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ついに、ノエルの誕生日がやってきた。


私が選んだのは、明るい青から深い青へと移り変わるグラデーションのドレス。まるで夜空に瞬く星々を映したかのように、金糸の刺繍が煌めいている。髪には、シャノワールの方でで作った黒を取り入れた髪飾りを添えた。ブラックダイヤモンドが散りばめられた金の装飾は、ハーフアップにまとめた髪に美しく馴染んでいる。


そして、仕上げに昨日、旦那からもらった金の薔薇を手に取った。それを耳の上に飾ると、鏡に映る自分の姿が一層引き締まる。


(うん、バッチリね。髪飾りとよく合うわ)


侍女たちが皆、美しい仕上がりだと口を揃え、仕上げを手伝ってくれていたアンドレアも「美しいです、姫様」と誇らしげに微笑んだ。


それに「ありがとう」と返しながら、仕上がりに満足していると、扉をノックする音が響いた。

今日の主役、ノエルだった。


彼の装いは、私の目の色とよく似た深い青を基調としたもの。刺繍の細部まで丁寧に仕上げられたその衣装は、彼の金色の瞳と黒髪を一層引き立てている。


「まぁ、ノエル。いつも可愛らしくてかっこいいけれど、今日は一段と素敵ね」


そう言って頭を撫でると、ノエルは目を細めて心地よさそうにしながら、「アイリス様も、今日も綺麗」と微笑んだ。


「ありがとう」


そう微笑み返し、そろそろ時間ねとノエルの手を取る。


今日は、城の食堂でささやかながら温かい誕生日パーティーを開くことになっていた。ライナー、ジェフリー、ノーラ、ジェラール、そして私の側近たちであるレオとヴィヴィとアンドレアなど、その他もノエルに日頃から関わりのある人々が集まる。


手を繋いで廊下を歩いていると、ノエルが私の耳元に輝く金の薔薇に気づいた。「それ、初めて見た」と言うので、「ノエルのお父様がくれたのよ」と答えた。

するとノエルは少し考え込んでから言った。


「僕もいつか、お父様に負けないくらい美しいものをアイリス様にプレゼントする!」


宣言するように言った言葉と、可愛らしい張り合いに思わず笑いながら、「楽しみにしているわね」と返す。そんなやり取りをしながら、会場へと向かった。


「さぁ、開けてごらん?」


ノエルの背中をそっと押す。すると少し緊張した面持ちで扉を開くノエル。


その瞬間——。



パーン!



クラッカーの音が部屋中に響き渡った。驚いたノエルは思わず「わっ!」と声を上げる。続いて、部屋に集まった皆が一斉に「お誕生日おめでとう!」と声を揃えた。


ノエルの頬が嬉しそうに赤く染まり、興奮気味に「わぁ、みんないる!」と瞳を輝かせる。そして、少し照れながらも、皆に向かって笑顔で「ありがとう!」と元気に言うのだった。



◇ ◇ ◇



パーティーはその後、食事をしたり、ゲームをしたりと楽しい時間が続いた。


ノエルはレオとジェラール、二人とすっかり打ち解けたようで、今は三人で何やら楽しそうに話している。その様子を私は微笑ましく見つめていた。


(ふふっ、楽しそうでなによりだわ)


そんな折、ふと視線を感じて振り向くと、シックな濃い青の装いでバッチリ決めたノクス様がこちらへ歩いてきていた。彼もまた、少し離れた場所で楽しそうにしているノエルを見つめながら、静かに言葉を紡ぐ。


「疲れていませんか?」


その問いに、私は軽く首を横に振った。「問題ありません」と答える。

するとノクス様は安心したように頷き、今度は私の髪飾りに目を移した。


「その薔薇、つけてくれたんですね」


「ええ、もちろん!どうです?似合いますか?」


その問いかけに、ノクス様は迷いなく「お似合いです」と答えた。

彼の金色の瞳が、柔らかく揺れる。


「また何か贈ってもいいですか?」


「まぁ、またくださるの?もちろん、ノクス様がくれるものなら何でも嬉しいですわ」


そう返す。


(でもそうね…せっかくなら……)


ふと私は思い立ち、彼を見つめながら言った。


「今度、薔薇をまた作る機会があるのであれば、黒薔薇が欲しいですね」


(この金の薔薇と一緒に髪飾りにしてつけたら、ノクス様とノエルみたいでとっても素敵よね!)


