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虹時代 出来損ないの亡霊  作者: 小型旧人
昔話と墓暴き編
12/36

財団

「あ、後の試合また今度ですか」

「言い忘れてたね、ごめんごめん。航空機部門も試合するからさ」

「そういうことか。じゃぁ艦内戻りますかね」

 暁斗と青田が通信する。

「あー、そうだね。中入ってていいよ」

「はい。だってさ、みんな!」

 暁斗が機動歩兵部門生たちに伝える。

「うーい」

「はいよー」

「はーい」

 各々が返事をし、艦橋の根本にある扉から艦内に入って行く。

 そんな中、暁斗が一人甲板上に残っているのを見た皐月は、ヘルメットを開き、暁斗に声をかける。

「なんで戻らないんだ?暁斗」

 暁斗も、同様にヘルメットを開く。

「空綺麗だなぁって」

「嘘つけ」

 澄ました顔で言う暁斗に、皐月が突っ込む。

「皐月が特異能力使って戦ってるとこ、一回見てみたいなって」

「…空綺麗だな」

 皐月が話を逸らす。

「ちょっとくらいいいだろ?親友だろ?何より俺はお前の兄だろ?」

「義理だし歳はこっちが上だけどな」

「ま、冗談冗談。一緒に航空機部門の試合見ようぜって誘おうと思ってただけ」

「あぁ、いいよ。俺も見る」

 

 訓練戦闘をよそに、乗組員部門の生徒たちが対空砲や姿勢制御スラスター、誘導弾発射機などを、空中作業用の吸盤付きスーツを身につけて点検している。

 艦首では、三角錐の辺に沿って配置された六基十二門の主砲が格納と展開、それに伴う喫水線下部の主砲の排水や、砲塔の折りたたみ、伸縮変形を繰り返している。

 艦橋では、艦の乗員の軍人たちがのんびりと過ごしていた。

「やはり若い子達がいると、多少こっちも元気をもらえるものだな」

 小森が艦長席で、手元にある立体映像上の伊勢を眺めながら言う。

 隣の副長席に座った青田は、小森に質問をする。

「そういえば艦長、娘さんがいらっしゃるんでしたっけ」

「まぁな。今は高校生だ。丁度、あの子達と同じくらいの歳だよ」

「軍戦部には入れなかったんですか?」

「ああ。本人のやりたいことをやらせたかったからな」

 青田は感心する。

「僕もいつか父親になったら、そんなふうにできるようになりたいものです。まぁまず恋人すらいないんですけどね」

 青田が自分の後ろ首を触りながらちょっとした自虐をし、小森が軽く笑う。

「でも君、折角いい顔を持ってるんだから、きっとモテると思うよ」

「そう…ですかねぇ」

 青田が苦笑いする。

 そんな和やかな雰囲気の日本海とは裏腹に、同刻の地中海には緊張が走っている。


 日本連合皇国は、ア連が太平洋連邦との戦争に戦力を費やしている隙を見逃さなかった。

 約四百隻の大艦隊が一斉にア連領海及び領空を侵犯。アフリカ北部に集められたア連艦隊は総勢約五十隻で、八倍の数の日本艦隊相手に、なす術はなかった。

 吾妻率いる太平洋連邦の遊撃艦隊の予想以上の機動力と戦力に、ア連は足止めを喰らっている。島を一つや二つ占領してからすぐさま手を引く気だったア連は、北アフリカ方面に即座に回せる戦力を用意していない。

「退けっ、退けぇ!」

 司令官の指示とともに、一瞬にしてたった五隻となったア連残存艦艇は艦を回頭し撤退する。それを日本艦隊は許すことなく、射線の通った艦全てが一斉にア連残存艦艇を撃ち抜いた。

 人工脳から出た赤黒い血が、北アフリカの砂漠に染み込む。

 その血は、砂漠と舗装道路の境目を越え、市街地に流れ込む。

 広がる市街地の奥には、役所を兼ねたア連軍の要塞がある。

 日本艦隊はその市街地を占領するため、市街地のビル群の真上に移動する。

 艦隊後方の空母から機動歩兵が百人ほど出撃し、複数のビルの屋上に分散し着陸する。

「この周辺の軍は直ちに武器を捨て降伏し、白旗を上げながらビルの真下へ移動せよ。繰り返す。この周辺の軍は直ちに武器を捨て降伏し、白旗を上げながらビルの真下へ移動せよ」

