軍事技術
「もう、カメラは止まっていますね?」
「えぇ、その筈ですよ、主任」
「では大統領、これから先の機密区画へ行きましょうか。大統領以外はここで待機を」
黒いスーツの男二人が、広い吹き抜けの空間を並んで歩いている。
彼らの後ろでは、拳銃とアクリル製の盾を構えた男たちがずらりと並び、そのさらに後ろでは複数の記者が肩に抱えたカメラを床に下ろしている。
大統領と主任は、その空間を二人で出て行った。しばらく金属製の階段を降りた後、鉄の壁に行き当たった。
主任は壁の端に行き、そこにあった端末に顔を見せつけた。同時に彼は手を端末の横に当てた。すると、端末が「認証」の二文字を映した。
それに連動するように、鉄の壁に切れ目が現れる。
その切り目は、左に九十度回転させたコの字を描き、切り目の内側の壁は奥にずれた後、床に空いた幅二メートルほどの穴の下に落ちた。
切り抜かれた壁は丁度その穴を埋めた。
その奥には、自分たちの道の脇を固めるように、ずらりと水槽が並んでいた。
その水槽たちはおおよそ成人四人分の高さはあるほどの、水族館のような巨大な水槽だった。
「歩きながら話しましょうか、大統領」
「そうですね、そうしましょうか」
二人はまた歩き始めた。
金属の床に、甲高い足音が二人分響く。
「まず、虹力子というのがなんなのかは覚えてらっしゃいます?」
「そうですね……最近は忙しくて、なかなか覚えていられませんね、詳しくは」
大統領はそう言いながら、後頭部を恥ずかしそうに掻いた。
「仕方ないですよ、最近は多忙でしょうし。大統領というお仕事の大変さは計り知れません」
「ハハハ、そうですね」
「では、虹力子とは何かから説明しましょうかね」
「えぇ、お願いします」
そう言われると、主任は自らの手のひらの上に虹に揺らぐ球を作り出した。
「虹力子……DNAなどと同じ生体高分子であり、核を持たない準細胞です。大きさはウイルスの十分の一ほどで、強度の高い三次元の幾何学構造。虹臓の中では外付けの核を持っており、それを使って数を増やすんです。先天的な障害などでこれを持っていない人は稀にいますけどね。虹力子は言ってしまえば超高性能なナノマシンですよ。虹力子は皮膚から放出されるとき神経の電流で帯電し、それによる静電気力……クーロン力や、あとはローレンツ力を脳波で操って体外で操作します。この脳波を虹力子間で伝達させる時に、虹色に光るんです。そして面白いことに、このナノマシンは超高電圧や高音を与えてもプラズマ化しないんですよ。それは虹力子自体に常に磁場が発生しているからで、これはそんじょそこらの電磁石よりもずっと強い力です。だからプラズマ化せず、高温でも機能を保てるんですよ。生物の進化ってのは凄いですね、ほんと。再現しようと思っても一切上手くいかない……一気に喋ってしまいましたが、ある程度思い出しました?」
「あー、すまんが全く意味がわからなかった。大学では地政学や近代史を専門に学んでいたからね」
大統領は恥ずかしそうに頭を掻いた。
「すみません、説明が下手くそでしたね。体外で熱々の物体を操れると思っていただいたら十分です」
「わかった」
そう言って歩く二人の左側には、肉の色をした、凡そT字とY字を重ねた形の二メートルほどの物体が入った水槽が並んでいる。
対して右側には、下半分を肉の色で包まれた暗い赤色の楕円球が入った水槽が並んでいる。
その水槽の道を進んだ後、また鉄の壁に行き当たった。主任は先程と同じ方法で鉄の壁を開き、二人は先に進んだ。
そこには、またもや大量の水槽があった。だが、中身は違う。
そこに入っているのは、巨大な球状の脳とそれを貫くように伸びる一本の太い骨、その骨の周りにまとわりついた内臓のような物体たち。
それが入った水槽が大量に並んでいる。
主任が大統領の方を振り向き、説明を始めた。
「ここは、艦艇の内部を専門に作る区画です。先程の区画で生産していた生殖器たちを使ってこれらを生産しているんですよ」
「これが最新型ですか?あまり旧型と変わっているように見えないですね、主任」
「そりゃあそうです。変わっているのはあの人工脳の中身だけですから」
そう言って主任は巨大な脳を手で示した。
「虹力子兵器……即ち生体兵器が運用されるようになって早150年、外見は大して変わってないんですよ、大統領」
「へぇ……生産効率はどうですかね?」
「おかげさまで、今までの十倍は効率が上がっております」
主任は笑みを浮かべて大統領と目を見合わせた。
大統領も、不敵な笑みを浮かべていた。




