不動、継続
「なんか大変なことになってますね」
「そうなんだよなー、ああいうのほんと迷惑だよ」
「ですよねぇ」
艦橋内で艦隊戦リプレイを眺めながら傍聴していた石井は、残っていた小森に話しかけた。
対して、同じく傍聴していた雨宮は、石井の隣で下を向いて縮こまっている。
そんな雨宮を余所に石井は。興味津々で小森に食い気味に問いかける。
「今までも、こういうことってあったんですか?過激派のオカルトじみたテロみたいな」
「ああ、もうそりゃしょっちゅう。ただ、前からこういうのは自爆テロが多かったが、今回は明確かつ割りかし理に適ったこと言ってるし、ヤバい奴らではあるが今までほど頭おかしいわけではないな」
「……どの道気狂いですけどね」
青田が割り入る。
「宗教なんてもう不要だし有害だからと、日帝以外の世界から排除されていった筈なのにこれですから。有害とされた理由が詰まってますね、ほんと。天皇教……神道の信者も、生まれながらに天皇崇拝の洗脳を受けたんですから、こんな奴も湧くわけだ」
「宗教ねぇ……レイジ教……私の両親もそうだったな」
小森が思わず呟いた。青田は焦って謝罪する。
「あっいや、その、そんなつもりは」
「いや、私も君の意見に心の底から同意しているよ、当然ながらね。ただ、そうやって非現実に浸っていたい奴の心も、理解したくなくても理解してしまったんだ」
困り顔の青田に、小森は優しく語りかけた。
石井はまた興味深そうに、二人に質問を投げかけた。
「こういうテロリストって、兵站とかどうしてんすかね。そんなでかい工場も持てないだろうに」
「このタイミングで何訊いてんのよ遥希先輩っ」
小声で囁きながら、雨宮は石井に肘打ちをした。
「痛っ……何すんだよ」
その様子を、青田と小森は微笑みながら眺めていた。
二人のその目には、憐れみが宿っていた。
――――
「相変わらず強えな……バスケなら勝てるのに」
暁斗が尻餅をついたまま言う。
彼の横には、バレーボールが転がっている。
「これくらいしか取り柄ないからね!」
水野がドヤ顔で言う。
「バレー部入ればよかったのにな」
橘の少し辛辣な言葉に、水野は顔を顰めた。
「酷いじゃないすか……」
「ハハッ、冗談だよ」
航空部門の三人が愚痴をこぼす。
「全然こっちにボール来ないんですけど」
「狡いぞお前ら」
「酷いっすよぉ」
暁斗は頭を掻いて笑いながら謝罪をした。
「いやぁ、強すぎてすんませんね」
そう言いながら、暁斗はボールを高く投げて腕を振り上げ、ジャンプしてボールを弾いた。
一方で皐月は、甲板際の柵に凭れ、いつものように、手のひら大より一回り小さい立体映像端末を弄っていた。
皐月のベンチコートの下からは、黒い擬似皮膚が覗いている。
彼の灰を被った瑠璃のような瞳には、大量の文字が上に流れ、消え、また点いてを繰り返していた。
目当ての情報が出てこないことにほんのりと苛立ちを覚え、その感情をスニーカー付きの足先の上下運動で表している。
そこに、暁音が駆け寄ってきた。
「何してんだよ皐月、遊ぼうよ」
「なんで甲板上で球技するんだよ」
「バカだから」
自信満々に言う彼女に、皐月は小さく溜息をついた。
暁音は立体映像端末を覗き込見ながら質問をしてきた。
「ずっとスマホばっか眺めて、なんかそんな面白いことあった?」
「まぁ……面白いって言うか、どちらかと言うと危機感かな」
暁音は立体映像に釘付けになった皐月の目を覗き込み、意地でも立体映像を目で捉えるという皐月の意思を確認したのち、皐月の横で柵に凭れて溜息をついた。
「たまにはみんなで遊ぼうよぉ……つまんねーのー」
その声をよそに、皐月はずっと先程の軍人たちの急行の謎の答え合わせになる記事を探し続けていた。
ま、そんなすぐには出ないか
諦めかけたその時、別の興味深い記事を見つけた。
大規模軍拡に伴い、大統領が軍事技研視察の一部始終を取材しました!
皐月は、思わずその見出しをクリックした。
骨伝導イヤホンをベンチコートのポケットから取り出し、耳につけ、それを二度連続して指で軽く叩いた。
イヤホンに青く淡い光の筋が浮かぶ。
皐月は、記事の中にあった三十分ほどの動画の再生ボタンを押した。




