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その後も別館で穏やかに楽しく過ごした私たちは、今日はそのままここに泊まることにした。

ノクス様の仕事が休みの日には、私たち三人で別館の寝室を使うのがいつものことだった。


寝台の上では、すでにぐっすりと夢の中のノエル。その安らかな寝顔を眺めて微笑んでいると、背後から同じように彼を見つめていたノクス様の気配を感じる。私はそっと振り返り、彼に声をかけた。


「私たちは隣の部屋でもう少し過ごしましょうか?」


その提案に、ノクス様は少し嬉しそうに頷いた。

自然と手を繋ぎ、寝室を後にする。



隣の部屋では、ワインを開けて静かに談笑を楽しんだ。

ソファに横並びで座り、肩が触れ合いそうなほどの距離感。少し酔いが回ってきただろうか。


二人きりになると、最近のノクス様は私の近くに座りたがるようになった。それはもちろん私としては大歓迎なので、彼の好きにさせている。


(本格的に酔ってしまう前に、渡してしまわないとね…)


私はワイングラスをテーブルの上に置き、体を少しずらしてノクス様の方を向いた。そんな私の動きに気づいた彼も、同じようにグラスを置き、何か話でもあるのかと静かに私を見つめる。


(私もある程度お酒には強いのだけれど、この人は全然顔色変えないわねぇ)


そんなことを思いつつ、私はドレスのポケットから小さな小包を取り出し、彼の手にそっと乗せた。


「最後は私からのプレゼントですわ」


にこやかに言うと、ノクス様は一瞬驚いたように私を見た後、「開けてもいいですか?」と確認するように目を向けた。


「もちろん」


私の返事に、ノクス様は慎重に包みを開く。


そして、中から現れたのは銀色の美しい装飾が施されたイヤーカフ。アクセントとして、私の瞳の色とそっくりのサファイアが青く煌めいていた。


「……見事ですね」


ノクス様は感嘆の声を上げ、その反応に私は内心で小さくガッツポーズをした。


(よし……!好感触ね!頑張ってデザインした甲斐があったわ)


彼に贈るものは、できるだけ彼の好みに合うものをと考え抜いている。以前贈った剣もそうだった。いつも無表情がデフォルトの彼が、嬉しそうに表情を崩す瞬間を見るのが、私は何よりも好きだった。


「つけてみます?」


そう促すと、ノクス様は頷き、そっとイヤーカフを取り出して「アイリスが、つけてくれませんか」と差し出してきた。その可愛らしいお願いに、私は嬉しくなりながら「ええ、もちろん」と微笑んで受け取る。


さらりと彼の黒髪を避け、耳にイヤーカフをつける。


「できました」


少し離れて彼の姿を見つめると、イヤーカフはノクス様の雰囲気に完璧にマッチしていた。青いサファイアがきらりと光り、彼の魅力をさらに引き立てている。


「とっても似合っていますわ」


そう告げると、ノクス様は静かに私の手を取った。

指を絡めながら、心から嬉しそうに「大切にします」と言う。


「アイリスの瞳の色が、私は好きなので嬉しいです」


その甘い声色に、私は思わず顔を赤らめた。


(そんな……そんな美しいお顔に笑顔で、蕩けそうな声を出されると破壊力が高すぎる……!)


そんな私を見つめながら、ノクス様の視線がふと私の耳へと向けられる。


(お、気づいたわね?)


「気付きましたか?」


私はちょっと得意げに微笑む。


そう、私の耳にもイヤーカフが飾られていた。ノクス様のものとお揃いのデザイン。ただ、銀の装飾の中で輝くのは黄色味の強いイエローサファイアだった。違う色のサファイア——それは、ノクス様の瞳の色にできるだけ似た宝石を選び、自分用に作ったものだった。


「お揃い、でしょうか?」


ノクス様が問いかける。


「ええ、どうせならお揃いのものを持ってみたくて」


そう言って可愛らしく微笑むと、ノクス様は破顔し、「お揃い、嬉しいです」と穏やかに微笑んだ。


(う……なんてこと。その顔は反則でしょ……!)


