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虹時代 出来損ないの亡霊  作者: 小型旧人
昔話と墓暴き編
15/37

部門内練習試合:暁斗対皐月

「…相変わらず瞬殺だったな」

「だから降参したいって言ったのにぃ…無駄に体力使っただけじゃないですか、お互い」

「まぁ決まりだし、仕方ない」

 甲板上で寝転ぶ水野と、その横に座りながらヘルメットを開く皐月。

 暁斗が水野を励ます。

「皐月の熱線一発避けた時点ですげぇよ水野」

「そう…それもそうか…な?」

 自信を持っていいのかどうなのか、水野は判断に迷う。

 背後から、軽快な金属音が聞こえる。

「次は暁斗と皐月だよ!祭りだよ祭り!」

 暁音は、甲板上を上機嫌に跳ね回っている。

「そんな祭りって言うほどか?」

 と皐月。

「言うほどでもないだろ」

 と暁斗。

「いやでも、最強の特異体と、最上位層選手の一戦でしょ?そうそう見れるもんじゃありませんよ!」

 水野が素直に褒め称える。

 皐月はそれを聞き流す。

 暁斗はそれを見て、一滴の憐れみを孕んだ表情を浮かべたのち、皐月に駆け寄り、勢いよく肩を組む。

 装甲がぶつかる。

「皐月、これ負けた方が奢り確定だぞ?わかってんな?」

「あぁ、わかってるよ」

 二人は外骨格装甲を着たまま、準備運動を始める。

 体を伸ばしながら、暁斗が艦橋の青田に通信を入れる。

「これ、俺特異能力使っていいんすか?」

「あぁ、いいよ。使っちゃって」

 青田が軽く返答する。

 開いているヘルメットの中から、勝ち誇ったような笑みを浮かべる暁斗が見える。

「よっしゃ。ごめん、勝ったわ俺」

「残念だなぁ」

 まるで他人事かのように皐月が言う。

 暁斗は準備運動を終え、軽くジャンプをした。

 同時にとうに準備運動を終えていた皐月が、ヘルメットを閉じながら安定翼を開く。

「じゃ、始めますか」

 暁斗がヘルメットを閉じ、羽化するようにトンボの羽を伸ばしながら言う。

 虹色に輝く羽の先が、伊勢の甲板に触れる。

「やるか」

 皐月が腰についたスラスターから虹の揺らぎを放出し、伊勢の甲板から飛び立つ。

 虹力音が響き渡る中、それを追うように暁斗も飛び立つ。

 虹に揺らぐ軌跡を伸ばしながら飛ぶ暁斗は、羽ばたきを交えながら皐月の方へ向かう。

 そして、皐月と暁斗は空中で対峙する。

 青田が通信を入れる。

「試合開始まで5、4、3、」

 あたり一面の現実を、仮想空間が上塗りする。

「2、1、」

 仮想空間で、皐月と暁斗は自らを包む虹の膜を張る。

「ゼロっ!」

 刹那、皐月が暁斗に突撃しながら両腕の投射砲から熱線を放った。

 仮想空間に、揺らぐ虹の閃光が走る。

 仮想の虹とは裏腹に、皐月の外骨格装甲の腰につけられたスラスターから伸びる長い虹の尾は現実の空間を彩っている。

 暁斗は前傾姿勢になりながら背中の羽を巨大化し、勢いよくそれを振り下ろした。反作用と空気抵抗で跳ね上がるように上昇し、急停止。間髪入れずに羽を振り上げ、同じ要領で急降下。

