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ジリジリと照りつける日差しを、私は木陰から見上げた。


(……暑い。やっぱり外は暑いわねぇ)


梅雨が明け、燦々と輝く太陽が城の庭を照らしている。夏の盛りというにはまだ少し早い気もするけれど、それでもこの暑さは容赦なく肌を焼いてくる。日陰にいてもじんわりと汗が滲みそうなほどだ。


ここは別館の外にある一角。風通しの良い場所に設えた休息スペースに、私はノクス様と二人で座っていた。


ここ最近、領地内では夏の準備が進んでいて、城内も衣替えが行われている。涼しい装いへと変わる人々を見て、私の商会で作ったブランド「シャノワール」の夏用の新作も、そろそろ本格的に動き出す頃だと実感する。


今日の私の装いも、その新作のひとつ。


肩まで露出したオフショルダーのドレスは、涼しい素材で作られた軽やかなものだ。布地はさらりとしていて肌にまとわりつかず、足首までの丈が上品さを保ちつつも、風を通して心地よい涼しさを感じさせる。


隣に座るノクス様をちらりと見やる。

彼の服もまた、私が用意したものだった。

彼は普段、背中の傷を隠すために常にインナーを着ている。そのせいで夏場は特に暑そうだなと気になっていた私は、商会の職人たちやイリス領にいる研究者たちに頼んで、通気性が良く、それでいて肌触りのいい布を研究させたのだった。


「ノクス様、暑くないですか?」


私の問いかけに、ノクス様はちらりとこちらを見て「問題ありません」と淡々と答えた。

だが、その直後、彼はそっと手を伸ばし、私のドレスの裾を指先で摘まむ。


「これ……涼しくて、いいですね」


ほんの少しの間を置いて、ぽつりと感想を述べるノクス様。

その何気ない言葉に、私は思わず満足げに微笑んだ。


(喜んでもらえているのであれば、作った甲斐があったわね)


愛する旦那様のために作ったものが、彼に喜ばれている。それだけで、今日も私は良い仕事をしたと思える。


木陰を吹き抜ける風が、私のドレスの裾をふわりと揺らした。




ふと、ノクス様の目線が奥の方へ向いた。それに気づいた私は、つられるように同じ方向を見る。


そこでは、花壇の縁にしゃがみ込み、熱心にスケッチブックに絵を描くノエルの姿があった。彼の視線の先には色とりどりの花々。幼い手で鉛筆を握りしめ、一生懸命に線を引いている。彼の服もまた、私が用意した涼しい素材のもので、かぶっている帽子の陰から覗く横顔は特段暑そうには見えない。それを見て、私は自然と微笑んだ。


(よく集中力が続くわねぇ)


少し目線をずらし、目の前の花壇へと視線を移す。


(それにしても……増えたな、花が)


そこには、様々な種類の花が咲き誇っていた。中でも、一際目を引くのは数多くの薔薇たち。鮮やかな色の花弁が風に揺れ、美しく咲き誇っている。それらは、ノクス様が私へ贈るために品種改良を重ねた結果、生まれたものだった。

そして、もちろん今日の私の髪には、彼から送ってもらった金と黒の薔薇が美しく飾られていた。


ピンク、白、赤、紫……色とりどりの薔薇が花壇に溢れ、もはや一つのバラ園といってもいいほどの景色が広がっている。夏の強い日差しは薔薇には厳しいはずなのに、ここのバラは萎れることなく凛と咲いていた。


その理由を私は知っている。

ノクス様が魔法を用いて、常に美しく咲くように改良した結果なのだ。


隣に座る愛する旦那様をちらりと見る。


ぼんやりとした表情で遠くを眺めるその横顔は、相変わらず端正で美しい。


(この人、本当になんでもできちゃうのよね……)


思わず、心の中で呟く。

そんな私の視線に気づいたのか、ノクス様がこちらを振り向いた。


「……?」


なんで見ているの、そんな風な表情だが、その口元には微かな微笑みが浮かんでいる。

それを見て、私は思った。

 

(今日も、最高に可愛いわ。毎日見ても飽きない。最高に愛しいわね)




よく見ると、ノクス様の額には汗が滲んでいる。いくら涼しい服を着ているとはいえ、こうして外にいれば暑さは感じるのだろう。


私はドレスのポケットからハンカチを取り出し、ノクス様の額へとそっと押し当てた。


「……」


ノクス様は特に言葉を発することなく、されるがままになっている。額の汗を拭いながら、少し乱れた黒髪を撫でて整える。すると、彼は目を細め、心地よさそうにしていた。


その様子があまりにも愛らしくて、私は思わずふふっと笑ってしまう。


「そろそろ中へ入りましょうか?」


そう声をかけると、ノクス様は無言でこくりと頷いた。


私はそんな彼を微笑ましく思いながら、今度は花壇の近くで絵を描いているノエルに声をかける。


「ノエル!そろそろ中へ入りましょう?」


ノエルはスケッチブックを抱えたまま、元気よく「はーい!」と返事をした。


暑い夏の日。

 

私たち家族は、今日も穏やかに、仲良く過ごしていた。


夏の章、後半スタートです⸜(*ˊᗜˋ*)⸝

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