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「ノクス様は、雨がお嫌いなのですか?」


私は、窓の外でザーザーと振り続けている雨を見ているノクス様にそう問いかけた。


「雨……というか、この時期は、あまり好きではない、ですね」


そう呟くノクス様。


「なぜです?」


そんな彼に優しく問いかけた。

すると、ノクス様は「………なぜ」とまるで自分自身に問いかけるように呟きながら、少し考えるようなそぶりを見せた。



そして、私の「なぜ?」という質問には答えずに、目線を窓から私へと戻して言った。


「………なぜ、あなたはこの黒髪を厭わないのでしょうか……」


続けて言う。


「さっき、転んだノエルに心配そうに駆け寄るあなたを見て、本当に黒髪のあの子を心配し、慈しんでいるんだと感じました。この、皆が嫌悪する黒髪を綺麗だと、そんな色を持つ私とノエルを愛していると、家族なのだと言うあなたの言葉が、私の願望からくる夢幻なのではなく、本当に本物なのだと思う度に、よくわからなくなる……」


その表情は、迷子の子供のようで、そんな様子に私は胸が痛くなる。


「私の言うことが信じられませんか?」


「いえ、アイリスはきっと、本心から私たちを愛してくれているんだと言うのはわかるんです」


「でも…」と言ったように彼の金色の瞳が揺らぐ。


「私の母は、私のことをいつも疎ましく思われていました。お前のようなものを産んだことは私の人生最大の汚点だと、汚らしく悍ましいその黒髪が憎らしいと、いつも言っていました。この梅雨の時期は、特に雨の日に、母上は……」


そこまでいって、彼はびくりと身体を震わせた。少しの沈黙の後、ノクス様はまた、窓の外の雨を見ながら抑揚のない声で言った。


「雨の日は、母上の声が聞こえる気がするんです。お前など生まれてきたことが間違いだったのだ、人間以下の出来損ないが人間のように振る舞うなんて、お前のような化け物は誰にも好かれない……そう言っていた声が、母上はいないはずなのに、雨音と共に聞こえる気がして」



(この人は、どれだけ傷つけられてきたんだろう)



彼の幼少期の母からの言葉があまりにも酷くて、それを淡々と話す彼にも悲しくなって、胸が切なくなる。


ふと、彼の手がかすかに震えているのが見えた。

私は、思わずその手を両手で握りしめた。



私に握られたことに驚いたのか、弾かれたように目線を私に戻すノクス様。

その金色の瞳は、悲しく孤独な色に染まっていた。



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