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虹時代 出来損ないの亡霊  作者: 小型旧人
昔話と墓暴き編
16/31

棋士

「えっ…降参OKなんですか?」

「ああ、いいよ。色々忙しくなりそうだし、別に公式大会とかでもないし」

「マジすか。じゃぁ全部降参します。」

 あまりにも清々しい水野の回答に、回答された側の青田含むその場にいる皆が少し笑ってしまった。

 艦橋内の空気が、少し明るくなる。

「もうちょっと自信持てよ、純也」

 笑いながら言う橘に、水野は反論する。

「その自信は過信ですから」

「勝ち誇ったように言ってるけど、すごく負けてるセリフだな」

 黒くピッタリとした、疑似皮膚全身服姿の皐月が言う。

 同じく、疑似皮膚全身服を着た暁斗が皐月の肩に腕を乗せたまま笑っている。

「ひどいですね。清々しいって言って下さいよ、皐月先輩」

「まぁ、清々しいのはそうだな。それはさておき相変わらずお前は何がツボなんだ暁斗」

 清々しく水野の清々しさを認めた皐月と、その横でずっと肩を揺らしながら笑っている暁斗の両方の脇腹に、両手の指で同時に突いた。

「ビェッ!」

「『ビェッ!』!?」

 驚いて変な声を出した暁斗、変な声に驚いた暁音。

「何今の声…あとお兄ちゃんやっぱツボがわかんないな。ずっと笑ってたけどさ」

「笑うだろ、あれは」

 暁斗はさも当然のように言う。

「そこまでではないんだよ、そっちがおかしいんだよ、お兄ちゃん。いい加減認めな」

「僕としても至って真面目に話してたつもりなんだけど」

 水野は暁斗に困惑する。

「ま、それはさておき、二人とも私の宿題手伝えー」

 暁音は両隣にいる兄と年上の義弟の腕を掴み、艦橋の外に連れて行った。

 後継の都合で弟にされた皐月本人はそれをなんとも思っていないが、他人は皆違和感を抱いている。

 三人の性格的にも、年齢的にも、兄に相応しいのが皐月であるのは明白だった。

「俺らも課題やるかぁ」

 気の抜けた橘の声を聞いた水野は、驚いてそちらを振り向く。

「終わってなかったんすか?」

「煽ってる?」

「まぁ僕も、全く手をつけてないんですけどね」

「流石、生意気」

「えへへ」

 そんな応酬をしながら、残った水野と橘の二人も艦橋を出て行った。

 そのあとを追うように、乗組員の軍人たちも昼食を摂るべく出て行った。

 彼らが置いていった静けさが艦橋を包む。

 残ったのはその静けさと、机に肘を付き頭を支えながら不機嫌そうに眉を顰めている石井だけだった。

 彼は誰もいなくなったのを確認した後、呻き声混じりのため息を勢いよく吐き出した。

 廊下からも、同じようなため息が近づいてきた。

 艦橋に入ってきたそのため息の発生源と石井は目を合わせ、ほんのりと驚いた。

「雨宮か、何しに来たんだ?」

「休憩ですよ。そっちこそ何してるんですか?」

「休憩する間もなく仕事してる」

 そう言いながら、石井は見せびらかすようにもう一度ため息をつく。

 二人は諏訪高校中等部頃からの友人で、両者とも成績優秀だ。また軍戦部の乗組員部門生であり、司令官コンテストでは、艦隊戦部門で二人とも列島上位に入るほどの実力者である。

 が、石井の方が雨宮よりも圧倒的に強い。

「そりゃ大変ですねぇ。ちょっとは休憩しましょうよ。私も今暇だし、ちょっと遊ぶか話すかしません?」

「そんな暇あったら、とっくにやってるよ」

 疲れの滲み出た声で石井は愚痴を吐く。

「大変そうですね〜、手伝いましょうか?」

 窓際で風景を眺めていた雨宮は、首を傾げて石井の顔を覗き込むようにしながら振り向く。

「あぁ、頼むよ」

「で、仕事って何してるの?」

「艦隊戦戦術レポートだ。宇宙、大気圏の二つの場所、数的不利の撤退戦、数的有利の追撃戦、対等の正面衝突戦の、ええと、全6パターンかな、これら全てのパターンでそれぞれ最低三つずつの戦術を考えて、AIシミュでやって結果まとめ。それを今日明日中に」

「えぇ…」

 仕事内容を聞いた雨宮は軽く戦慄する。

「手伝いようないじゃん」

「そこかよ」

 立体映像に映し出された艦隊戦シミュレーションの記録映像を眺めながらキーボードを片手で弾き続ける。

「じゃぁ…愚痴言うだけ言ってていいですか?」

 雨宮がAIの艦隊戦を映している立体映像機の乗った机を挟んで石井の向かい側に椅子を運び、座る。

「だめ」

「じゃぁ言いますね」

 雨宮は石井の拒否を聞かず押し切る。

 雨宮は先程までのニコニコとした表情を消す。

「乗組員部門の奴ら、だぁれも作業してくれないんですよ?私一人で清掃と整備やってたんです。部門課題一人でやってたんですから。あいつら司令官まで上り詰める気無いのかな、やる気ないなら帰って欲しいなって、ほんともう。全部私に仕事押し付けてさ、さも当然のようによ?サイテーだよあいつらみんな…同級生にすら仕事押し付けてさ、何してんでしょうね」

 物凄い剣幕で飛ばされた愚痴に、石井は気圧される。

「遥希先輩もそう思いますよね!?あいつらサイテーですよね!?」

「さぁ?元より分かりきっていたことだとは思うけど」

「いらないこと言わず同意して下さいよ〜、そんなんだからモテないんですよ」

 少しムッとしながら、雨宮は卓上の宇宙戦争越しに石井を睨む。

「多分、違うと思うけど。愚痴言ってくるような奴もそうそういないし」

「あー面白くないー。遊びましょうよ、ねぇ。折角ですし先輩の指示入ってるAIと対戦してみたいんで、いいですか?」

「いいよ。今AIに書かせた報告書編集してるだけだし。多分こっちが負ける」

「まぁAIは融通に限界ありますもんね。っしゃやるか!」

 雨宮は袖を捲る。

 石井は立体映像を切り替えた後、キーボードを雨宮に渡した。そして石井は眼鏡を外し、金髪の髪をかき上げながら椅子の背に凭れ、手で目を押さえた。

 雨宮が立体映像に見入りながらキーボードを素早く叩く。

 映し出された半径50センチの宇宙に「全艦、艦方位を旗艦基準に合わせ」という文字が現れる。

 映し出された、青色の立体記号化された船たちが艦を回転させる。やがてそれらは、まるで上下の概念があるように並び、方向を揃える。

 赤色の記号艦隊が、紡錘を形作るように並びながら、ゆっくりと、青色の記号たちに接近している。

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