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ほのかに暖かくなったイヤーカフに引き続き魔力を込めながら、念じる。
「……ノクス様?」
しばらくすると、少し遅れて驚いたようなノクス様の声が聞こえた。
「……アイリス?」
(よしっ!成功ね!)
私は心の中で小さくガッツポーズをする。このイヤーカフには、いくつかの魔法機能を埋め込めるように設計されていた。その一つとして、あらかじめ組み込んでいたのがこの通信機能だ。雷・風・光系統の複合魔法を用いて、私の領地の研究者たちが発明したもの。前世でいう電話のような機能を持っていた。
「ノクス様、聞こえますか?」
イヤーカフに魔力を送りながら呼びかける。
「……こう、でしょうか?」
少し間を置いてから、ノクス様の落ち着いた声が返ってきた。
(さすがね、やっぱり使いこなせちゃうのね)
私は内心感心する。魔力の扱いに慣れた人でなければ、イヤーカフを通じた会話は難しいはずなのに、彼は一度の説明で理解し、使いこなしてしまった。
「ふふっ、上手ですわ」
そう褒めると、ノクス様は少し考えるように間を置いてから、静かに言った。
「その、夢じゃないですよね?」
その言葉に、思わずクスリと笑ってしまう。
「夢じゃないですよ」
そう返してから、続ける。
「驚きました?」
ノクス様は少しの沈黙の後、真面目な声で答えた。
「……驚きました」
そして、さらに言葉を続ける。
「ちょうどアイリスのことを思っていた時だったので、あなたの声が聞けて嬉しいです」
「……っ」
思わず赤面する。
ノクス様はもともと私に対して素直ではあるけれど、こういったストレートな言葉が最近増えてきた気がする。
少し気恥ずかしさを感じつつも、私は静かに笑った。
「怪我はしていませんか?」
イヤーカフにそっと魔力を込めながら問いかける。
「していません」
ノクス様の落ち着いた声が返ってくる。
「本当に?どこか痛むところはありませんか?」
「ありません、大丈夫です」
「食事はちゃんと摂っていますか?」
「摂っています」
「睡眠は?」
「……大丈夫です」
「その沈黙。ちゃんと寝てないでしょう?」
「少しは寝てますから問題ありません」
「少しは、ではダメです。ちゃんと寝てくださいね?」
「……わかりました」
そんなやり取りを続け、ようやく一通りの確認を終えたところで、ノクス様が問いかけてきた。
「アイリスは、ここ最近何をしていましたか?」
「いつも通りですよ。仕事を片付けたり、ノエルと遊んだりしていました」
続けて「ノエルは相変わらず今は絵を描くことに夢中ですよ」とそう答えた後、しばらくの沈黙が流れる。
「でも……いつも通り、というわけにはいきませんでしたね」
私の言葉を受けてノクス様がぽつりと呟く。
「なぜですか?」
彼の静かな問いかけに、私は少し考えた後、そっと言葉を紡ぐ。
「だって……あなたがいないので寂しいのですもの」
その瞬間、イヤーカフ越しに小さく息を飲む音が聞こえた。
「……寂しいと思ってくれたのですか?」
「当たり前でしょう?」
私は微笑む。
「愛するノクス様と一日でも離れるなんて私にとって苦痛なのに、もう一週間も会えていないんですよ?早く会いたいから、早く帰ってきてほしいですわ」
再び沈黙。しかし、次に聞こえてきたのは、心底嬉しそうな声音だった。
「……私も、アイリスに早く会いたいです」
その言葉に、胸がじんわりと温かくなる。
その後もしばらく他愛もない話を続けてから、ちゃんと寝るように再度念押しした後に、私は通信を切った。
「今日はぐっすり眠れそう……!」
そう呟きながら、私はベッドへと潜り込んだ。




