夕食
「天然肉あります?」
食堂の壁で暁斗が、設置型端末AIに訊く。
「すみませんが、天然肉はありません」
機械特有の、冷たさをこれでもかと孕んだ声が返ってきた。
「クソが」
「申し訳ありません」
「許さん」
「申し訳ありません」
「申し訳しろ」
「申し訳ありません」
暁斗と端末AIのどうしようもないやり取りに、皐月が割り入る。
「申し訳って有るか無いかで、するしないじゃ無いんじゃないのかな」
暁斗が返す。
「言い訳を丁寧にしたやつじゃねぇの」
皐月が鼻の下を擦って考えた後、納得する。
「それもそっか……」
「皐月何頼んだ?」
暁斗が皐月に訊いた。
「うどん頼んだ。最近はもう風味しか分からないから風味がいいやつを、とね」
「成程……俺はハンバーグでも食おうかな」
端末AIが応答する。
「サイズはどれに致しますか?」
皐月と話していたら急に反応されたので、暁斗は驚いた。
「えっ……ああ、じゃあ大きめで」
その時、皐月のポケットの中の端末が振動しだした。
皐月はその端末をポケットから出し、ボタンを押して振動を止めた。
「できたっぽいから行ってくる」
「うーい」
皐月は場所を移動し、そこの壁に付いた端末に自分の携帯端末を掲げる。
すると、壁の一部に切れ込みが発生して、その切れ込みに囲まれた部分が奥へ移動した後、横へスライドして行った。
そこから丼に入った素うどんが高速で出てきて、溢れる寸前の加速度を中身の汁に掛けながら急停止した。
皐月はその丼を持って、席に移動する。
先に暁音がラーメンを食べていた席の隣に座り、机に置いてあった縦長のケースに入っている木の棒の束から一つの棒を抜き出し、その棒を縦に二等分した。
食堂では軍戦部の少年少女達ががやがやと話しながら食事を摂っている。
暁音は、隣に座った皐月に、口の中の麺を飲み込まぬまま言った。
「もんもむももんももんも?ももんもももも」
皐月は答える。
「いや、どうせ味分かんないし」
暁音は飲み込んで言う。
「そっか、なら仕方ないか」
「それでも普通に美味いよ」
そう言って皐月はうどんを啜る。
暁音は妙な感心を覚える。
「へぇ、そうなんだ。感覚がわからないな」
そこに、ハンバーグを乗せたホットプレートと白米入りの皿の乗ったトレーを持った暁斗がやって来て、皐月の隣に座った。
「ジャガイモいる?」
暁斗はホットプレートに乗ったフライドポテトを指差して皐月に言った。
皐月は答える。
「いらない」
「そ。じゃあいいや」
そう言って暁斗は、食事の方に意識を向かせた。
数分後、皐月はうどんを食べ終え、僅かに残った汁の入った丼を壁の設置型端末の方に持って行く。
端末がそれを認証した後、近くの壁の一部に切れ込みが発生して、その切れ込みに囲まれた部分が奥へ移動した後、横へスライドして行った。
それにより空いた壁の奥のスペースにその丼を入れると、壁は巻き戻されるように動き、閉じた。
皐月は踵を返し、席に戻りながらポケットから携帯端末を取り出し、起動する。
そして、ネットを開いた。
一面を「八咫烏軍」のニュースが埋め尽くしている。
あいつらが慌ててたのはこれか
皐月は腑に落ちる。
ネット――連邦総合情報通信システムには、八咫烏軍を批判する言葉が羅列されていた。
核汚染やめろやって
正義気取りキショ
宗教キチガイってやつやね
なんかニューメキシコ汚染エグいらしい
核汚染反対の癖に核汚染してんのはちょっとオモロい
軍負けてんじゃねぇかしっかりしろア連
どうせ日本のせいなんだよな
日本列島が何って?
列島州の話はしてねぇよ
今のうちに連邦は侵略しろ
皐月は呆れて端末の電源を切り、ポケットに戻した。




