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虹時代 出来損ないの亡霊  作者: 小型旧人
昔話と墓暴き編
17/35

一般的日常

「あー、疲れた」

 暁音が椅子に凭れ、天井を仰ぐ。

「まだ十五分しかやってないだろ、もうちょっと頑張れよ」

「そーだそーだ」

 暁音の後ろのベッドで壁に凭れながら座っている皐月が暁音を励ますように注意し、暁斗が便乗する。

 一人用の皐月の部屋に、三灯の双子兄妹はさも当然のように入っている。

「中等部の頃から同じようなこと定期的にしてるよな」

 皐月は手のひら大より一回り小さい携帯が映し出した立体映像をスクロールしながら言う。

「軸がブレないのが自慢なんだ〜」

「悪癖を治せないのが自慢か……」

「うるさいっ、そんな言うくらいなら手伝ってよ皐月」

「はいはい」

 軽くため息をつきながら、皐月は携帯をズボンのポケットにしまい、ベッドから降りる。

「で、何手伝えばいいの?」

「ええっと、ここ。何これ」

 暁音は立体映像に映されたグリッド線に重なった、横から見た二重螺旋のような曲線を指す。

「ああ、ここね。ここ、これの逆の波だから逆位相ね」

「位相ってなんだっけ」

「そっからかよ。波とか波長のこと」

「ありがと。あー、大学だったらな〜、文系選べるのにな〜」

 暁音は立体映像投影機を避けて机につっ伏す。

「でもどうせ暁音、大学行かないだろ」

「まぁそりゃ、あんなの勉強を趣味にしてる人たちしか行かないからね。私は高校までの義務教育で満足どころか限界だよ」

 暁斗が割って入る。

「でも、大学入れば就職率九十パーだろ?いいよなぁ」

「まず入るのがむずいんだろ。受験なんてもんしなきゃだし」

 皐月が暁斗の方を振り向き言う。

「昔は、なんか違ったのかなぁ」

 暁斗が窓の外に広がる海を眺めながら呟いた。


 食堂には、乗組員の軍人が集まっていた。

「久々に天然肉食いてぇなぁ……」

「贅沢言うなよ。常にいつ何が起きてもわかんねぇんだから、兵站は安定したほうがいいんだよ」

「ほんっと、戦争なんかクソ喰らえだ」

 ステーキをナイフとフォークで勢いよく食べながら、彼は愚痴を吐いた。

「それを仕事にしてるんだから、我々も大概だな」

 軽く笑いながら言った小森は、茶色いソースの残ったホットプレートと真っ白の皿の乗ったお盆を持ち上げる。

「そうですけどぉ、辞めれるんらとっくに辞めてますよ、小森さん」

 ステーキを食べる手を止めて、彼は続ける。

「志願して入ったら、急に『定年まで辞めれませんよ』なんて、詐欺でしょ」

「確かに、酷いことするよな、国は」

 小森は苦笑いをしながら同意する。

「まぁ、それだけの理由があるんでしょうね」

 ハンバーガーを口に入れたままモゴモゴと青田は言う。

 すると、青田は急いでハンバーガーを飲み込み、骨伝導イヤホンをつける。

「電話だ。ちょっと失礼します」

「ん」

「うーい」

 彼の隣の席の軍人が、青田の席にあった空の包み紙とトレーを持ち上げ、運ぶ。

 青田はフードコートから廊下を挟んで向かい側にある展望ベランダに出て、腕時計型の端末を操作し電話に出る。

 その端末には、官邸という二文字が記されている。

「はい、青田です。なんでしょう……ああ、上手くいってますよ。ただ、最近はもう奴らの行動頻度が上がってきてますし、いつ動員してもおかしくはないですね……はい、そうです。本人に確認をとりました。詳細は分かりませんが、重力下での自由飛行が可能ということは前々から分かってますので……はい、はい……えっと、今は佐渡西側の沖にいます……はい、分かりました。……ああ、彼は何をしでかすか分かりませんが、船乗りとしての腕前は誰にも劣らないと思ってます。何より、彼良い人ですし……はい、気をつけます。はい」

 電話が切れる。端末に、通話終了という文字が表示される。

 骨伝導イヤホンを乱暴に外し、ズボンのポケットに押し込む。

 青田は、壁に身を委ねた。そして胸ポケットから黒い流線型の物体を取り出す。

 その物体のスイッチを押すと、そこから細い筒が現れる。

 青田はその筒を口に咥え、そのまま深く息を吸う。

 そして、その筒を口から離し、罪悪感と葛藤の籠った煙を吐く。

「……やってられるかよ」

 彼は雲一つない天を仰いだ。


「そろそろ昼飯行こうぜ」

「私もお腹空いた〜」

 シングルベッドで無理矢理寝転んでいる暁斗と暁音が皐月を催促する。

「まだ軍人どもがいるだろ、嫌だな。あいつらと顔合わせたくない」

 皐月は寝転んだ二人の僅かな隙間に座り込みながら言う。

 テレビに映し出された平面映像は、流行りのアニメだった。

「じゃぁ良いや、しばらくこれ見てよっと」

 暁音は上体を起こし、部屋の隅にあるテレビの方に体を向ける。

 それにより広まった隙間に、皐月は体を納める。

 相変わらず寝転んだままの暁斗は、並んだ暁音と皐月の足に上半身を乗せた。

「膝枕ならぬ膝ベッド〜快適〜」

「絶対痛いだろ」

 皐月は無表情で暁斗を見下ろして言う。

「キモいよお兄ちゃん」

 暁音は寄生虫に感染され光り輝いているカタツムリを眺めるような表情で言う。

「このまんまこれ見よ」

 そう言いながら、暁斗は二人の膝の上で体を捻り、テレビの方を向く。

「これさぁ、犯人誰か分かりやすすぎておもんなくね?」

「分かるお兄ちゃんが異常」

「褒めんなって」

「キショ」

 双子の会話に、皐月が割って入る。

「いやでも、これは割と分かりやすい方だと思うぞ」

 暁音はそれを聞き、思案顔になる。

「……もしかして、私がバカなの?」

「そ」

 と、暁斗。

「そういうことだね」

 と、皐月。

「二人して酷いよぉ」

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