食堂
出航の翌日、五月六日
朝、皐月は携帯電話の目覚ましの音で目覚める。カーテンを開けっぱなしにしていた窓から、朝日が差し込む。
起き上がり、換気のため窓を開けると、ウミネコの声と潮の匂いが同時に部屋に流れ込んでくる。
皐月はテレビをつけたのち顔を洗い、歯を磨く。
そして、寝巻きから私服に着替える。
その時に露出された彼の体は、多少の筋肉がついており、脂肪はほぼない。そんな引き締まった体には、数多の白斑が浮かぶ。
テレビは相変わらず、アラスカ沖の前線の様子を伝えている。滑舌が良く聞き取りやすい声の女性が、緊迫感を醸し出しながら現在の状況を解説する。だがその内容は、前日と同じく「膠着状態」でしかなかった。
窓を閉め、テレビと部屋の電気を消し、玄関で靴を履く。
そして、玄関から出た瞬間――
「わっ」
暁音と暁斗が、同時に飛びかかってくる。
「…何してんの?」
「待ち伏せ」
「なんで?」
「なんとなく」
皐月と暁音は、どうしようもない応酬を繰り返す。
それを横で聞いていた暁斗が、皐月に話しかける。
「食堂行くんだろ?行こうぜ」
「あぁ、そうだな」
三灯の双子は、一つ年上の義弟を挟む形で並んで廊下を歩く。
皐月は、高い鼻から空気を吸い込みながら言う。
「…もう食べ物の匂いしてきたな」
「皐月やっぱ鼻いいよねぇ、鼻高いからかな」
「そうなんじゃない?」
暁音を皐月が軽くあしらう。
そのまま廊下を進み、開けた空間に出る。
その開けた空間には長机と椅子がずらりと並べられており、数多の生徒たちがそこで会話をしながら食事をしている。
その空間の壁は一面銀色で、その奥から機械音が響く。
「食堂もうこんな人来てんだ。早いなぁ」
生徒たちを眺めた暁斗が言う。
「俺らが遅いんだろ」
そう言いながら、皐月が銀色の壁についた端末の方に向かう。
端末の前に立つと、真っ暗だった画面が光り始め、文字や画像を表示する。
「おはようございます、ご注」
端末から鳴る単調な声を遮り、皐月は表示されたボタンを何度か押す。
すると、端末の横に四角形状の穴が空き、そこからサンドイッチが二切れ出てくる。
皐月はそれを両手に持ち、椅子に腰掛ける。
後から、暁音と暁斗が皐月の前に座る。
暁音はパンケーキ、暁斗はスープパスタを持ってきた。
「ピリ辛海鮮スープパスタって書いてあったからこれにした。うまそうだろ」
「…朝食に食うのはきついな」
嬉しそうに話す暁斗に、皐月はサンドイッチを頬張りながら返す。
「これね、甘くないパンケーキらしい。どうなんだろ、美味しいのかなこれ」
「さぁ?」
皐月と暁斗は同時にあしらう。
暁音はパンケーキをナイフで切り、フォークに刺して口に入れてみる。
「お、意外と美味しい」
「意外って、美味しくないと思ってたのか」
と暁斗。
「なんで買ったんだよ」
と皐月。
「だって気になるじゃん。そういやさ、今日部門内練習試合だっけか」
「そうそう、タイマンだってね」
暁音の質問に、彼女の兄が答える。
「総当たりだっけ」
「そりゃ五人だしな」
皐月の質問に、彼の義兄が答える。
「じゃぁ、今日こん中で一番順位上だったやつになんか奢る、にしようか」
皐月の提案に、暁音と暁斗は嬉々として同意する。
「いいじゃん!」
「絶っ対俺が勝つ」
楽しげな二人を見て、皐月は浅い笑みを浮かべた。




