊く。

「今日からだっけ。軍戦部の戦艦合宿」

「確かそうだった気がする」

 皐月が暁斗の質問に答えた。

「なんでお前ら大事な予定ちゃんと覚えてないんだよ」

 暁音が呆れたように言う。

「覚えてます〜」

 と暁斗。

「覚えてるが」

 と皐月。

 二人の重なった声に疑いの表情を見せつつ、暁音が言う。

「皐月はまだ覚えてそうだけどさぁ、お兄ちゃんマジで覚えてないでしょ。逆になんか覚えてることある?」

「なんもない」

 暁斗は済ました顔で当然のように言い放つ。

「なんだよ」

 と皐月と暁音が同時に言う。

 窓の外には、コンクリートの灰色に染まった平野の向こうに、深い緑に染まった山並みが広がっている。

 その山並みは、ゆっくりと皐月の視界の占有面積を広めてゆく。

 隣の座席から大きな声が聞こえた。

「見て!あれ!あれじゃない!?」

 暁音が窓の外を指差す。

 皐月も隣の座席に身を乗り出して、暁音の顔の横からその指が差すものを覗く。

 眼下に広がる一面の緑。そこには、巨大な艦が浮かんでいた。

 全長はおよそ二百メートルほど。重巡洋艦級の大きさだ。あの時の吾妻を皐月は思い出す。



 飛行車は学校の校舎横にある屋上駐車場に垂直に着陸する。

「到着しました」

 機械音声を聞き流し、荷物を持って車を出る。誰もいなくなった車は、自動で駐車機へ移動する。

 駐車場の横にある滑走路に向け、遠くから先ほどの重巡洋艦が向かってくるのが見える。

 まだその船には、青空の色が薄くかかっている。

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