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ノエルが眠ってからしばらくその様子を眺めていた私は、彼が深く眠りについたのを確認してそっと寝室から出た。寝室から先ほどまで食事をしていた部屋へ戻ると、私についていたヴィヴィエンヌとアンドレア、それから城外に出ていたレオンハルトが戻ってきていたようで、私の側近たちが揃っていた。


「レオ、早かったのね。おかえり」

「ただいま姫さん。念願の辺境伯家の坊ちゃんに会えたようで、よかったな?」

「そうなのよ!思ったよりも早く会えたわね」


すでに先ほどまでの状況はアンドレアから聞いていたようだ。レオと私の会話にヴィヴィも加わる。


「本当に黒髪でしたね〜」

「へぇ!あとで坊ちゃんが起きたら紹介してくれよな〜」

「わかったわ」


そういえば、ノエルに私が誰なのかとか自己紹介するまもなくここまできてしまっていたことに気がついた。いきなりあなたの母よ!なんて言ったら驚かせてしまうだろうか。でも説明は必要だろうから、起きたらノエルとも話をしなければならない。


「じゃあ、みんな揃ったところで情報の共有といきましょうか?」

「そうだな」

「かしこまりました」


私の言葉にレオとアンドレアが頷く。ヴィヴィはこういった話には疎いので、基本口を挟んでくることはない。メインはレオの城外での情報収集の内容とアンドレアの城内の聞き込み結果。あとは今日あった出来事を踏まえたノエルについてと言ったところだろうか。


「じゃあまず私からよろしいでしょうか?」

「えぇ、アンドレア。よろしくね」

「はい、かしこまりました。姫様がヴィヴィと城内を巡っていらっしゃる間、城内の使用人たちに聞き込みをしてまいりました。まず辺境伯についてですが、現在領地の視察中というのは間違いなさそうで、国境付近やそれぞれの街も含めて回っているとのことです。この城でも基本的に人前には出ないことが多いようで、その素顔を知っている使用人はライナーくらいみたいでした。自室には人を寄せ付けず、出てくる時はフード付きのマントを羽織っているようで、フードでご自身の黒髪を隠していることが多いようです」


どうやら私の旦那様は自分の家でも息苦しい生活をしているようね…。使用人たちの前にもあまり出てこないということは彼について知っている人物は、今のところライナーが一番有力候補だろう。


「また、皆様も気になられたかと思いますが、この城の使用人たちについてですね。現在の辺境伯が家督を継がれた際に、城内の使用人の入れ替えが指示されたようです。前辺境伯の時代に仕えていた者たちはいなくなり新たに使用人を雇用したため、比較的歴の浅い若めの使用人たちが多いという状態になったようでした。現在使用人たちをまとめているのはライナーのようですが、そのライナーも現在の辺境伯がどこかから連れてこられて、今の地位にいるようですね。ただ、彼もこういった業務の経験は浅いようで全体的に手探り状態でここまで城を維持している雰囲気がありました」

「結構ギリギリでやってきた感じだな」

「えぇ、そのようですね。辺境伯の前夫人もあまり城の運営に積極的でいらっしゃらず、別館か城の外に行かれることが多かったようで、使用人たちでどうにかやってきたという状況になります。ただ、使用人たちからの辺境伯への印象はあまり悪いものではないようでしたね。黒髪で恐ろしいという認識はされているようですが、給与や待遇もしっかりしてくださっていることもあり、悪くない職場と思われているようです」


(この城に到着した際に感じた使用人たちへの違和感は、そんな背景があったわけね。)


なぜ、私の旦那様は使用人の入れ替えを行なったのかはわからないが、父である先代当主との仲はあまり宜しくはなさそうな雰囲気を感じる。旦那様の父親であり先代の辺境伯当主は、すでに亡くなっていると聞く。彼が当主についていた時代はあまり領地の運営も国防もうまくいっていなかったらしい。息子である私の旦那様が結構若い頃から、当主代理として仕事を代わりに行うこともあったらしいと聞いたこともある。嫁いできた辺境伯家の家族関係は、あまりよろしくないと考えた方がいいだろう。まぁすでに亡くなられている人のことだ。生きていて煩わされることがないだけマシだろう。


「先代当主の近くにいた奴らは、家臣や使用人含めてアンドレアが言っていた代替わりの時に、姫さんの旦那に追い出される形で城を後にしたようだな。ただ、それ以外の使用人や一部の家臣たちはまだ領地内にいるみたいなんだよな。先先代の時代に当主を支えていた家臣の一族とかが多いようだが」

「先先代といえば、黒獅子の異名をもつお方よね?」

「あぁ、あの時代は近隣諸国の情勢も不安定だったから、国境を守る強力な盾として活躍されていた御仁だ」

「黒髪でいらっしゃることもあり王都の貴族たちからは嫌厭されていたようですが、王家や公爵家などの上位貴族の皆様からは支持を受けていたんでしたよね?」

「えぇ、その通りよ。私のお父様やヴィヴィのお父様も憧れていたと聞くから素晴らしい方だったんだと思うんだけれど」


私の旦那様のお祖父様である先先代の辺境伯は結構有名な方で、黒髪だからと恐れられてはいたものの、その強さと人柄から一部の者たちからの支持があつい。戦争が起これば百戦錬磨の強い方だったと聞いたことがある。その先先代を支えた家臣たちがまだ領地に留まっているが、どうやら私の旦那様は彼らと仕事をしていないらしい。どういうことだろう?


