演習終了
「マジでビビったー」
甲板に降り立ち、ヘルメットを開け外しながら暁斗は言った。
離着陸スラスターから虹を下向きに噴射するウェリントン三型が三機、猛烈な耳鳴りをかき鳴らしながら艦後部多重飛行甲板へ向けゆっくりと甲板を横切った。
艦側面の暗闇を虹の揺らぎが照らす。
既に外骨格を脱いで黒い擬似皮膚姿の橘が、顔を両手で押さえながら言う。
「もうちょい早けりゃ撃てたのになぁ……」
「何が何だかですよ」
そう言いながら水野は、外骨格装甲を身につけたまましゃがみ込んだ。
「そういや皐月、あの透明の奴になんか訊いてたよね」
「ああ、単純に気になった。そりゃ気になるだろあんなの」
虹を噴射しながら甲板に降り立つ皐月は、暁音の質問に答えながら四枚の安定翼を閉じた。
「何つってたんだ?」
暁斗が質問した。
「光子……光に虹力子のクーロン力とローレンツ力を掛けて捻じ曲げるんだって。電磁レンズって言ったら正しいのかな。虹力子を光の波長と共振させて何たらかんたら、そこに虹力子の磁力系のやつ流して何たら、よく分からないけど虹力子を共振装置にするって言ってた。その時に虹力子が立方格子状である必要があるんだけどあいつの虹力子は球状じゃなくて立方格子状だからそれができるって話らしい」
「は?」
暁斗の困惑を無視して皐月が続ける。
「しかも虹力子だから増幅脳波やら帯電やら熱やら何やら色々働くから、光学迷彩に加えて臨機応変なレーダー妨害にもなるらしい。今回は普通に艦が妨害出してたからそれはあんま意味なかったって言ってるけど、熱運動レーダーっていう光学迷彩対策を撹乱する透明な煙幕になるってのは普通に強いと思った」
「は?」
「大丈夫、俺も理解しきってないから。今のもAIにメモらせたやつだし」
皐月はヘルメットの内側の立体映像に映るメモの文字列を見ながら続ける。
「ま、どう足掻いても見つからない光学迷彩って思ってりゃ良いよ」
「お前はどうやって見つけたんだよ」
「勘」
「流石」
皐月の簡潔な返答に、暁斗は称賛した。
「いやぁ、マジで迫力凄かったっすよ皐月さん!」
水野が体を起こし、ヘルメットを開けながら言った。
「そりゃどうも」
皐月は軽く会釈をした。
――――
艦橋では、雨宮が背伸びをしていた。
「ふわぁぁ、さっきのは凄かったですね先輩」
雨宮は、星空とそれを映した海面を望む艦橋の窓から外を眺めながら言った。
「な。速攻で妨害撃ってきたからあっちの乗組員部門のやつは基礎ができてる」
石井は雨宮の隣で、腕を組みながら言った。
「そっちですか……」
石井の着眼点は、雨宮にとっては意外だった。
「現代の戦場ではレーダー妨害は基礎中の基礎なのに、やらない奴が多すぎる」
「まぁ、それはそうですけど」
「あと皐月凄かったな」
石井は思い出したかのように言った。
「そんなついでみたいな奴じゃないでしょあれ……」
雨宮は困惑した。
二人の後ろで、青田と小森が話している。
「凄かったな今の」
「ですね」
青田が小森に同意した。
「今時光学迷彩とか見ると思いませんでしたよ、ほんと」
「はは、私もだよ」
小森が青田に同意した。
「素であれですもんね」
「ああ」
「……頼り甲斐がありますね」
「頼る気は無いがな」
小森は青田に同意しなかった。
堂々とした様子の小森に、青田は、元から細い目を細めた。




