初回
「取ってきたぞ、感謝しろよ」
びしょ濡れになって帰ってきた皐月は、水を吸って重くなったバレーボールを甲板にいる集団の方に投げた。
それを暁斗は躱し、皐月に駆け寄る。
「よくやった皐月!褒めてやろう!」
暁斗は皐月と無理矢理肩を組み、皐月に言われた通り感謝した。
そして暁斗は、皐月の腹に押し付けるようにベンチコートと靴を渡す。
「痛いからやめてそれ」
皐月はそう言って暁斗の手から靴をたたき落としつつ、コートを受け取って着た。
「へへっ」
暁斗は楽しげに笑った。
橘が皐月に言う。
「お前よくあれ飛び降りようと思ったな」
「まぁ擬似皮膚着てるし、なんとかなるだろって」
髪から額に落ちてくる水を擬似皮膚に包まれた手で払い除けながら皐月は答えた。
「まぁそっか。これ便利だもんな」
そう言って橘は自身の全身の首と末端までを包んだ擬似皮膚を眺める。
皐月はベンチコートのチャックを開き、微笑みながら背伸びをした。
「俺も気が向いてきたんで、バレーやろうかな」
「やったー!」
皐月のその言葉に、暁音は明らかに嬉しそうに騒いだ。
その様子を監視カメラは捉えていた。
カメラから送られた立体映像を、艦橋の雨宮と石井は眺めている。
「何やってんだ皐月……」
石井は困惑した。
机の上のリアルタイム映像とは別に、石井は携帯端末で皐月が海に飛び降りた時の断片的な映像を見ている。
雨宮は持ってきたポテトチップスを貪りながらその映像を見ていた。
「たまに皐月さん変なことしますよね。もう3時だし、先輩も食べます?」
雨宮は袋を石井に差し出した。
石井は無言で湾曲した黄色い円盤を袋から取り出し、口に放り込む。
それを咀嚼した後、石井は雨宮に話しかけた。
「皐月これどうやって跳んでんだと思う?」
「拒絶なしでこう、自分の虹力だけで虹力子を噴射したんじゃないですかね」
「想像がつかないな……」
石井は自分の掌の上に虹に揺らぐ球を作り出し、それを弾き飛ばそうとする。
が、飛びはしたものの、映像の皐月ほどの勢いは出ない。
「やっぱあいつらすげぇんだな」
石井の感心を雨宮が遮る。
「暇なんで艦隊戦やりましょうよ」
「えー、まぁいいけど。条件どうする?」
「じゃあ防衛戦で、私が防衛側やりたいです」
「よし、じゃぁそれでやるか」
そう言って、石井は机のキーボードを叩く。
すると、卓上の監視カメラ立体映像が消え、代わりに艦隊戦シミュレーションのメニュー画面が表示された。
「今回こそは勝ちますからね」
「聞き飽きたよその言葉」
その後、雨宮は一時間ほどの間一方的な殲滅を受け続けた。
――――
「絶対あり得ない噂ゲーム!」
暁音が叫ぶ。
「イエーイ!」
暁斗が両手を突き上げて暁音に同調する。
「おー」
皐月が無気力に言う。
三灯の三人は皐月の部屋のベッドの上で、三角形を描いて座っている。
三人とも、既に洋服に着替えている。
「じゃあまず皐月から!」
暁音が勢いよく皐月の顔を指差し、それに皐月は一瞬驚いた後考え込む。
その後ゆっくりと口を開いた。
「えーじゃあ……近年の組織犯罪の背後には必ず風間がいる」
その発言に暁斗と暁音は一瞬逡巡した後、同時に口を開いた。
「私はギリあり得ると思う」
「俺はそれマジだと思うぜ」
皐月は二人の発言に困惑した。
「嘘だろお前ら……」
皐月の理解が追いつく間もなく話は進む。
「ダメだね、成り立たないねこれ」
暁音が言った。
「ゲームしようぜ!」
暁斗が言った。
「始めたのお前らだろ……」
皐月は困惑した。
困惑しながらも携帯端末をポケットから取り出し、立体映像を表示させた。
暁斗と暁音も同じように携帯端末を取り出し、部屋のテレビと端末を同期させる。
テレビには「超乱闘Ⅲ」という文字と開始ボタンを表示した立体映像が表示された。
三人は携帯端末に表示された立体コントローラーを手の位置に合わせる。
「やるぞー!」
暁音が拳を突き上げて叫んだ。
「イエーイ!」
暁斗が両手を上げて叫んだ。
「さっき見たなこれ」
皐月は半目で呆れながら、楽しげな二人を眺めた。
同刻、アメリカ社会主義連合ニューメキシコ州・アルバート基地が、未確認の武装組織の襲撃により壊滅した。