 だが、敵が降伏してくる様子はない。ビルと艦隊の下にいるのは、逃げ惑う市民だけだ。

 ア連軍要塞が、取り付けた大量の主砲を回す。

「敵要塞、主砲を前線の僚艦に照準!」

「抵抗してくるか…バカどもめ」

 司令官が独り言を呟いた後、立体映像上のボタンを押し通信を入れる。

「全艦、主砲発射用意!同時に、虹力子防壁を展開!」

 日本艦隊の前線の標準巡洋艦の主砲が展開される。そして船体を包み込むように、虹色に揺らぐ楕円体の膜が形成される。それが前線に整列した全艦で同時に起こる。

 ア連軍の要塞方向から、ホバー戦車が大量に、高速で走ってくる。その戦車たちは走りながら、砲を上に向け日本艦に虹色に揺らぐ一筋の閃光を浴びせる。が、その閃光は虹色の膜にぶつかり、枝分かれして明後日の方向に飛んで行く。

 戦車に続き、遠方から虹に揺らぐ点たちが近づいてくる。

「敵機動歩兵群を確認!数、12!」

「機動歩兵、発艦!」

 司令官の声とともに、ざっと30人ほどの機動歩兵が、安定翼を広げながら空母から飛んで行く。

 彼らは前線の標準巡洋艦たちの前に就くと、ア連機動歩兵の進行方向を塞ぐように上下に広がる面状の戦列を、空中に形成する。

 その戦列は、徐々に広がりながら要塞方向、及びア連機動歩兵の方向へ前進して行く。

 先程の点たちが人型に見え始めた時、その戦列から大量に、虹に揺らぐ熱線が放出される。

 最初の一斉射から続けて、一人一人がバラバラに虹を連射する。

 五つ、虹に揺らぐ爆発が発生する。

 その時、要塞から主砲と巡航誘導弾が一斉に発射され、艦隊の方向に飛んで行く。

「全艦、近接誘導弾発射!反撃開始!」

 司令官の通信とともに、標準巡洋艦たちから虹色に揺らぐ球体が、真上に向け大量に発射され、艦の周りにある虹の膜を少し引き延ばしながら防壁外まで上昇し、煌めき揺らめく糸を引きながら要塞から来る巡航誘導弾に向けて高速で接近する。

