私には運命の人が待ってるの! 合い言葉で記憶がひらく。
(私、ゲームの世界に転生しちゃってる?)
市場の真ん中で、私は前世を思い出した。
ここは、性悪な婚約者に嘆く王子様と、優しいヒロインが出会うお話の中。
そして私は、そのヒロイン!
高位貴族のイケメンがこぞってチヤホヤしてくるキャラ。
でも本命以外、必要ない。
私には運命の人が待ってるの。
救い出してあげなくちゃ!
豪華なお城の舞踏会で、私を抱いた王子様が婚約破棄を叫んだわ。
公爵令嬢は真っ青追放刑。
「嬉しい! 殿下は私を選んでくれたのね」
「勿論だとも、ビビ。僕の未来の妃は君だ」
私は彼の婚約者として、お城に住み込むことになった。
蝋燭の火が揺れるムーディーなお部屋で、殿下と並んでソファに掛ける。
「ああ、なんて甘い香りなんだ」
「殿下が寛げるよう、特別にブレンドしたお茶なの」
「有難う。美味しいよ」
彼が寝たのを確認して、私はそっと抜け出し、城の地下へと降りていく。
「今晩は、牢番さん。今夜は冷えるでしょう? 身体が温まる差し入れを持ってきたわ」
「いいのかな? 仕事中に酒なんて」
「いいのよ。殿下は私がすること、いつも褒めてくれるもの」
ヒロインの微笑みに逆らえる相手なんていない。
身も心も緩んだ兵が、酒を片手に眠りに落ちた。
(本当によく効く薬)
逸る気持ちを抑え、私は奥の牢をのぞき込む。
中には懐かしい幼馴染。
「会いたかった、イクス! 兵は眠らせたわ。いま鍵を開ける」
イクスは目玉が落ちちゃうくらい驚いてる。
「嘘だろ、ビビ? どうしてここに?」
「貴方が捕まった時から、どうやったら助け出せるか、ずっと考えたの」
市場仲間のイクスは、ゲームでは隠しキャラ。
実は王家の血を引く、もう一人の王子設定なのだけど。
公爵令嬢が彼の顔に惚れたせいで、イクスの存在が馬鹿王子にバレてしまった。そして自分の地位を脅かすからと投獄。
酷い!
「馬鹿王子に取り入って城まで来たわ。"私には運命の人が待ってる"と自分に言い聞かせて、頑張ったんだから」
ガチャン。
錠前が落ちた。
「早く出て。あ、でもその前に。貴方は私の知ってるイクス?」
「合い言葉で確かめるか? せーの……」
「乙女ゲーは?」
「イクス推し!」
私の答えに、彼は破顔した。
私だけじゃなく、イクスも転生者だ。
私たちは二人して裏ルートの……、イクスのファンだった。
「さあ、一緒に逃げましょう」
推しに転生したイクスと、推しを推したい私。
彼は私が前世を思い出した運命の人だから。
この世界で力を合わせて生き抜いてくわ!
お読みいただき有り難うございました!
なろうラジオ5作めはキーワード「合い言葉」で参加でした。
まだキーワード残ってるし、もっと書きたいのですが、ほぼ連日投稿しちゃったので、ここで一旦"なろラジ"を切り上げたいと思います(∩´∀`*)∩
なおビビはラテン語で「生きてる」「生命」、イクスは「外部の」「外の世界」「(あるものから)超えた」などの意味。
ふたりして、外の世界から来た命ッ(´艸`*)→転生者
少し補足しますと、イクスが男の子なのに男性キャラ推しな理由は、彼の中身が、前世ビビに片思い中の学生だったから。(ビビも学生)
転生前のビビがイクスに夢中なのを知っていて、イクスを羨ましく思いつつ、彼女に話を合わせていたところ、ふたり一緒に事故に遭い(涙)、こちらの世界に転生。
イクスになってることにびっくりした彼だけど、どうも市場の幼馴染が、前世の彼女っぽくて…? 確認のため使った言葉が、ビビの記憶のトリガーを引き、以来ふたりの合い言葉になったという流れです。
(ところでふたりはもし捕っても、王様がイクスを息子だと認め、馬鹿王子を廃嫡。ビビとイクスは幸せになる予定)
浮気症の公爵令嬢と馬鹿王子のせいで、大好きなイクスが牢暮らしをさせられたため、ビビは彼女らに容赦ありませんでした。
お話を楽しんでいただけましたら嬉しいです♪
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