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虹時代 出来損ないの亡霊  作者: 小型旧人
昔話と墓暴き編
13/31

帰投

「おっ、お帰りなさい、先輩!」

 徐々に近付いてくる耳鳴りのような虹力音を聞いた少年は、甲板横のエアロック外隔壁からひょいと顔を出す。

 地上付近で滞空して待機中の鏡張りの船は、甲板を展開したまま死神の帰りを待っている。

 甲板に、血まみれの死神が降り立つ。

 それを見た少年は少し引き気味に言う。

「うわ、マジで死神みたい」

「帰ってきて早々悪者扱いか?少しは労ってくれよ、素晴(すばる)

「いやいや、カッコよかったっすよ、めっちゃ」

「そりゃどうも。ほら、先入って」

「はーい」

 素晴は小走りでエアロックに入り、内隔壁を開け中に入る。

 その後にエアロックに入った颯は前後の隔壁を閉め、立ったまま大の字に手足を広げる。

 エアロックの内の壁に数多の穴が空く。そして、その穴たちからは勢いよく水の線が出てくる。

 水は血まみれの装甲にぶつかり、血を落とす。血の混じった水が排水溝に流れる。

 赤かった装甲が真っ白になり、水が止む。水の音と入れ替わるように電動機の音が鳴り始める。

 白い装甲についたままの水滴が風で揺れ、吹き飛ぶ。

 水を吹き飛ばし切ったのち、エアロックの内隔壁が横にずれる。

 内隔壁の先へ歩く颯のヘルメットは後ろにひっくり返り、中に隠されていた男にしては長髪な頭が顕になる。

 颯の目の前に伸びる廊下の曲がり角から、ポニーテールで眼鏡付きの顔が飛び出すように覗いてくる。

「新型どうだった?速かった!?強かった!?」

「速かったし強かったよ、メガネさん」

 目を輝かせながら食い気味に訊く彼女に、颯は面倒さを全面に押し出した言い方で返す。

「メガネって言うなよ。結衣(ゆい)さんって言えよ」

「はいはい神原神原」

「名前って言ってんでしょ」

 神原結衣(かんばらゆい)は颯を睨む。

 話すには少し遠い距離で話す二人の声が廊下に響く。

「冗談はさておき、さっさと戦闘情報寄越せカス」

 結衣は真顔で颯を罵倒しつつ急かす。

「戦場の功労者にいうことかよバカ」

 慣れた罵倒を受け流しつつ、颯は小走りで結衣の方に向かう。

 颯は結衣について行き、薄暗い中に携帯兵器が並べられている部屋に入る。

「ほら、さっさと外骨格脱いで」

「急ぎすぎると老けるよ、結衣」

「どこ情報よそれ」

 颯と結衣は軽い冗談を交わす。

 颯の白い外骨格の胸元から腹部までの装甲が縦に割れるように開く。

 胸元の生命維持装置が、二つに分かれた装甲の左側について行く。

 そして颯は、服を脱ぐようにして外骨格装甲を外す。

 脱いでなお立ったままの外骨格装甲の腕を結衣はせかせかと掴み、引っ張る。

 結衣はヘルメットの頭頂部部分に配線を繋ぎ、箱型の機械に繋ぐ。

 ピッタリとした黒い疑似皮膚全身服の颯は、そのがっちりとした腕を組み、結衣の弄る設置式の立体映像端末を彼女の顔の横から覗き込む。

 立体映像には、颯の動きを追跡した線と抽象化された日本軍艦隊が映る。

「うん…やっぱ圧倒的に速いね」

 にやけながら結衣が呟く。

 彼女の丸眼鏡には、逃げ回る蠅のように動く記号化された颯が映る。

 記号の颯を眺めながら、颯が言う。

「もうちょっと速く動けると思う。あれ限界がマッハ10だろ」

「そうなんですよぉ〜すごいでしょ。羽無しだと方向転換したりする時の空気抵抗が圧倒的に減るから、速さを出しやすいのよ」

「俺の才能だな」

「あたしの設計の才能ですぅ」

 張り合う二人の後ろから、少年の声が聞こえる。

「僕も見ていいですか?」

 素晴が部屋の入り口で二人を見ている。

「あぁ、素晴。いいぞ、お前も見な」

 颯が振り向き、素晴を手で招く。

「ありがとうございます!やったぁ!」

 無邪気に喜びながら、素晴は颯の隣に小走りで向かう。

 その様子を横目に、結衣は立体映像を弄り分析を続ける。

「新型の外骨格装甲は全体的に良好、不具合も無し、完璧と。頭に可変機構つけたんだけど、今回は可変しないようにしておいた」

 結衣の言葉に、颯が質問する。

「なんで?」

「お恥ずかしながら、まだ調整中だもんでして…」

 結衣が苦笑いしながら答える。

 颯が質問を重ねる。

「ちなみに、どんな可変?」

「高速巡航時に、頭が進行方向向くようになるってやつよ」

「あぁ、こいつ頭細長いと思ったらそういうことね」

 颯は、自分の外骨格の背中に下げられたヘルメットを眺める。

 細長く、先の尖った形をしているヘルメットと、それを囲むようにつけられたカメラ。

「俺、こんな鼻長くねぇのになって思ったよ」

 冗談を言う颯に、素晴が訊く。

「そういや颯さん、電磁砲はどうでした?」

「あぁ、強くはあったよ。あったけどね、あれ普通に投射砲かましてる方が楽。充填時間かかるし重いし」

 颯の言葉を聞いた結衣が口を挟む。

「あのね颯、それはあなたの拒絶虹力が強いからであって、みんながみんなそうじゃないの」

「えっ、あれ一般配備用なの?」

「そうよ。あんた以外の機動歩兵も船ワンパンできるように作ったの。まだ作りかけだけど」

「あっ、そうだったんだ。成程」

 素晴が颯の外骨格の背中につけられた、折りたたまれている電磁加速砲を見る。

 こんな代物が自分に使えるのか、と素晴は甚だ疑問に思う。

 結衣が颯を向き口を開く。

「他、何か聞いておきたいことはある?今のうちよ」

「いや、特に無いかな。大体知りたいことは知れたから、あとは宇宙(そら)で」

「そ、ならいいわ。しばらく一人で調整しておく。たまに呼ぶかもだから、そこには留意してね」

「はいよ」

 颯が軽く返し、結衣に手を振りながら部屋から出る。素晴はその横からついて行く。

 丁度その時、艦内に放送が響く。

「これより、軌道上へ帰還する。総員、座ってベルトしろよ」

 艦長が軽く指示を出した。

 その声を聞き、颯と素晴は廊下を駆け出す。

 それから一分ほどした頃。

 鏡張りの船は姿勢制御スラスターを噴かして艦首を宇宙へ向け、そして艦尾の主要スラスターから大量の虹の揺らぎを放出しながら飛んでいった。

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