 そして標準巡洋艦たちは主砲を地面に向け斉射する。放たれた虹色の揺らぎは、自艦を包む膜を引き延ばしながら通り抜け、刹那、地面に着弾する。

 数多の戦車が、虹色に揺らぐ熱線によって、瞬く間に消え去る。

 消え去ったのは戦車だけに非ず、逃げ惑う市民たちも街から消え去った。

 道路には、消えた戦車と人々の影が焼き付いた。

 光のずれた空間が、宇宙からこの市街地へ向け高速で移動している。

 ア連軍要塞の主砲から放たれた虹色に揺らぐ線の群れが、五つの虹の爆発を弾き飛ばす。

 そして、標準巡洋艦たちの膜に激突する。

 膜は大きく凹みながら、その揺らぎ跳ね返す。

 巡航誘導弾と虹色に揺らぐ球は空中で衝突し、鮮やかな爆発が空を染めた。

 光のずれた空間が、大気圏に突入する。断熱圧縮の炎がその「ずれ」を包む様は、まるでガラスの隕石のように見える。

 日本の空母の艦橋では、乗組員が叫ぶ。

「上空より、何かが大気圏突入してきます!距離、およそ百二十キロ、映像、映します!」

 立体映像機が映すのは、空に浮かぶ巨大な鏡のような、空中船状の物体。それを見て、司令官は戦慄する。

「鏡張りの船…まさか」

 その船は、炎に包まれながら、舷側に甲板を展開する。そこには、真っ白な外骨格を身につけた一人の機動歩兵が立っている。

 展開された甲板の上に、一つの道を作るように、三つの半円が展開される。

 その半円は、内側を虹の揺らぎで満たす。

 白い機動歩兵の足元から、白い煙が噴射される。

 鏡張りの船を包む炎が引いてゆく。

 その船は、艦首を下に向ける。

「まずい…来るぞ!迎撃用意!」

 司令官が憔悴しながら指示を飛ばす。

 白い機動歩兵が、真下を向いた船の甲板で前傾姿勢を取る。

 細長い大砲が、その背中に取り付けられているのが見える。

 煙の噴射が止まる。甲板上に、レールのようなものが現れる。半円を満たす虹が、光を強める。

 白い機動歩兵は全身を虹の揺らぎに包み、レールに導かれるままその虹に突っ込む。

 白い装甲が纏う虹の揺らぎが、半円を満たす虹の揺らぎに触れた刹那、甲板上を白い風が包む。

 その風が消えた時、甲板にあるのはレールから出る白煙と、後ろ向きに吹き飛ばされた虹の揺らぎの残滓のみだった。

 白い機動歩兵は、虹に揺らぐ軌跡を空に描きながら急降下する。

 およそ高度百メートルほどまで降りた時、白い機動歩兵は虹の揺らぎを強烈に噴射し、進行方向を変える。

 虹に揺らぐ噴射炎は、スラスターから人十人分ほど伸び、目では到底追いきれないほどの速さで移動する。

「敵機動歩兵、急速に接近!速度、およそ3000!距離10キロ!真横から来ます!」

「全艦、対空砲火!やつは翼が無い。つまり『白い死神』だ!油断するな!」

 司令官の声に、各艦の艦長が呼応する様に言う。

「撃ち方始め!」

 前線を形成している標準巡洋艦たち、その後ろにいる標準戦艦たちやまばらに配置された駆逐艦、それらに囲まれた空母まで、全艦が対空投射砲を展開する。

 そして、それらは白い機動歩兵の方向に猛烈な弾幕を形成する。

 それを、白い機動歩兵は軽々と躱し続ける。

「チッ…射線が僚艦に…白い死神め、小癪な」

 艦隊中央あたりの戦艦の艦長が舌打ちをする。

 日本艦隊に通信が入る。

「えー、こちら、国際自警財団機動部隊、『白い死神』です。自分で名乗るのも変ですがね」

 到底、時速3000キロという高速で回避機動をとっている人間の声とは思えないような、爽やかな声が、日本艦隊の艦橋内に響く。

「貴艦隊による、市民への攻撃が確認されました。故、あなた方は我々の攻撃対象です。直ちに全武装を解除し、撤退して下さい。さもなくば、」

 深く息を吸う声が、通信に入る。

「当財団は貴艦隊全艦を撃沈します」

 白い死神こと大和田颯(おおわだはやて)は通信を切る。

「とは言っても、今回は単独作戦なんだけどね。なんなら今のも誇張してるし」

 そう呟きながら、立体映像で、艦隊の配置と旗艦である空母の位置を確認する。

 そんなことをしている間も、彼は体を回転させたり、急速な横移動を挟んだりしながら回避機動をとっている。

 艦隊の側面から飛んでくる弾幕の間をすり抜け、速度を保ちながら艦隊へと接近する。

 ヘルメット内立体映像には、空母の位置とそこまでの距離が表示されている。

「さて、撤退はしないと」

 颯は溜息をつく。

「やるか」

 ヘルメットの中に、無機質な声が響く。

「電磁加速砲、弾薬内二重虹力子充填開始」

 颯の目に映る艦たちが、徐々に大きくなってゆく。

 艦隊のうち、一番距離の近い戦艦が主砲を斉射する。

「ヤバっ」

 颯は急速に上昇し、軽々と回避する。

 回避した頃にはその艦はほぼ目の前と言っていいほどの距離だった。

 颯は全力で前に向け虹の揺らぎを噴射し、急減速する。

 その揺らぎは戦艦を包む膜に触れ、その膜にはぽっかりと穴が開く。

 その穴に、颯は吸い込まれるようにして突入する。

「さっきのお返しだ」

 颯はその戦艦の艦橋の上で静止し、両手に携えた投射砲から虹に揺らぐ熱線を放出する。その熱線は艦橋を貫き、艦底を通り抜けて虹の膜に当たり、バラバラに弾けた。

 艦底から、赤黒い血が溢れ出す。

 周りを包む膜が消えてゆく。

 沈みゆくその戦艦をよそに、彼は空母の方へ向かう。

「弾薬内二重虹力子、圧力50パーセント」

 無機質な声を聞き流し、艦隊の合間を縫うように颯は飛んでゆく。

 艦隊を縫う合間に、小型艇を二隻、投射槍で切り裂いて通り抜ける。

 さも当然のように行われた全く当然では無い所業に、司令官は呆然とする。

 真っ白だった装甲は、人工脳の返り血で赤い(まだら)模様になる。

「弾薬内二重虹力子、圧力100%」

 颯は急上昇し、空母を捉える。

「よーく狙って…」

 颯は両手の、先程投射槍として使っていた投射砲から虹に揺らぐ熱線を放出する。

 その熱線は空母を包む、虹に揺らぐ分厚い膜に弾かれながら穴を開ける。

 颯は静止し、背中に下げた細長い大砲を左肩に乗せる。

 その大砲は滑らかに伸び、青白い雷を帯びる。

「電磁加速砲、電磁力限界超過。弾薬内二重虹力子圧力120パーセント」

 颯は、空母の艦中央に砲口を向ける。

 そして、その大砲は虹に揺らぐ火を吹く。

 刹那、空母が虹色の大爆発を起こす。

 爆発で、装甲と人工脳の破片が周囲に飛び散る。

 颯は早急に離脱し、艦隊から離れて行く。

 返り血を浴びた隣の艦は、急いで回頭、反転する。

 それを見て、他の艦たちもバラバラに回頭、反転し、艦隊は乱雑に撤退して行く。

 たった一人の手で、しかも一瞬にして、約四百隻の艦隊が崩壊した。

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