 巨大なV字を描いた暁斗の羽の間を、皐月の第二射が通り過ぎる。

 その二射目を追うように、皐月も慣性のままV字の間に滑り込む。

 読まれたか。

 真下の、少し体を伸ばせば手か足が届きそうな距離で体を捻り始めた暁斗を見下ろしながら皐月が独白する。

 同時に、体を傾けながら両腕を真下に向け、物々しい投射砲が暁斗に殺意を向ける。

 その殺意が暁斗の体を捉えきるより一足早く、暁斗の腕の投射砲が皐月の体を捉えた。

 暁斗は皐月に虹に揺らぐ熱線をぶつける。

 だが、熱線は皐月ではなく虹の膜のような防壁にぶつかり、弾かれ、勢いよく霧散した。

 板のように広がった虹に揺らぐ霧が、二人の僅かな距離を隔てる。

 その霧を、皐月の投射砲から出た熱線が切り裂く。

 暁斗は、予想できていたその熱線を辛うじて虹力子防壁で弾く。

 同時に、背中から伸びた虹の羽を爆発的に輝かせ、その羽に押されるように急加速し、皐月とすれ違うようにして距離を取る。

 海面間際に降下しながら飛ぶ彼の軌跡には、虹と同時に水飛沫が舞う。

「マジか」

 半径二メートルの範囲内で行われたコンマの駆け引きを勝てると踏んでいた暁斗は、それが引き分けで終わったことに驚いた。

 暁斗の羽の軌跡が、空間を虹の平筆で塗ったように煌めいている。

 離れ行く暁斗を、皐月は空中で静止しながら振り返り眺める。

 二人の距離は、一瞬にしてお互いが眩い点にしか見えないほどの距離となった。

 互いに互いを望遠し表示した立体映像を見つめる。

 先に動いたのは皐月だった。

 四つのスラスターから虹に揺らぐ噴射炎を背後に長く伸ばし、遠くの点の方へ急加速する。

 皐月の背中についた安定翼の翼端から白い筋が軌跡に描かれる。

 それの整った筋とは裏腹に、荒々しくも鮮やかな虹の噴射炎が皐月の軌跡を焼き付ける。

 それらを水飛沫が追いかける。

 暁斗は皐月をじっと見つめたまま、空中で静止している。

 耳鳴りのような音が伊勢周辺の海域を満たす中、二人の間には疾走感と穏やかさが同居している。

 皐月の背後で、直線の軌跡が虹に揺らぐ。

 互いが点から人型に見え始めた頃、暁斗は悠々と両腕を広げ始めた。

 その動きに同期するように、彼の背中の羽の近くから虹の揺らぎが広がる。

 その揺らぎは暁斗の背後で四つの束を成し、暁斗の胸元の空間へ向けて曲線を描きながら進む。

 暁斗は広げた腕を、まるで空気を前に押し出すかのように動かす。

 胸元の空間を通り過ぎた虹の揺らぎの束たちは、暁斗に指揮されるかのように進行方向を変え、皐月の方へ伸び始めた。

 四つの束は急速に加速する。

 皐月は前傾姿勢をやめ、肩と足首の姿勢制御スラスターを噴かし、全身を後ろ向きに傾ける。

 踵が水面を掠める。

 ふくらはぎの辺りのパーツが変形し、外側に出っ張りながら足首の方に降りる。

 足首に吸気口が開き、足裏の排気口が少しつま先側を向きながら虹の混じった熱風を水面に叩きつける。

 虹力の耳鳴りと似た、甲高いジェットエンジンの音が鳴る。

 水飛沫が皐月を追い越した。

 その水飛沫を追うように、陽炎が水面状に伸びて行く。

 腰回りのスラスターが虹の噴射炎を振り回すようにして前に向け、皐月は急減速する。

 背中の四つの安定翼の背後が白い空気の層を纏う。

 虹に揺らぐ四つの束が皐月に迫る。

 皐月はそれを回避するため、腰のスラスターを下に向け、虹の揺らぎを噴射する。

 水飛沫が爆発的な波と化し、陽炎が消える。

 足首のジェットエンジンが変形し、ふくらはぎのところに戻ろうとしている。

 跳ね上がるように急上昇した皐月を、虹に揺らぐ四本の束はきっちりと捉えきる。

 束は昇る螺旋を描きながら収束する。

 そして、螺旋は一つの点となった。

