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「私もあなたが好きです」
その言葉が彼の口から紡がれた瞬間、胸の奥がふわりと温かくなった。
あまりにも自然で、それでいて大切に包み込むような声音。今まで幾度となく彼と言葉を交わしてきたはずなのに、この一言だけで心がこんなにも揺さぶられるなんて。
気がつけば、私はふふっと笑っていた。
「嬉しいです」
そう言って、彼の金の瞳をまっすぐに見つめる。そこには、確かに私を映す彼がいた。
ノクス様は黙って私の手を取り、そっと自分の頬へ当てた。その手のひらに伝わる彼の体温。しっとりとした肌の感触と、心地よいぬくもりが指先からじんわりと伝わってくる。
ふと、彼のまぶたがゆっくりと伏せられた。
まるで、この瞬間を噛みしめるように。
そして、微かに目元を緩ませながら、彼は微笑んだ。
その表情は、今まで見たどの笑顔よりも穏やかで、どこか儚げで、それでいて確かに幸せそうだった。
いつも無表情で、感情の読みにくい彼が、こんなにも優しい顔をするなんて。
私の胸の奥が、またじんわりと温かくなる。
「あなたのそんな顔が見られるなんて、思ってもみませんでした」
そう言いながら、私は彼の黒髪にそっと指を滑らせる。
彼はほんの少し、気恥ずかしそうに目を逸らしながらも、私の手を離さなかった。
この温もりを、ずっと感じていたい。
そして、これからも、もっとたくさんの彼の笑顔を見ていきたい。
そんな想いが、静かに胸の奥に芽吹いていくのを感じた。
◇ ◇ ◇
二人の間に流れる穏やかな時間。
手を繋ぎ、肩を寄せ合いながら、その後も他愛もない話を続けていた。
けれど、ふとした瞬間、ノクス様が小さくあくびを漏らした。
その様子を見て、私は心の中で「そろそろ効いてきたかしら」と密かに思う。
今日、私たちが飲んでいたハーブティーには、リラックス効果とともに、自然な眠気を誘う作用があった。
それを選んだのは、もちろん私。
昨日はしっかり休んだとはいえ、彼はまだ病み上がり。加えて、過去の話を打ち明けたばかりで、きっと精神的にも疲労が残っているはず。
だからこそ、私は彼を少しでも休ませてあげたかった。
(気づけばすぐに無理をしてしまうのだから。これからはもっと注力して見ておかないとね)
「ここは、ちょうど心地よいですし……少し寝てはいかがですか?」
そう言いながら、近くにあったクッションを膝に置き、やさしく促す。
ノクス様は一瞬こちらを見つめた後、何も言わずにそのクッションの上へと頭を乗せた。
広々としたソファーなら、彼の背丈でも無理なく横になれる。
(寝苦しくないかしら……?)
そう思っていた矢先——仰向けになった彼が、下から私をじっと見つめてきた。
金色の瞳がゆっくりと瞬く。
その様子が、なんだか可愛らしく思えて、つい微笑んでしまった。
(可愛い……)
そして、彼の黒髪にそっと指を滑らせる。
さらさらと流れる漆黒の髪。
心地よい手触りに癒されるのは、きっと私のほうなのだろう。
やがて、彼のまぶたがゆっくりと閉じていく。
少しでも安らげるようにと願いながら、私はいつものようにそっと額に唇を寄せた。
「おやすみなさい、ノクス様」
囁くように告げると、彼はわずかに微笑み、安らかな寝息を立て始めた。
それから、しばらく。
モゾモゾと動いたかと思うと、彼は仰向けからくるりと横を向き、私の膝の上から顔を寄せた。
ちょうど、私のお腹のあたりに。
そして、まるで離れたくないと言わんばかりに、空いていた片腕を伸ばし、私の腰をぎゅっと抱きしめる。
その仕草が、どこか幼い子供のようで。
思わず、くすっと小さく笑ってしまった。
「ふふ……本当に可愛らしいんだから。私はどこにもいきませんよ?」
けれど、そんな彼の姿が愛おしくて。
(しっかり休めますように)
そう願いながら、私は彼の黒髪を、そっと撫で続けたのだった。
今日は4話分書けたので走り切りました……!
明日で60話まで目指す!ぜひ読んでいただけたら嬉しいです( ᐢ˙꒳˙ᐢ )