その表情があまりにも幸せそうで、私は完全に顔が真っ赤になってしまった。慌てて手で顔を仰ぎながら、誤魔化すように口を開く。


「このイヤーカフには少し仕掛けをしました」


「仕掛け?」


ノクス様が首をかしげる。


私は意味ありげに微笑み、「それはまた今度教えますね」と楽しげに言った。


「わかりました」


ノクス様は素直に頷く。そうして、二人の時間はゆっくりと穏やかに流れていった。



◇ ◇ ◇



(あんな幸せそうな顔をするなんて……!)


先ほどのノクス様の極上に美しい笑顔を思い出し、またもや顔が熱くなるのを感じる私。


(美形の最高級の笑顔を至近距離で浴びてしまって、眩しさに倒れそうよ……)


しかし、そんな私の様子を気にすることなく、ノクス様は自分の洋服のポケットから何かを取り出した。

そして、そっと私の前に差し出す。


「これは?」


不思議そうに問いかけると、ノクス様は静かに言った。


「私からもプレゼントです」


驚いて目を瞬かせる。

どうやら、私たち家族の誕生日には贈り物を送り合う習慣が、自然とできてしまったようだ。


「嬉しいです!開けてもいいですか?」


笑顔で尋ねると、ノクス様は緊張したように小さく頷いた。その表情を見て、以前プレゼントをくれた時にも少しぎこちなかったことを思い出す。そんな彼の様子が微笑ましくて、心の中で「可愛い」と思いながら、そっと包みを開いた。


そこには、艶やかな黒バラが一輪、静かに咲いていた。


「これって……!」


驚いて顔を上げると、ノクス様は頷き、静かに口を開く。


「黒のものを贈ることには、少し抵抗がありました。でも、あなたに愛してもらって、この梅雨の時期もいつもと違って気分が悪くならない日が増えた。だから、これをあげたいと思って準備していました」


魔法がかかった黒バラは、艶やかな黒の中に、暗い紫の粒子がかすかに舞い散っている。私はその美しい花の花弁をそっと指でなぞりながら、ゆっくりと呟いた。


「……闇属性の魔法がかかっていますね?」


ノクス様は再び頷く。


「あなたを守ってくれるような機能をつけてみました」


そう言いながら、彼は私の手にあった薔薇をそっと取り、優しく私の淡い紫の髪に飾る。


そして、そのまま指先で髪の毛を一房取り、ふわりと持ち上げたかと思うと、その毛先にそっと唇を落とした。


「………アイリス。あなたがいなくなってしまったら、私はもう耐えられそうにない」


懇願するような声音。

まっすぐな金色の瞳が私を捉えて、離さない。



「あなたは私の全てだから。世間から疎まれる黒髪の私ですが……どうかこれからも、あなたの隣にいさせてほしい」


その言葉に、私は心の底から満ち足りた気持ちになり、ノクス様を見つめながら、満面の笑顔で応えた。


「当たり前ですわ。私はずっとあなたの隣にいるし、あなたを一人になんてしません。ずっと一緒にいましょうね、私の愛しいノクス様」


その言葉に、ノクス様はまるで安心するように破顔する。



いつの間にか、二人の距離はすっかり近くなっていて。


自然と、唇が重なった。


互いの温もりを感じながら、しばらくしてそっと顔を離した二人は、ふっと微笑み合った。

ノクス様の瞳には優しさが宿っていて、私の髪を指先で優しく梳く。


「あなたとこうしていられることが、私にとってどれほど幸せなことか……」


小さく呟くノクス様に、私は笑顔を深めながらそっと彼の頬に触れる。


「私も同じですわ。あなたがいてくれるから、私は幸せなの」


ノクス様の黒髪にそっと指を絡めながら、私は彼の愛を感じた。


二人の想いが重なった誕生日の夜。


(これからも、私は彼のそばにいて、彼にたくさんの愛を贈るわ……)


そう、改めて私は思った。


これにて夏の章前半が終了!

夏はなるべくアイリスさんと旦那様の甘々な感じを出したいと思っていましたが、ここから先の旦那様をどうしていくか、ちょっと悩み中です。


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