 その点は、爆発するように広がり、膜を形成する。

 膜は一瞬で皐月を包み、皐月の頭上で閉じた。

 半径五メートルほどの不透明なシャボン玉が皐月を閉じ込める。

 そのシャボン玉は虹に揺らぐのをやめ、まるで凍ったように沈黙した。

 その周りにはまるで霜のように虹の揺らぎが漂っている。

 凍ったシャボン玉からはまるで臍の緒のような虹が伸び、暁斗の右手に繋がっている。

 小森が感嘆する。

「おぉ〜、映像では見たことあるが実物は初めてだな。虹力子の固形化は」

 艦橋からは、虹に揺らぐ点と虹色の球体が見える。

「なんか神秘的ですね。外骨格の機械的な感じとは、なんか違和感っていうか、変な感じ。特異能力ってそういうもんですけどね」

 訓練戦場を拡大表示した立体映像を見ている青田が。顎をさすりながら言った。

「ああ。昔の人が神として崇めたのも納得だ」

 小森が窓から立体画像の方に振り向き言った。

 艦橋内の乗組員たちも同じように感嘆し、見入っている。

 その時、その球体の周りで虹の筋が点滅した。

 暁斗が両腕を球体の方に向け、投射砲の狙いをつけ、身構える。

 暁斗から向かって球体右側面に、鮮やかな閃光が走る。

「そこっ!」

 暁斗は閃光目掛けて仮想の熱線を放った。

 が、その熱線の虹は閃光の中の虚空とシャボン玉の欠片を通り過ぎた。

「チッ」

 釣りかよ!

 暁斗は恨み言の独白を舌打ちに込めた。

 暁斗からは、球体の下から灰色の影が少しだけ見えた。

 臍の緒が切れる。

 凍ったシャボン玉の纏っていた虹に揺らぐ霜が消える。

 刹那、地球の重力に引かれて、凍ったシャボン玉は海へ向け加速し始める。

 その様子はまるで糸を切られた操り人形のよう。

 虹の閃光が、爆発的に空間を駆ける。

 堕ち行くシャボン玉の氷が砕けながら弾け飛ぶ。

 弾け飛んだシャボン玉は虹の欠片として空間を舞う。

 虹の欠片は虹力音を鳴らす。

 視界を妨げる硬い虹を煩いながら暁斗は目を凝らす。

 どこだ…

 暁斗は、居ない苦虫を噛み締める。

 刹那、暁斗のヘルメットの内側に不快な警告音が鳴る。同時に立体映像が背後を指す矢印を形成した。

 暁斗は咄嗟に背後を振り向く。

 そこには仮想の投射槍を振り翳した皐月がいた。

 虹の軌跡が途切れ途切れになりながら暁斗の足元を通っているが、暁斗は気づかなかった。

 皐月は投射槍を暁斗に突きつけるべく右腕を全力で押し出す。

 勢いよく噴射され、毛羽だった虹の筆のような投射槍が暁斗に迫る。

 だが、それは突きつけられることなく、暁斗の眼前で急停止した。

 外骨格装甲に包まれた皐月の拳が、虹の塊でできた円柱にぶつかる。

 円柱の先には、暁斗の左手の掌があった。

 その円柱は、伸びながら皐月の右手の拳を包む。

 同時に、暁斗の右手の投射砲が仮想の閃光を発する。

 閃光の中から現れた虹が、皐月の腹を貫いた。

「試合終了〜」

 青田の声と共に、仮想現実が空間から引いてゆく。

 皐月が言う。

「流石、能力の使い方が狡い」

 ヘルメットから吐き出されるように、皐月の顔と頭が顕になる。

 その顔は眉を顰めていた。

 同時に、同じように暁斗もヘルメットを外す。

「人聞きが悪いねぇ皐月ぃ。天才って言ってくれていいんだぜ」

「そうだね、天才天才」

 わざとらしい棒読みで皐月は言う。

「それはさておき、奢りあざす!5万くらい頼むぜ!」

「はぁ…冗談はいいとして、まず離してくんね?」

 皐月は硬い虹で暁斗の左手と繋がれた右手を持ち上げた。

 それを数秒眺めたのち、暁斗は言った。

「やだ」

 間髪を入れずに皐月が返す。

「なんで?」

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