部門内練習試合:橘対皐月
「うわー、やられた」
外骨格装甲を身につけた水野が空中で嘆く。
狙撃砲を肩に抱えつつ水上でホバーをしている橘が、水野に通信を入れる。
「ごめん、初手狙撃二連射はやりすぎたか」
「いやいや、流石です先輩。頑張って動き回ってたのに当てられちゃった」
そんな二人の通信を、外骨格装甲を纏った三灯の三兄妹が甲板上で聞いている。
「一瞬だったな」
暁斗が感嘆する。
ヘルメットの内側で、暁音が苦笑いをしながら言う。
「端から見たら何が何だかわからなかったね」
「俺、次あれ避けなきゃか」
真っ黒の疑似皮膚全身服だけの状態で、皐月は体を伸ばしながら言う。
彼の外骨格装甲は足元に置かれており、それはまるで人の抜け殻のようだ。
暁斗が皐月に言う。
「ま、頑張れよ。あれに負けたら奢り確定だけどな」
「そっか、頑張るかぁ…」
皐月は準備体操を済ませ、外骨格装甲を持ち上げる。
前半身が開かれた状態の外骨格装甲に右腕を通すと、他の部分が自動で体に吸い付くように装着され、前半身部分が閉じ、外骨格は皐月を包み込む。そして、パーカーのフードのようにして背中に下げられていたヘルメットが四つの部分に分かれつつ持ち上げられ、上がり切った時にその四つは、一つにまとまりながら皐月の頭を喰らうように包み込む。
ヘルメットの内側で、単調な声が響く。
「装着完了。基本系統、訓練用系統を選択」
様々な計器が一斉に起動し、視界に数多の数字と線が入り込む。
皐月は手足を動かし、外骨格による補助筋力を点検する。
そして安定翼を展開し、スラスターを噴かしながら飛翔、橘の真上あたりに着く。
入れ替わるようにして、水野はそそくさと甲板に飛んで行く。
「えー、二年、三灯皐月、いつでもいけます」
青田が艦橋から通信を入れる。
「了解。橘君は?」
「あー、こっちもいいっすよ」
「うし、じゃぁ始めますか」
甲板上の水野と三灯の双子も、ヘルメット内に映る、海面上の空間に重なる仮想空間を見つめる。
空中の皐月と水面上の橘の間に緊張が走る。
両者同時に、虹色に揺らぐ膜を体を包む球のように張る。
「用意…」
二人が、両手の側面に折り畳まれた投射砲を展開する。
「開始!」
その声と同時に、虹色に揺らぐ熱線が発生する。
その熱線は二度三度と連続して発生する。
その熱線群の隙間から、皐月が現れる。
皐月は真下を向いて急降下し、橘との距離を詰める。
その様子を、橘は砲身を下ろして眺める。
二人の距離が人一人分ほどとなった瞬間、橘は素早く狙撃砲を構える。
再度揺らめく熱線が辺りを照らす。
同時に、皐月のスラスターから出た虹の揺らぎも辺りを照らす。彼が前方に向けて噴射した虹力子は、海上に虹を掛ける。
避けたか、今のを。
橘は、心の中でつぶやく。
彼が独白している間に、皐月は彼の背後をとった。
海面スレスレで海に背を、橘に頭を向けた皐月は、両手に携えた投射砲から虹に揺らぐ閃光を放つ。
その閃光と共に放たれた虹の熱線は、皐月を包む虹の膜を引き延ばしながら空気を切り裂く。刹那、それは橘の膜にぶつかり、弾き飛ばされる。同時に、橘を包む膜も吹き飛ぶ。
皐月は、肩についた姿勢制御スラスターを噴かしながら体を起こす。
橘はすぐさま振り向き、腕に携えた投射砲を皐月に向ける。
脚部の部品を変形させホバー状態に入ろうとしている皐月に向け、橘は虹に揺らぐ熱線を放つ。
が、その時にはもう皐月は橘の射線上から離れていた。
橘の放った虹の揺らぎは、皐月の噴射した虹の残滓を通り抜けた。
「…チッ」
橘が舌打ちをする。
皐月は体を起こしきり、高速移動しながら足を海面に置く。
滑る皐月の周囲には強い水飛沫が発生し、その水飛沫が作り出す軌跡には虹の揺らぎが混ざる。
皐月は体を右向きに回す。
振り向きざまに皐月は右手の投射砲から虹に揺らぐ熱線を放つ。
その揺らぎは、先ほどまで橘がいた虚空を貫く。
「もらった!」
皐月の頭上で安定翼を広げ飛翔する橘はそう口走りながら、狙撃砲を発射――しようとしたが、皐月の左手は既に頭上に掲げられていた。
橘の頭を、虹に揺らぐ熱線が貫く。
「訓練終了!」
青田の声が響く。
海上の空間から、仮想空間が消えてゆく。
皐月には勝利、橘には敗北という二文字がヘルメット内の立体映像に表示される。
「いやぁ、流石皐月だな。そんな避けられるとは」
「橘も、あれ持って飛び回れるのすげぇよ。距離詰め続けなきゃ俺負けてたし」
二人の会話をよそに、水野が戦慄する。
「降参ってできるかな…」
怯える水野を、三灯の双子が揶揄う。
「できません!頑張れ!」
と、暁音。
「足掻け足掻け!」
と、暁斗。
伊勢の周りには、皐月と橘のスラスターから出た虹力子の残滓が、霧のように満ちている。その霧は、虹に揺らいでいる。




