戦場の蠅
「財団の介入で、日本艦隊が撤退したそうですよ」
橙色の陽が差す海に浮かぶ伊勢の第一艦橋で、窓の上にあるモニターを見ながら青田が言う。
モニターに映る日本艦隊の残骸を見ながら、小森が言う。
「財団もあの鏡張りの船以外使ってないのに、たった一艦でこれだもんな。ア連も日本も、もっと軍拡しなきゃやってけないだろ」
頷きながら青田が言う。
「だから連邦は軍拡したんですもんね。勿論、それ以外にも理由はあるでしょうけど」
「そりゃぁ、最近どんどん世界大戦の頻度が上がってるからな。仕方ないよ」
「…悲しいもんですね」
青田は溜息をつく。
「はぁぁぁぁ…なんでこんなわかりきったこと書かなきゃなの…」
暁音は溜息をつく。
星空が映る海に浮かぶ伊勢の居住区、皐月の部屋で、暁音は立体映像に文字を打ち込むのを中断した。
空はいつのまにか真っ暗になっていた。
椅子に座り、壁際の机に向かう暁音は、宿題に嘆いている。
ベッドに寝転んだ皐月が、携帯電話の立体映像を弄りながら暁音の後ろから言う。
「そりゃ、学校ってのはそういうもんだろ」
その隣で寝転ぶ暁斗が言う。
「でも、虹力のことは俺らが一番知ってるよな。多分教授より」
暁斗は手足を大の字に広げ、皐月の目の上に腕を置く。
皐月は携帯電話をポケットにしまいながら、視界不良を無視して反論する。
「確かにそうかもしれないけど、あっちは研究者だぞ」
皐月の反論を聞いた暁音が反論する。
「じゃぁ兵士と軍事オタクだったら軍事オタクの方が軍に詳しいってこと?」
「場合によるね」
暁音の反論に、皐月がどうしようもない言葉で返す。
「それ言い出したら…ねぇ、ここわかんない。助けて」
暁音は反論を重ねようとしたが諦め、助けを求める。
皐月が暁斗の手をどけて起き上がり、ベッドから降りて暁音の隣に立つ。
「どこ」
「ここ」
暁音が立体映像上の、「生物:人体:虹力及び虹力子」と書かれた平面のうち、「虹力子を体外で操作するために、人は虹力子間の[ ]を操作する」と書かれた一箇所を指差し、皐月に問う。
「これ、なんだっけ」
「クーロン力ね」
「なんだっけそれ」
「荷電した物質の間に働く引力と斥力のこと」
皐月の説明に、暁音が首を傾げる。
「なんで働いてるの?」
律儀に皐月が答える。
「磁石のN極とS極が引き合ったり、逆にN同士が反発したりするのと同じと思っていい」
「なんで、という質問の答えになっていない気もするけど許す。あとはわかるからいいよ。ありがと」
「どうも」
皐月はベッドに寝転び直す。
ポケットから手のひら大の携帯電話を取り出し直し、顔の前に構える。
携帯電話から映される立体映像を指でなぞる。
立体映像にニュースが映る。
北アフリカの日本艦隊の残骸の画像が貼り付けられたニュースの欄に皐月は触れる。
同刻の北アフリカでは、複数の車両がもぬけの殻と化した戦艦や巡洋艦、空母にたかっている。
「いやぁ、財団には感謝だな!これだけの素材の量だ。相当の儲けだな!」
車両に乗った小太りの中年の男が豪語する。
「その分ちゃんと金も払ってんだ。感謝する道理はねぇぞ」
「まぁ、そうだな」
男は車から降り、体の何百倍もの大きさの空母を眺める。
血まみれになり、地に堕ちた空母には人々がたかっている。
その姿はまるで蠅のよう。