私のそんな言葉に、ノクス様は少し目を開いて驚いたような表情を見せる。そして、何かを考えるように一瞬沈黙した後、「考えておきます」と静かに答えた。


「ふふっ、期待していますわ」



それから、しばらく二人で無言のまま、楽しげなノエルを見つめていた。

そして、不意にノクス様がポツリと呟く。


「ノエルは良い母親を持って、幸せ者ですね」


その言葉に、思わず彼を見上げる。

彼の顔はいつものように無表情だったが、その金の瞳の奥には、深い悲しさと寂しさ、そして孤独が隠れているように思えた。彼は時折こんな目をすることがある。そして今日は、そこにわずかに羨望の色も滲んでいる気がした。


私は何も言わず、ただ静かに彼を見つめた。そして、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「ノクス様も良い父親ではないですか」


ノクス様はわずかに目を細めた。


「しっかり自分の息子と向き合い、時間を共にしてくれています。その努力はきっと、あの子にも伝わるはずですわ」


「……私は良い父親になれているのだろうか」


彼の呟きには、不安が滲んでいた。


「そもそも、家族というものがどういうものなのかも、よくわからないのに」


(不安なのね……。でも、少しずつだけれど、こうやって自分の気持ちを教えてくれるようになったのも、きっと前に進んでいる証拠だと私は思うのだけれど)


私は、そっと彼の手を取る。そして、穏やかに微笑んだ。


「大丈夫ですよ。まだこれからたくさん時間はありますわ。たった数ヶ月でも、私たちなりの家族の形を作ってこられたと思うの。一緒に進んでいきましょう?」


その言葉に、ノクス様の表情がわずかに和らいだ。微かに安堵するような、そんな表情だった。



◇ ◇ ◇



誕生日会も終盤に差し掛かり、プレゼントを渡す時間になった。


参加者たちは順番にノエルへ贈り物を手渡していく。レオからは、遠い国の物語が描かれた美しい装飾の本。


「ノエル坊ちゃん、これは姫さんも好きだったしきっと坊ちゃんも気にいるんじゃないかと思って」


「アイリス様も好きだったの?」


「ありがとう、レオ」


「どーいたしまして!」


ジェラールからは、北の国の面白いおもちゃ。


「ノエル様、あなた様は賢い方なので、これもきっとすぐ使いこなすことができるでしょう」


「ありがとう!」


他にも様々な贈り物が積み重なり、ノエルの周りは色とりどりのプレゼントでいっぱいになった。


(そろそろ私たちの番かしらね?喜んでくれるといいのだけれど……)



そして、いよいよ私たちの番になった。


「さぁ、ノエル。開けてごらん?」


私がそう促すと、ノエルは嬉しそうに布を取る。

その瞬間、部屋に小さな驚きの声が広がった。


布の下から現れたのは、白銀に輝く美しい子供用の剣。まだ幼い彼の手に馴染むよう軽く、しかし精巧に仕上げられている。


ノエルは目を輝かせながら私を見上げた。


「これって……!」


「まだ大人の騎士たちの持つ剣は難しいけれど、これで剣の練習をしたら、きっとあの物語の騎士のようになれるんじゃないかしら?」


そう言って微笑みながら彼の頭を優しく撫でる。


「期待しているわ、私の小さな騎士様?」


その言葉に、ノエルは頬を赤らめ、満面の笑みで「ありがとう!アイリス様」と嬉しそうに言った。


続いて、ノクス様の番だった。


彼が何を用意しているのか私は聞いていなかったので、何だろうと興味を持って見守る。ノクス様が取り出したのは、私が用意した剣に合わせた色合いの防具一式だった。


(なるほど、それで私がデリーの工房へ行った時にも着いてきたのかしら?私の贈り物に合わせられるように)


やっぱり彼はよく気が回る人なのだと、改めて感心してします。剣と一緒に防具一式揃えば、本格的でなくても剣の稽古などができるようになるだろう。


ノエルは防具を見つめ、驚きと喜びが入り混じったような顔をする。


すると、ノクス様は無表情のまま、静かに言葉を紡いだ。


「……今度の休みから剣の稽古でもしてみるか?」


ノエルは目を丸くし、思わず「えっ!」と声を上げる。私も思わずノクス様の顔を見つめた。


(あら、ノクス様がこんな風に誘うなんて)


しかし、驚いたのも束の間、ノエルは次の瞬間には満面の笑みを浮かべ、防具と剣を抱きしめる。


「よろしくお願いします、お父様!」


その言葉を聞いた瞬間、場の空気が柔らかくなる。

周囲の大人たちは、微笑ましい光景を静かに見守っていた。


(いい一日になったかしらね…?)


そう思いながら、私はノエルに問いかける。


「ノエル、楽しかった?」


「うん!」


ノエルは元気いっぱいに頷いた。そして、続けて言った。


「ありがとう!…………お母様!」


その一言に、私は驚いてノエルを見つめる。


お母様。

初めて、ノエルが私をそう呼んだ。


一瞬言葉を失う私に、ノエルは少し不安そうに聞く。


「アイリス様のこと、お母様って、呼んでいい?」


私はすぐに笑顔を取り戻し、そっとノエルを抱きしめる。


「もちろんよ」


そして、心からの想いを伝えた。


「あなたは、私の自慢のさいっこうの息子なのだから!!」



ついにノエルがアイリスさんをお母様呼びすることに成功!

息子の方はここを持って一区切りついたような感じとなります……!


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