「その領地に残っている家臣たちはなぜ辺境伯領地に留まっているのかはわかった?」

「いや、そこまでは掴めなかった。ただこの城からそう遠くない場所にもいるらしいんだよな。姫さんに相談して気になるようならもう少し調べてみようかと思ったんだよ」

「確かに、気になるところね。ただ私の旦那様がどう言った考えで彼らと接触していないのかによっては勝手に動くのも危険かもしれない。一旦は様子見といったところかしら」

「そうだな。とりあえずもう少し調べられる範囲で確かめてみるわ」

「えぇ、お願い。他には何かわかった?」


先先代の家臣たちについてはおいおい調べていこう。私はそのほかの領地について、レオに尋ねた。


「そうだな〜。領地運営はそんなに悪くなさそうだ。ただ、これといった特産品とかがあるわけではないから、何かあった時に備えてもう少し活気が欲しいかもな、領地全体として」

「レオ、色々試したくてうずうずしてるんじゃないの?」

「…まぁそれはそうなんだけど。でもここは姫さんの領地じゃなくて姫さんの旦那の領地だからなぁ。そんな好き勝手できないだろ?」

「そうね。私の旦那様がどんな方かによっては色々やらせてもらえるかもしれないわよ?」


レオは領地運営とか新しい何かを根付かせるといったことをするのが好きで、私が王族として与えられている領地では彼に好きにやらせていた。その流れで商会を持つことになったり、色々あったんだけれど。そんな彼だからこそ、私の領地とはまた違った場所で何かできるかもといった期待感があるのだろう。


「じゃあ、そこんところは姫さんがいい感じに旦那に俺のことを売り込んでもらって、楽しみにしておこうかな」

「ふふっ、そうね。どんな方かはわからないけど、尽力するわ」

「よろしく!あとは、さっきのアンドレアからの話にも少し繋がるんだが、代替わりの時に家臣や使用人の大きな入れ替えがあったことで、姫さんの旦那の近くにはあまり人材が足りていないっぽいんだよ。今回の視察ってのも、本来であれば他の者に任せて、旦那は姫さんを当主として出迎えなきゃだろ?でも結果としては今、城に当主は不在だ。任せられる家臣もいない中で、広大な領地の運営や国防を担うのはきついと思うんだよな」


確かにその通りだ。いくら仕事が忙しいからといって、自分の妻の到着に夫がいないのは失礼にあたるだろう。特に私が王女であるということからも尚更。果たして妻のことなど興味もないといった冷血漢なのか、はたまた本当に人材不足で切羽詰まっているのか…。


「この辺含めて、一旦ライナーに話を聞かなきゃかしらね」

「そうだな〜」

「ノエル坊っちゃまについてはどうされるのですか?」


アンドレアの質問で、話題はノエルのことに移った。そう、ノエルがあの状態で現れることも通常ならばおかしいのだ。いくら黒髪で周りから忌避されるとはいえ、彼は辺境伯家嫡男なのだから。あのようにろくに世話もされていない状態でいていいはずがない。


「ノエルのことは別館にいたようだから詳しくないのか、ライナーもあの状態にびっくりしていたわね」

「別館のことはライナー含めて城の使用人たちはあまり情報を持っていないようでしたね。前辺境伯夫人の連れてきた侍女たちが仕切っていたようで、別館で働く使用人たちも彼女たちが別ルートで連れてきていたようです」

「なるほどね…」

「ただ、前夫人も仕える侍女たちもノエル様に関心がなさそうで、外に出かける前夫人や侍女たちは見かけるのにご子息であるノエル様をみたことがあるものはあまりいなかったようなんです。見かけたことがある者たちもあまりそのことを口にしたがらない様子でしたので、やはり良い待遇は受けていないのではないかと…」


(アンドレアの持ってきた内容からしても、完全にネグレクト状態だよね…これ)


忍び込んだ時に見た2階の全く子供に関するものがおいていない部屋たちや、実際に会ったノエルの状態を踏まえて、ネグレクト…つまり育児放棄だと感じた。ノエルの置かれている状況をライナーも知らないとなると、私の旦那様も知らないのかしら。


「とりあえず、前夫人はどうだか知らないけれど、私はもうあの子をたくさん可愛がる予定だから、別館には返さないわ」

「そうですね。あの様子からして現状姫様にしか懐いていないですし、近くにいた方がノエル様にとってもよろしいかと」

「決定ね!一応、別館にノエルのものがないか確認をしてもらうけど、取り急ぎうちの商会から子供用の服とかおもちゃとか取り寄せておいてくれるかしら?間に合わないようであれば城下で何か見繕うかできるといいんだけど」

「すでに必要そうなものは見繕って届けるように支持を出しております、姫様。明日には届くかと。あとは服なども姫様がお選びになりたいかと思いましたので、既製品のカタログがこちらに。オーダーメイドでの作成もできるように、服飾担当の者たちを数人呼び寄せておりますわ」

「アンドレア…さすがすぎるわ」

「恐れ入ります」


なんて優秀なんでしょう、私のアンドレア。取り急ぎノエルの身の回りのものは用意できそうね。ここまで話したところで、私たちの情報共有も一旦終わりにしてライナーを呼んで話を聞くことにした。


子供に聞かせたくない話もあるだろうから、ノエルが起きる前にしてしまいたい。可愛い可愛い私の黒猫ちゃん(ノエル)には素敵な世界で幸せに過ごして欲しい。そのためにも、もう少し話し合いが必要そうだ。



アイリスと愉快な仲間たちの会議で終わってしまいました…

次回はライナーからも話を聞きます。

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