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引き続きノクス様とノエルの服選びは続いていた。


私はケイシーとともに、あれこれと唸りながら、並べられた衣装の最終確認を進めていく。どれも私がフルオーダーしたものばかりで、二人に似合うよう計算されたデザインが施されている。


ただし、今回の衣装には黒を一切取り入れていない。


私は黒という色が好きだ。黒髪が好きだし、その黒髪を持ち生まれ落ちたノクス様とノエルを愛している。けれど、ノクス様とノエルにとっては、自分が忌避される象徴の色であり、過去に彼らを苦しめてきた存在でもあった。だからこそ、今はまだ黒を彼らの衣装に取り入れるつもりはない。ゆくゆく、彼らの心情が落ち着き、黒という色に対しての苦い記憶が和らいだ時に、自然と取り入れられるようにしていきたい。今はまだ、その時ではない。


別途、作成中のブランド『シャノワール』用の衣装には黒を織り交ぜたものもあるが、それはあくまで商品としての展開の一環である。もちろん、旦那と息子にも似合うデザインにはしているが、今回の私の意図とは別物だ。当初、二人に似合う服ということで始まったシャノワールは色々と試行錯誤しながら進めていくうちに、まずは黒をこの大陸で身近なものにするという意図で進んでいった。


(もちろん、『シャノワール』の方の服も二人には一点もののフルオーダーを着せるわ)


私は密かにそう意気込みつつ、目の前の衣装に視線を戻した。


「さて、ノエル、どれが気に入った?」


私は屈み込みながら、ノエルに問いかけた。


すると、彼は迷うことなく一つの組み合わせを指差す。

淡い紫と、サファイアのような青が取り入れられた衣装。


それを見て、私は思い出した。前回の既製品の服選びの際に、ノエルが気に入った色合いとまったく同じだ。どうやら、やはり彼の中では私の色が好きだという気持ちは変わっていないらしい。


「まあまあ! それは、ノエル坊ちゃんが以前、姫様の色が好きだって言っていたから用意した自信作よ!」


ケイシーが嬉しそうに声を上げた。

ノエルの気持ちを汲んで作られた衣装。


(さすが、ケイシーね)


彼が私のことをこんなにも好きになってくれていることが嬉しくて、私は彼の頭を優しく撫でる。


「じゃあ、それで決まりね」


するとノエルが満足そうに微笑む。その様子が愛らしくて、私は自然と口元を綻ばせた。



さて続いては、ノクス様の番だ。


「ノクス様は、何か気になる服はありましたか?」


私の問いかけに、ノクス様はしばらく考え込むように視線を彷徨わせていたが、やがて、一つの衣装を手に取った。


深い青に、銀の刺繍が美しくあしらわれた衣装。


それは、私がリクエストした色合いの一つだった。


「……私は、これがいいです」


彼は小さく呟くようにそう言った。


(うん、やっぱり似合いそうだわ。最高にカッコよくなること間違いなしね)


深い青は、彼の端整な顔立ちをより際立たせる色だろう。彼の持つ冷ややかとも言える美貌にぴたりと調和する。イメージにピッタリだった。


「では、それに決めましょうか」


こうして、二人の衣装が決まった。


誕生日の宴を彩る、特別な衣装。

私は、その姿を目にするのが今から楽しみで仕方がなかった。




さて、二人の衣装が決まったことだし、私も彼らに合うドレスを後で選んでおこう。


そう思っていた矢先、じっとした視線を感じる。ふと顔を上げると、ノクス様とノエルが全く同じ表情で私を見つめていた。


「どうかしました?」


問いかけると、ノクス様が静かに口を開く。


「次は、アイリスの番です」


「私の?」


思わず首を傾げる。


「二人の衣装が決まったんですし、私はそれに合わせて決めておくので、後ででも……」


そう言うと、今度はノエルが前のめりになって声を上げた。


「僕も、いろんなドレスを着たアイリス様が見たい!」


きらきらとした瞳で懇願されると、断る理由がなくなってしまう。


「うふふ、いいじゃない姫様!」


ケイシーが楽しげに笑い、大量のドレスを運び込んできた。


「まあ……!」


思わず目を見開く。


色とりどりのドレスが次々と広げられ、どれも華やかで美しい。きっとこうなると思ってしっかりバッチリ用意してきているケイシーに私は驚く。


(……仕方ないわね。愛する旦那様と息子のために、今日は着せ替え人形になりましょうか)


そう決意し、試着を始めた。


次々とドレスを身にまとい、鏡の前でくるりと回る。

ふわりと広がるスカート。

繊細な金糸の刺繍が光を反射し、優雅に煌めく。


「これもいいわね。綺麗だわ」


鏡の中の自分を見つめながら呟く。


すると、ふと鏡越しに映る二人の姿に気づいた。

ノクス様とノエル。


じっと私を見つめている。


(二人ともなんだか真剣ね……!)


「どうです?」


振り返りながら問いかける。


「とっても綺麗!」


ノエルが弾けるような笑顔で叫ぶ。


「……お綺麗です」


ノクス様、静かに、だが深く感情を込めた声でそう言った。


二人の言葉が嬉しくて、私は満面の笑みを返した。


今、私が着ているのは、二人が選んだ衣装の色に似たドレス。


ノエルの選んだ少し明るめの青から、裾に向かうにつれノクス様選んだ衣装と同じ深い青へと変化する、美しいグラデーション。


そこに金色の刺繍が夜空の星のように広がり、幻想的な雰囲気を醸し出している。


(そういえば……)


先日完成したばかりの黒の宝石を使った髪飾りが、このドレスに合うかもしれない。

そんなことを思いながら、私はケイシーに向かって言った。


「では、私はこれに決めたわ」


こうして、3人の明日の衣装が決まったのだった。



◇ ◇ ◇



明日の装いも決まったところで、私は次の予定を考える。


そう、次はノエルの誕生日プレゼントの剣を確認する予定だ。


数回ほど打ち合わせを重ね、剣職人のデリーのもとで制作を進めていたその剣。全体的に白く、ところどころ金の装飾が施された美しい魔剣に仕上がって、光属性の魔法がしっかりと付与されていると聞いている。今日、その完成品を確認するため、再びデリーに会う予定でいたのだ。


そして今日は、前回工房へ向かった時と同様にノクス様も同席することになっていた。


デリーが城に到着するまでには、まだ少し時間がある。その間に仕事でも片付けようかと考え、書類を手に取ったところで、部屋の扉が静かに開いた。


入ってきたのはのクス様だった。


「あら、ノクス様。どうしました?」


彼がこの時間に来るのは珍しい。仕事の方は大丈夫なのかと尋ねる。


「その……アイリスに、渡したいものがあります」


ノクス様はそう言った。


「………?なんでしょうか」


私が問い返したその瞬間、部屋の外からアンドレアの声が響いた。


「姫様、剣職人の方が到着いたしました」


どうやら、予定よりも早く来たようだ。


私とのクス様は同時にアンドレアの方へ視線を向ける。


「そうですね……。もしよろしければ、今日の夜に改めて時間を取りませんか?」


せっかく渡したいものがあるというのに、ここで話を切るのは惜しい。そう提案すると、ノクス様も少し考えた後、


「……その方が良さそうですね」


と静かに頷いた。


そうして私たちは、デリーのもとへと向かうことにした。


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