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「あら、私さっきノクス様により一層大きな愛を伝えていきますって宣言したばかりだから、イチャイチャしないのは無理があるわよ?」
私はそうレオに言った。
「まじか〜、じゃあ俺も早く何事もなくあいつといられるように頑張りますわ」
レオはそんな返しをしつつ、気まずそうに後頭部をぽりぽりと掻いた。
(でも、レオとヴィヴィが恋人っぽい感じなのってあんまり想像できないのよねぇ)
なぜなら、彼らはいつも友達同士と変わらぬ距離感でいる所しか私はみたことがないからだ。特にヴィヴィはアンドレアと並んで私の家臣の中でも一際、自分で言うのもなんだが私第一主義だ。
(結構、ヴィヴィはレオのこと雑に扱うこともあるし……いや、それはアンドレアもだわ)
それもあって、私の中でのレオとヴィヴィの関係性は、幼い頃の幼馴染であり友人でもある状況となんら変わりない姿しかみてきていなかった。
「どうすっかなぁ」とでも言いたげな様子のレオに、私は言う。
「じゃあまずはヴィヴィのお父様に勝たなきゃね」
「そうなんだよなぁあ」
レオは深いため息をつきながら、「頑張りますから、お二人とも協力お願いします…!」と言い残し去っていった。
その後ろ姿を見ながらノクス様が言う。
「なんだか彼も大変なんですね」
それにふふっと笑ってしまう。
「まぁどうにかなると思いますよ?レオはなんだかんだで容量がいいですし、いつもここぞって時にはやり切る男ですから」
「……なるほど」
そう返したノクス様は、私を引き寄せてその腰に手を回す。そして、私の顔を見下ろしながら言った。
「一応、彼とアイリスが私の考えるような関係ではないことに安心はしましたが、自分でない男のことを褒めるのは………あまり聞きたくないです」
ちょっと拗ねたように見下ろしてくる、そんな姿がやはり愛しく見えて笑ってしまう。
「ふふっ、もちろんノクス様が私の中で一番に決まっていますよ?」
そう笑顔で答えて、少し拗ねた様子の愛しの旦那様を見上げたのだった。
◇ ◇ ◇
レオと別れ、私たちが向かったのはいつもの別館だった。
(自分で作っただけあって、やっぱり居心地いいわよねぇ)
毎回ここに来るたびに、嬉しくなってしまう。
中に入ると図書館の方からノエルが侍女のミモザを伴って歩いてきた。
「お母様、お父様!」
嬉しそうに走ってきたノエルは私に飛びついてくる。それをギュッと受け止めて、ノエルに言った。
「ノエル!お昼寝は終わってたの?」
「うん!」
元気よく答えたノエルは、その後顔をノクス様の方へと向ける。その表情は、帰ってきたんだと少し嬉しそうだ。
(やっぱり家族が揃うのは嬉しいものね)
ノエルのそんな表情を見ていると、私も改めてノクス様が帰ってきたと言うことに実感が湧いて嬉しくなる。
「お父様、お帰りなさい」
「あぁ……ただいま」
そう答えて、自分の息子の頭を撫でるノクス様。
(こんなやりとりもできるようになったのも嬉しいことの一つね)
二人のやり取りを見ながら、嬉しくなって私はちょうど自分の手の届く場所にいた二人をまとめてぎゅっと抱きしめた。私のそんな行動に驚くノクス様とノエル。
(驚いた表情もそっくり!もうほんとに可愛いんだから……!)
「二人とも、大好きですわ!!愛してます!ずっと一緒にいましょうね!」
にこやかにそう言いながら、抱きしめ続ける私を今度はキョトンとした顔で見てきた二人は、それぞれ笑顔になりながら言った。
「僕も、お父様もお母様も大好きです!!」
「私も……ずっと一緒にいたいと思います」
窓から差し込む陽射しが、床に淡い光の模様を描く。暑さはじんわりと肌にまとわりつくけれど、心はどこまでも軽い。
(この時間がずっと続けばいい……そしてもっと幸せな家族になるの)
秋には社交シーズンが始まる。今まではこの城の中だけで過ごしてこれていたけれど、流石に王都へ出向かなければならないだろう。
(レオの件も何事もなければおそらくその時になるだろうし、私の誕生日もあるから……王城への顔出しは必須になるでしょうね……)
実を言うとすでに何回か、王都の父と母、つまりこの国の王と王妃から一度顔を見せにこいと手紙が来ていた。しばらくは、ノクス様とノエルの様子を見てからと思って当たり障りない返事で切り抜けてきたが、流石にそうも言っていられないだろう。
黒髪を忌避する感情が根強いこの国で、貴族たちはことさらその感情が激しかった。そんな状況下でこの二人をなるべく傷つけずに社交シーズンを乗り切らなければいけない。
(いっそのこと、全ての元凶である宗教をどうにかしてしまう?流石にそれは難しいかしら?)
根深い問題を簡単にどうにかできるとは思っていない。それでも、何かできることはあるんじゃないだろうか。そう考えてしまう。
(だって、この二人は何も悪いことをしていないんだもの)
ただ、黒髪で生まれてきただけのノクス様とノエル。それが罪だなんて絶対に認めてはいけない。
(でも、まぁとりあえず今のところは……家族での団欒を楽しむとしましょうか)
いつかは、でも、今はまだ。
そして、この家族でならこの夏の向こうにある未来だって、きっと乗り越えていける。
(いえ、乗り越えてみせるわ!)
そう、決意を新たに二人を改めて抱きしめたのだった。
これにてひとまず夏の章、完結です!ありがとうございました!
秋の章は登場人物も増え、アイリスさんたちが過ごす場所も、今いる城から離れて王都やアイリスさんの領地などへと変わっていく……予定です!(多分……!)
ただ、しばらく私が今週から忙しくなり更新が難しいため、しばらく更新ストップとなります。ぜひ、また再開したらご覧いただけますと幸いです!(なので是非ともブックマークいただけると嬉しいです!)
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