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その後もノクス様から、彼がどのような気持ちで最近過ごしていたのか聞き出した。
距離感が近かったり、私とレオの間にある確かな絆が、私を目で追いかけるたびにわかってしまって、どうしようもなく不安で焦ってしまったのだという。そう打ち明けたノクス様は、すべてを吐き出したことで私に嫌がられないか、嫌われないかと不安そうにしている。
(えぇ!?なんて可愛いの?好きすぎる……!)
そんな彼を安心させるように、私はそっと自分の方へと引き寄せ、ぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫ですよ」
そう囁きながら、片口にくるノクス様の黒髪をゆっくりと撫でる。
そして、安心してほしくて、彼の頬へとそっとキスを落とした。
キスされた瞬間、ノクス様の身体がわずかに強張る。すると、彼はゆっくりと片手を頬へと持っていき、そっとそこを抑えた。
(本当に、可愛い。全ての仕草が愛おしいなんて……困った人なんだから!)
その反応が微笑ましくて、私はついふふっと笑ってしまう。
「つまり、レオに嫉妬してくれていたってことですね?」
嬉しそうに私がそう言うと、ノクス様はポカンとした表情のまま「嫉妬?」と聞き返してきた。
そんな彼の反応すらも愛おしく思いながら、私は続けた。
「私とレオが近くにいると気になって、不安になって、私とレオの過ごしてきた時間の長さに焦って……それって、嫉妬してくれていたってことですよね?」
ノクス様は少し考えるように目線を逸らし、しばらく黙った後、小さく「……そうなのかもしれない」と呟く。初めての嫉妬という感情に驚いているようだった。
続けて、「嫉妬する夫なんて重くて嫌ですか」と、恐る恐る尋ねるノクス様。
それに私は満面の笑みを浮かべて、即座に答えた。
「そんなわけないですわ!」
そして、さらに言葉を続ける。
「嫉妬してくれるくらい、私のことを好きになってくれたことが、とっても嬉しいんですもの」
相手のことを好きになったからこそ、嫉妬の気持ちも生まれる。それは、それくらい私のことを好きになってくれて、愛してくれている証拠なのだから。
「それに、私は愛は重い方が好きですし、嬉しくなりますわ」
ノクス様の瞳が大きく揺れる。
「もちろん、私の愛も重いので……引かないでくださいね?嫉妬や不安になんてさせないくらい、これからもノクス様にたくさんの愛を贈りますわ。そして、あなたからもらうどんな感情も私にとっては嬉しいの。不安になんてならなくていいのです。嫉妬も大歓迎!」
お茶目に微笑みながらそう言うと、ノクス様は少し驚いたように目を瞬かせた後——。
「……アイリス、愛しています」
心の底から嬉しそうな微笑みを浮かべながら、そう言った。
その言葉に、私の心もまた、嬉しさでいっぱいになるのだった。
◇ ◇ ◇
不安な気持ちが落ち着いたからか、それとも疲れがどっと押し寄せてきたのか——。
ノクス様はそれから次第に瞼を重くし、眠たげな表情を浮かべていた。
「少し休まれたらいかがです?」
私がそう提案すると、ノクス様は眠そうな金色の瞳で私をじっと見つめ、ゆっくりと呟いた。
「……じゃあ、ここで眠ります」
そう言うや否や、ソファーの上に横になり出すノクス様。
「ここで?」
(すぐそこには寝室のベッドがあるんだしあっちの方が……)
私は思わず問いかける。
「ベッドで寝た方が、ゆっくり休めますわよ?」
しかし、ノクス様は静かに首を横に振り、代わりにゆっくりと私の膝の方へと顔を寄せてきた。
(まさか……)
その意図に気づいた私は、思わず微笑む。
そして、近くにあったクッションを膝の上にそっと乗せ、待ち構えるように手を置いた。
案の定、ノクス様はためらいもなく、私の膝の上に頭を乗せる。
仰向けになった彼の視線が、私を見上げていた。
静かな金色の瞳。
その美しい瞳に見つめられながら、私はそっと片手を伸ばし、彼の手を握る。
すると、ノクス様もぎゅっと握り返してきた。
まるで、私が離れてしまうのを恐れているかのように。
私は小さく微笑む。
「どこにも行きませんから、安心してください」
そう囁きながら、空いている方の手で彼の黒髪をゆっくりと撫でる。
柔らかく、指の間をするりと抜ける黒髪。
そして、最後にそっと彼の額に唇を寄せる。
淡く落としたキスに、ノクス様の瞼がふるりと震えた。
(きっと、すぐに眠れるでしょう)
私は、彼が安らかに眠れるよう、そっと髪を撫で続けた。




