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虹時代 出来損ないの亡霊  作者: 小型旧人
昔話と墓暴き編
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プロローグ:昔話

この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません

 僕は、父を止めるため、慣れない大声を上げた。

 まだ声変わりしていない高い声は、父の背中に届くことなく、地下シェルターの虚空に吸い込まれていった。

「宇宙人をやっつけに行く」という父の言葉を、幼い僕は冗談だと思っていた。だが、その時の父の複雑な表情に潜んだ感情だけは理解できた。

 父の戦死から十年。父は無駄死にだった。状況は変わらない。父が宇宙人と言った何かが地上を彷徨(うろつ)き、他の地球人がどこに生きているのかもわからぬまま、奴らを恐れ息を潜めて暮らしている。そんな生活に絶望し、自ら命を絶ったものも幾度となく見てきた。

 父たちの出撃以来、奴らに反撃を加える動きは無くなった。到底勝てる見込みはなく、生きて帰れる保証もない。それどころか、ごく僅かに存在する出撃者の中で、遺骨が帰ってきたものもいない。

 ただ静かに、息を潜めて暮らす。そんな生活が一生続くと思っていた。

 最悪の転機が訪れた。ついに僕らの地下シェルターが見つかってしまった。

 奴らはシェルターに入り込み、火炎放射器で炎を撒き散らした。友達や周りの大人、母さんも、燃やされ、苦しみ、そして死んでいった。

 二人の兵士に追い込まれ、逃げる間もなく、僕も火炎放射器の銃口を向けられた。

 走馬灯が脳内を駆け巡る。窮屈で、恐怖に満ちた走馬灯に不快感を覚えた。

 死ぬ瞬間まで不快感を覚えてなきゃなのか、と。

 目の前から迫り来る炎。思わず目を瞑り、瞼の裏に母を浮かべる。その母は、直前に見てしまった、見てしまった焼け爛れた顔だった。覚悟する間もなく死ぬ、そう思っていた。

 体の奥深くから熱く揺らぐ何かが湧き出てくる感覚が身体中を巡った。

 その感覚は、刹那の内に手のひらに集まった。

 脊椎反射で炎に向けられた手を虹色の光が包み込むのを、恐る恐る開いた半目の瞳が写す。その光は炎を払いのけ、そして二点にまとまり、直後、弾かれるようにして兵士に飛んでいった。

 驚いて目を瞑った。次に視界に入ったものは、細い穴の空いた二人の兵士の体だった。

 頭の中が真っ白になった。何も分からなかった。

 何故この二人は死んでいるのか、何故僕は生きているのか、今何が起きたのか、

 僕は、人を殺したのか。

 そしてこの空間には、飲み込めない、飲み込みたくもない情報が充満している。

 直後、幾つかの銃声が聞こえた。僕を狙ったのではなかったのか、僕は死ななかった。

 シェルター内にいた他の兵士たちは、二つの遺体を拾い、急いだ様子でシェルターから出て行った。

 焦げた血と肉の匂いの立ち込めるシェルターの中には、皆殺しに遭ったシェルターの住人たちの焼死体と、立ち竦む僕だけがいた。

 僕は焼死体全てに声を掛けた。生きている方が惨いと思えるほどの痛ましい死体たちに、それが死体であるという現実から逃れるため、無い希望に縋った。

 当然、無意味だった。

 僕は食べ物と飲み物を持ち、のろのろと死体まみれのシェルターから出た。途方もない絶望と虚無と悲しみが胸を強く締め付ける中、未知の地上を歩き回った。あるはずのない希望を探して。

 そんな生活を続けていたある日、食料が底を尽きた。近くには、奴らの基地があった。僕は、そこから食料を盗もうと決めた。

 その時に知った。僕には奴らを蹂躙するほどの力がある――殺人に対する適性がある、と。

 やっと僕は冷静になった。襲われて殺される恐怖が、自分の強さでかき消されてことによる不安の消失でやっと、僕の心は地に足をつけた。

 ずっと夢を見ているような感覚だったことに気がついた。

 あの日以来初めて、夢から引き戻された。

 久々に見た現実は、奴らの死体で埋め尽くされた基地の床だった。

 呆然とした。

 そして、ふと思った。

 そういえば、そろそろ家に帰らないとな。お母さん怒ってるかもな。

 そして思い出した。

 もう何も無いんだと。

 現実味の無かった現実が現実味を帯びて、僕の脳内を襲った。

 母の死、恋人の死、親友の死、友人の死、知り合いの死、顔だけ知っている人たちの死、知らない内にお世話になっていた人たちの死、僕が人と認識していた人全ての死。

 涙が溢れた。嗚咽の果て、ふと思い出した光景に耐えられず、嘔吐した。

 

 

                                  

 その後僕は、その虹色の力を使って、奴らの基地を襲って回った。ただ、復讐心のみが、僕の原動力となった。

 虹色の力の正体は、僕にとっては念力だった。だから奴らに武器を使われることはなかった。

 使わせなかった、と言った方が正しいかもしれない。

 よくわからないけれど、人を殺せると言うことだけは分かった。

 僕の戦いを見て、他のシェルターからも抗戦者が現れた。「あいつについていけば勝てる」と。

 僕たちは日本を取り返した。

 それからも、僕たちはずっと戦い続けた。仲間の死を悼む間もなく、毎日のように奴らを殺した。

 それから一年、地球から奴らはいなくなった。



 西暦という時代の消失から数十年

 修復歴にして、0年

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